魔女とヒキガエル王子
ある日、魔女が森を歩いていると、一匹のヒキガエルが話しかけてきました。
「おい! そこの魔女!」
「あら? アタシのこと?」
「そうだ! お前のことだ! 俺を元に戻せたら、お前を妃にしてやる!」
「妃って、アナタ、王子サマ? ああ、この国の王子サマって、確か、神の試練を受けていたわね」
「神の試練じゃない! 呪いだ!」
「影響が同じでも、神の試練と呪いは別物よ」
「神の試練だか何だか知らんが、さっさと、元に戻せ!」
「元に戻しても、神の試練は終わらないわよ」
「いいから、元に戻せ!」
「魔女に神の試練は終わらせられないから、自分で何とかするのよ。――◯×△□」
心優しい魔女は王子の姿を元に戻してあげました。
しかし、魔女にできるのは、本人が言う通り、王子を人間に戻すことだけでした。
「おお! 元に戻ったぞ!」
元に戻って大喜びの王子は、魔女の言葉をすっかり忘れていました。
「約束通り、妃にしてやるから、待っていろ!」
「ハイハイ」
去って行く王子に魔女は適当に返事をしました。神の試練が始まっているのです。迎えに来る余裕があるとは思っていないのです。
魔女にとって、王子の恩返しなどどうでもいいことでした。
魔女にとって頭を悩ませていることは、母親を亡くし、後妻と異母妹、父親に虐げられている少女のことでした。
少女の家の元使用人たちに頼みこまれていました。
ただの庶民なら、魔女が弟子にと言えば、簡単に差し出してきますが、貴族は子女を魔女の弟子になど出すことを恥と考えています。
貴族は魔女に助けを求めても、魔女とは親しく付き合いたがらないのです。用があれば贈り物をして頼み事をするだけで、庶民のように隣人付き合いはしないのです。
どうやって、少女を家から救い出すか。
魔女はずっと悩んでいました。
ある日、魔女の所に王子の遣いが来ました。
「お前のような魔女が王子の妃など烏滸がましい! お前の夫など、こいつで充分だ!」
そう言って、王子の遣いに引き摺られて放り出されたのは、どう見ても、スラムで拾ってきた孤児の少年でした。
「どうも、ありがと〜! 王子サマに御礼を伝えておいて〜!」
「フンッ」
王子の遣いは鼻で笑って帰って行きました。
国に縛られてはいけない魔女は、王子の妃には絶対になれなかったので、厄介事が勝手に解決した、と思いました。
そして、孤児の少年を見て、良い解決策を思い付きました。
「ネエ、アナタ。名前はなんて言うの?」
魔女は孤児の少年に虐げられていた少女を駆け落ちを装って連れ出すように頼みました。
そして、二人は恋に落ちました。
初々しい、両片想いの少年少女との同居など、独り身の魔女にとっては地獄のような環境でした。さっさとくっつけばいいのに、もじもじしている二人に魔女は生温かく見守っていられる気分ではありません。
「家主のアタシが邪魔者みたいなんですけど」
ぼやく魔女に、少年と少女は必死に邪魔なんかじゃない、恩人だ、と説得する光景が繰り広げられました。