1話「二人の少女と鏖殺」
一話目なので長めです。
「ねぇ、貴女。」
五感が麻痺するほどに痛む体を動かし、声の主を見る。
...体格に合わない大きな、深紅のローブを着た、まだあどけなさが残る少女が、立っていた。
「私と、一緒に来ない?」
悪いようにはしないわよ、と少女は言う。
コレは私が最後に見る都合の良い幻覚か、
と回らない頭で考え始め、すぐに中断する。意味のないことだからだ。
ここで果てるぐらいならついて行ってもいいか、救われるなら尚良し。
と脊髄反射で結論を出し、手を伸ばす。
「行......く......」
掠れた声の私の返事に、少女はニッコリと笑い、私の手を掴む。
「じゃあ行きましょう。」
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外の景色を溶かしながら、規則的に揺れる汽車に二つの人影が在った。
片方の影は鮮血のような紅い色のローブを目深に羽織っている。
膝の上で重ねた手は細く、白く、ガラス細工のようだ。
もう片方はローブの影に寄りかかるようにした少女で、
整った顔を今は安心しきったように、ほころばせている。
珍しい闇のような艷やかな黒髪に、藍色の髪紐をつけている。
首には金色のネックレス。
二人の呼吸と汽車の振動だけが響いている。
終わりかけの秋の端には冬の欠片が見え隠れしていて、
空だけを観るともうすっかり真冬である。
ゆっくりと減速する汽車。外の景色が固まる。扉が開く。
ローブを着た影が喋る。声変わりの済んだ、
だがまだ子どもと言えるような年頃の少女の声だ。
「起きて。行くわよ。ラピス。」
ラピスと呼ばれた黒髪の少女は、弾むような声色で答える。
「はい、了解しました♬。」
少女達は汽車を降り、駅から離れた場所にポツンと建つ、古めかしいビルに入る。
外観に反し、中はきれいで管理が行き届いている。
ロビーの真ん中に背中合わせの椅子があった。
右には西部劇のような格好をして新聞を読む男が、
左には男と似たような格好の高速でペン回しをする女性が座っている。
ペン回しをしていた女性が二人に気づいた。
「お前ら、ここに用事か?」
無感情に目線だけを向けて言う。
それにローブを着た少女が答える。
「ええ、一番上のお偉いさんにね。」
それを聞いた女性は目を細める。
二人の交わす言葉は、静かに熱を帯びていく。
「今日は訪問の予定はない。お引き取り願おうか。」
「嫌よ、退いて頂戴。貴方に用はないもの。」
「はっ、お前の事情は知らねぇよ、オレの仕事はここを通る人間の選別だ。」
ゆっくりと足音を立てて、近づく少女。
「そんなこと、知らないわ。いいから退いて頂戴。怪我したくないでしょう?」
「忠告はしたぞ。それにな、お前みたいなのに怪我させられるほど、やわじゃねぇんだよ!!」
女性は言葉による説得を諦めたのか、声を荒らげ突っ込んでくる。
「はぁ、説得に成功したことってないわよねぇ。」
突っ込んできた女性に対して、空を握るようにして腕を振るう。
その動作に何を感じ取ったのか女性は後ろに跳び退いた。
「...何だ、その手は?何かあんのは解んだが....棒か、剣ってトコか?」
「教えるわけないでしょう。それに、当たったら解るわよ。」
ローブの陰から見える少女の口が三日月のように笑う。
「はぁ?怪我すんだろが...」
そんな事を言いながら女性は腰に吊っていたナイフを投げ、鞭を振るう。
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二人の一進一退の攻防を横目に黒い髪の少女は問う。
「貴方は戦わないんですか?」
男は相変わらず新聞に目を向けたまま、返す。
「お前こそどうなんだ?俺は”ここに居とけ”としか言われてねぇ。
それに今は戦う気分じゃねぇしな。...新聞燃やされたら別だが。」
横で戦闘をしているとは思えないようなテンポで、二人は会話を続ける。
「あの程度、姉様なら余裕で倒せますから。貴方と戦わないなら。私は傍観で十分です。」
「ほう?じゃあなんであんなに時間をかけてんだ?一発でヤりゃいいだろう?」
「準備運動のつもり...なんだと思います。いつものことですよ。」
「...ずいぶん仲がいいんだな。見たところ髪も目の色も違う、血縁じゃないんだろ?」
「えぇ、でも私の”唯一”で”一番”大切な家族です。」
「そうか。俺はそんなに人を信頼したことねぇから、細けぇことはわかんねぇな。」
戦闘が終わった瞬間に言葉が途切れたのは、偶然か必然か。
「戦闘が終わったようなので。さようなら。敵対することのないよう、祈っておきます。」
「それは俺等が決めることじゃねぇよ。」
二人は階段を登る。男は終始新聞から目を離さなかった。
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19階———最上階一歩手前の敵を倒しきり、一息つく。
部屋は真紅に染まり、紅くないのはラピスただ一人。
無感情に部屋を眺め、呟く。
「多い割に弱いわね。」
「弱いから群がっているだけでは?」
「...そうね。そうだといいのだけれど。」
二人は階段を登り扉を開ける。
そこにはワニを彷彿とさせる風貌を上等なスーツで包んだ男が居た。
「ここまでされて、最早くれてやる言葉はない。散れ。」
男はそう言うと、銃をこちらに向けて撃ってきた。
弾は先ほどまでの戦いで、紅色を増した少女のローブに当たる。
そして、さも当然のように弾かれた。
少女は気にもかけずに男に歩み寄り、腕を振るう。
壁と机が切り裂かれたように壊れる。
「.....お前らが追っていたアルビノの吸血鬼の居場所を吐け。」
静かに少女は言う。
ローブから覗く紅い目は深い後悔と怒りで、確かに光って見えた。
「....都市伝説は本当だったんだな。今代最強の吸血鬼、フィル・リコレット。」
質問には答えずに、男は少女を、フィル・リコレットを見つめて言う。
それに明確に怒気を孕んだ声で返す。
「問いに、答えろ。」
一呼吸ほどの静寂が生まれる。
唐突に男は通信機のようなものを取り出し叫ぶ。
「契約通りだ!やれ!全て壊せ!」
ギンッ!!
鉄が硬い物を断ち切る様な音がした。
次の瞬間床が、部屋が、いや建物が軋み、ゆっくり、しかし確実に傾き出した。
少しずつ棚や机から、物が落ちる。灯りの蝋燭が揺れる。
舌打ちとともに男を即座に切り捨て、吸血鬼の少女、フィルは言う。
「ラピス、私が出たらこの建物を全て燃やし尽くしなさい。頼んだわよ。」
「わかりました、フィル姉様。」
フィルは窓を開け、流れるように飛び降りる。
それを見届けたラピスは、右手でライターを取り出し、火を付ける。
そして、左手でネックレスに触れ目を閉じる。
瞬間、火が膨れ上がり、床を、部屋を、階段を、建物内部を全て包み込んで行く。
明らかにありえないような速度で燃え広がった火は、
全てを飲み込み、溶かし尽くしていく。
その炎の中で、無傷のラピスは魔法使いのように炎を操り、足場を作る。
ゆっくりと降下していく足場を中心として、炎が消えていく。
全ての炎が消え、足場にしていた炎が逆再生のようにライターに戻っていく。
ネックレスから手を離し、目を開けたラピスは上を見る。
夕暮れ時のきれいな空が見える。
足元には白い灰になった床と天井があった。
しばらくした後、頭や服に積もった白灰を払いつつ歩き出す。
気づくと傍に窓から飛び降りたはずの、フィルが居た。
「やられたわね、隠れていたやつが居たみたい。」
「一階のもう一人でしょうか?」
「...何を言っているの?一階には一人しかいなかったわよ?」
「居ましたよ。私、彼と喋りました。間違いないです。」
「...なら魔道具ね、一定条件で認識を阻害する類の。また、面倒な...」
そこで会話を区切り、地図で行き先を確認し再度歩き出す。
数十分後街の端の大きな建物に着いた。
建物に掛かる表札に彫られた名は『亜人同盟会』。
その大きな引き戸を開ける。
満月が昇りだした夜空に、リンと高く鈴が鳴った。
1話「二人の少女と鏖殺」END…To be continued
コンクリ跡形なく溶けた......?(粉々になった)
☆補足&設定☆
魔道具とは
様々な効果を持つ道具のこと。
使用するには魔力が必要。
その為、ほとんどの人は三つまでしか同時に使えない。
この世界、魔法があるかも?
ラピス・エレクトリア(ラテン語で”石”を意味するlapisと”琥珀”を意味するelectriから)
主人公。この世界では珍しい黒髪に琥珀色の目をした少女。
火を操れる?藍色の髪紐(色は重要じゃない)と金色のネックレスをつけている。
フィルとは血は繋がっていないが実姉のように慕っている(フィルを貶すとキレる)。
家族の行方はーー (詳細は後々)
フィル・リコレット(英語で”満たす”を意味するfill、“思い出す、偲ぶ”を意味するrecollectから)
今代最強の吸血鬼。アルビノの吸血鬼(詳細は後々)を追う。
紅いローブは”血を吸えば吸うほど性能が上がる緋色の布”
という魔道具を使っている。とっても丈夫。
舐めると吸血鬼でも咽返るほどの血の味と匂いがする。
細かい容姿はまた今度。(詳細は考えてあります。)
武器は”所持者以外に見えない直剣”という魔道具。
実は一階の男はフィルには見えていませんでした。
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