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7話 求めるもの


 翌日――


 山の美味い空気とタバコを吸う。

 目的、お尋ね者解消、目標、ポリスを味方に付ける、どちらも見通しさえ危うい。


 気を取り直して、ノートパソコンを開き依頼を確認。なんとも同じような内容ばかりだ。対立に交戦にボス戦、ん? ボス戦とは、ちょっと興味。

 シンジケートを絡む御家騒動。西側と東側の幹部候補による内戦の鎮圧依頼。何だか面倒くさそう。

 両方潰せばいい話。でも幹部候補だろ、ボスは関係ないって事か? ならこのボス戦の意味は何を示すんだろう。しばらくお預けだ。

 

 私はタバコと珈琲が飲みたいと、またあのファミレスに向かう、もう常連客だ。駐車場に停めて車を降りると、私の前に男が立ち塞がった。

 また出た、ストーカー直斗。


「おっす、キーナ。やっぱ張り込んでて正解」


「何なんだよ、ハンター並みのしつこさだな」


「ハンターなんて元からやってねぇよ」


「ハイハイ左様で。じゃあな」


 直斗から逃げるように店の中へと入る。自動ドアを潜ると珍しく店員が案内に来た。

 ひとりかと聞かれ、そうだと頷く。なんだ直斗は付いて来ないのかと拍子抜けする。

 喫煙席を選んで店員の後へ続く。広いボックス席に案内され、先ずは珈琲を注文する。


 ゆっくりとタバコを吹かしていると、店員が早くも珈琲を運んで来た。すると余計なモノまで付いて来た、直斗と來斗だ。


「あ、珈琲2つ追加で。オレは兄貴を待ってたのよ」


「私は誰も待っていないのだよ」

 

 來斗と斗真が私の前に座った。ポリスに囲まれるのはちょっと複雑な気分だ。

 來斗が話しを切り出す。


「キーナに話しがある。いつも突然で悪いな」


「まあ正直、ポリスとは関わりたくないがね」


「そこだよ、お前なにか勘違いしてないか? 指名手配犯じゃあるまいし、なぜポリスを避けるんだ」


「勘違い?」


 勘違いってどういうことだ、私は"お尋ね者"、それ以外に何がある。ハンターがいい証拠だろ。


 直斗が呆れ気味に言う。


「あのな、お尋ね者ってバウンティハンターからだろ? ポリスはキーナに関与してないんだよ」


 來斗が腕組みをして言う。


「お前は殺人犯でもなければ、泥棒でもスパイでもない。ポリスに手配書は回ってないんだ、でなきゃとっくに捕まえてるよ。ポリスを甘くみるな」


 初耳だ。そう言われればハンターには狙われるが、ポリスに追われたことはない。ならこの間の來斗の態度は何だ?


「だってあの時、投降しろって、名前も知ってたし、ステーションでも顔隠せって……」


「ああ、現場に居たら誰だって仲間だと思うだろ、名前はハンター絡みなら知っていて当然だ。顔はそのう、他の奴に見せたくないからであって……」


 直斗がニヤけた顔で言う。


「はいはい二人さん、その話しはまたという事で。オレも兄貴のお陰で復職したんだ、その報告」


 直斗も正式なポリスか、それはそれで良かったと思う。ただポリスとは無関係と分かった今、無理に仲良しごっこを続ける必要はないんだな……。

 

「復職か、良かったな。せいぜい頑張れよ」


「キーナ、お前もこちら側の人間だ、俺も弟もそう思ってる。特にゴッドはな」


「ゴッド? ああ、ポリスの大御所か」


「そう、ゴッドマザーだ。ポリスの要となる重鎮がお前を連れて来いとの御達しだ」


「私を? 何で?」


「それは直接本人に聞け、いいな」


 随分と勝手に決めてくれるな――


 ゴッドマザー。

 このレゾン・テールでは、国がポリスという組織団体を民営化し、国が選抜した支配者、いわゆる権力者に(ゆだ)ねている。早い話し大富豪がオーナーだ。

 

 国が定めた法律は厳守が基本。しかしアウトラインさえ守れば、プラスαの自由は効くというのがこの仕組みの面白いところだ。

 ただ、やり過ぎればオーナー失脚が待っている。それなりに国の威厳は保っているらしい。


 しかしながら、ふたりにポリス側の人間とか言われたら、正直なところ多少の期待を持ってしまう。


 期待――

 神々が、私に力を分け与えてまで世に送り込んだのは、人間の厄介な感情や移り変わりにウンザリした、そんな意味があるのかもしれない。

 なら神はアガペー、無償の愛を失いつつあるってことか。それをアウトローの私に取り戻せと?

 何とも大層で馬鹿らしい話だ。崇拝だの崇めるだのは私の知ったことではない。

 最近の人間は誰かに頼ることをあまりしない。自分で解決するか諦めるかのどちらかだ。

 そんな人間に期待しても無駄だと私は思うがね。

 

 それより、ゴッドマザーが何を求めているのかは知らないが、私はハンターに追われようとも今の仕事を辞めるつもりはない。

 私の描くフリー・アイデンティティは譲らない。

 

 だが、チャンスが巡ってきたのは事実だ。呼び出しは、私の味方に()()では無く、ポリスの味方に()()と言う事なんだろう。

 私の一番嫌いな束縛、悪く言えば拘束だ。おそらく状況は不利。ポリスとの関係を捨てたくはないが、事と場合によっては切る他ない。


 話しが終わって、私達は駐車場でそれぞれの車に向かって歩いた。先に直斗が走り去ると、來斗が私の車に手を置いて窓を開けろと合図する。

 

「キーナ、少し話しがしたい、今いいか?」


「え、ああいいよ、何?」


 來斗が車のドアを開けスッと助手席に座った。何を言われるのかと少し緊張する。


「お前、今どこに寝泊まりしてるんだ?」


「どこって、車が我が家だ。なんで?」


 來斗が呆れた顔で溜め息を吐く――


「ハァ、まったく、我が家が移動してたら連絡取りづらいだろ、だ、だから、その……」


「何だよ、ハッキリ言えよ」


「だから、俺のところに来ないかってさぁ……」


 來斗が照れながら言う、私は突然のお誘いに戸惑う。連絡なら携帯がある、なのにわざわざ一緒に住む利点が私には見つからない。フレンドなんだろ? それに――


「俺のところって、家族と一緒に住んでるんだろ? それはちょっとねえ」


「ああ、違うよ、俺はいま一人暮らしだ。実家からしたら狭いかもしれないが、もし暇ならさ、今から観に来ないか?」


 來斗があの家を実家と言った、なら今は直斗と両親が住んでいる、でもあまりに殺風景で家族と一緒ってイメージは感じられなかったが。まあ私には関係のないことだけど。


「そうなんだ――う〜ん、行って良いなら行く。來斗の後に付いていくから先に行ってよ」


「分かった。絶対に付いて来いよ!」


「何だよ、信用ないなあ」


 私は來斗の車の後に付いて行った。來斗のイメージからして都会寄りで、やはりポリスステーションがある街ではないかと推測する。

 だとすると、ハンター対策には良い条件と言えよう。考える余地はあるな――

 

 


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― 新着の感想 ―
男の家についてくのは……。 一体どうなるのか? 桜ちゃんと同棲の方が安全な気もしますw
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