過去編2話「軌跡と拠点と」
「…ここ、…どこ?」
目を覚ますと知らない天井が見えた。
横に顔を向けるとここまで連れて来てくれた少女が分厚い本を読んでいる。
特徴的な緋いローブとシャツを脱いで、下着だけの薄着だった。
相変わらずかすれた声の、私のつぶやきに少女が答えた。
「私達の拠点よ。」
少し警戒しながら疑問を問う。
「あなたは.....誰?.....なんで、私なんかを、拾った....の?」
「そう急かないでも答えるよ。」
「私は吸血鬼のフィル・リコレット。ある目的のために寄り道.....協力者を集めているの。」
「あなたを拾ったのもその一環。これが理由その1」
「2つ目は人こ......やっぱり秘密。何年後か、覚えてたら話すよ。」
恥ずかしがるように頬を染めた。
間髪入れずにフィルは聞いてくる。
「ねぇ、あなたはなぜあそこにいたの?」
「捨て、られた。私が、黒髪だから。」
悲しみと、怒りと、憂いと、今更な焦燥とが混ざり、声が震える。
「ねぇ、あなたはもっと幸せに暮らしていたかった?」
「もちろん。」
考える前に答えていた。もっと声を上げて走り回って、石なんて投げられずに毎日を過ごしたかった。
「髪色一つで迫害される理不尽なんて、全て滅びてしまえばいいと、想わない?」
無言でうなずく。
私が父親に似た茶色の髪に生まれていれば何も問題はなかった。
「だから、そんな理不尽を塵みたいに吹き飛ばすために、私は、あなたの手を取ったの。」
「その先で私たちはとびっきりの幸せを手に入れるの。とっても、素敵でしょ。」
そんな言葉で言われたら抗えない、いや、付いて行くしかない。たとえ地獄の片道切符だとしても。
「あなたのこと、教えて。私のことも教えるから。」
喋った。生まれてからこれまでのことを。何一つ、嘘偽りなく。
聞いた。生まれてからこれまでのことを。誓った、付いて行くと。
一息ついてフィルは話し出す。
「ねぇ、辛かったよね。苦しかったよね。ん、大丈夫。私は離れない。裏切らない。」
そういって抱き着いてくる。
「私、汚いよ....汚れちゃう。」
「気にしないよ。だってあなたは、私の大事な....”妹”、だから。」
そういわれた瞬間、姉様に拾われるまでの全ての記憶がが色褪せた。
終わったのだ。
ご飯が食べられなくて、木をかじることも。
石を投げられて、傷つくことも。
お母さんに、優しく撫でられることも。
全て、もうない。
理解した。
でも、胸に溢れる感情の名前がわからない。胸を締め付けて、息を詰まらせる感情が、
ずっと前に感じたことがあった気がする。わからない。
「ぅぁ....ぁぁっ.....なん、で.....?..........わかん、なっ......ぃょ......」
「今は気が済むまで泣きなよ。何も気にしなくていいから。」
泣いた。視界が涙で揺れる。声が抑えられない。
悲しいわけじゃない。
痛いわけじゃない。
わからなかった。名前がーー。
「苦しかったんだよね。辛かったんだよね。愛して、ほしかったんだよね。」
「大好きだよ。ラピス・エレクトリア。私の、大切な妹。」
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その後、亜人同盟会の設立を手伝って、
アルビノの吸血鬼を追って、
邪魔をする傭兵団を幾つも壊して、潰して。
日々は目まぐるしく過ぎている。
月が70回以上は満ちた。
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「んんっ、懐かしい夢。今日も頑張ろっ!!」
カーテンを開いた。
目の端に溜まっていた涙を軽く拭う。
太陽は今日も、輝いている!
過去編-了-
過去編でした。
フィルのほうも要望があれば書くかも。
☆補足&設定☆
フィルの読んでいた分厚い本は結構有名な冒険物語(微百合)。




