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4話 繋がり


 立ち止まっていても仕方がないと、私はトボトボと足を動かす。

 カサカサと音がしてパンを買ったことを思い出した。握りしめていたコンビニの袋からパンを取り出し、口に入れる。ながら食べは視線を誘うが気にしない。

 

 後ろからクラクションの音が聞こえた。振り返ると、あの覆パトが私の横で止まる。

 助手席のドアが開いたて來斗(らいと)が顔を出した。


「オイ、食べながら歩くな、乗れ」


「……あっそう、じゃあ遠慮なく」


 私はパンを(くわ)えながら助手席に座った。シートベルトを締めていると、ふと視線を感じた。

 來斗が私をジッと見て笑う。


「お前、面白い奴だな――なあ、さっき何であんなウソを言ったんだ? 直斗のためか?」


「……別に、間違いは間違いなんでね」


「そうか――――お前、友達が欲しいのか? 俺にそう言ったろ?」


「んー、なんていうか、君が欲しいのだよ。私の味方になってくれそうだから、でも嫌なんだよね?」


「……ほ、ほ、ほしいって、ど、どういった意味? 友達、なんだ、よな?」


 私はまた言葉の使い方を間違えたのか、しかしそのリアクションは何? ()()()ような喋り方はワザとなのか?


「あのですね、フレンド仲間として君が欲しいと言いたかったんだよ。悪るかったね」


「ハァァ、変な勘違いするだろ。とにかく、今日は解放してやる、悪さするなよ」


「悪さって何だよ。そうだ、コンビニまで送ってくれよ、車が心配だからさ」


「コンビニでいいのか? 有るといいな、車」


 來斗の最後の言葉に私は冷や汗を流す――


 私は來斗にコンビニまで送ってもらい、辺りを見回すが、予想的中で見事に車は連れ去られていた。私は頭を抱えてしゃがみ込んだ、買ったばかりの我が家。多分、犯人はレッカーを操るこいつの仲間。道路に描かれたチョークが証拠。

 

 敵さんに乗り込む? 自ら出頭ってそれは嫌。

 私はチラッと來斗の顔を伺う、なぜかクスクスと私を見てまた笑う。


「お前、ホント面白いな。弟の礼だ、車は俺が何とかする、明日またここへ来い。いいな」


 來斗は言うなり手を振って行ってしまった。こうなったのは誰のせい、あの痴漢野郎のせい。

 私は痴漢撲滅運動に参加してやろうと思った。


 それより寝床をどうするか、まだ陽は高い。ポケットの中を探るとお金の感触、用心のため多少の金を入れておいて良かったと思う。さすが私。


 ここからならあの喫茶店もそう遠くない。前回とは違い、急ぐ用でもない。たまには陽を浴びて歩くのも良いだろう。さて、気分が乗ってきたところでウォーキング開始だ。


 しばらく歩いて喉が渇いた。自販機は無いのかと思って探すと意外と見つからないものだ。

 やっと自販機を発見、買った缶コーヒーを手に、またプラプラと歩きながら考える。

 來斗に斗真、目標はポリス全体だが、先ずはこのふたりを丸め込む。この際、直斗もフレンドに昇格させよう、後は來斗だな。

 

 確か、あのオフィサーが警視と呼んでいた。ということは、監視役の司令官といったところだろう。

 それにしても警視とは、ちょっとハードルは高い。でも一応繋がりはできた。


 私に決め事や指示があるわけでもない、フリーだ。目標達成にはポリスの存在は必要不可欠。味方が無理ならせめて敵にはならないでほしい。

 先ずはできる事から始めたい――


 考えながら歩いている間に喫茶店に到着。ドアを開け周りを見渡す。客の姿はチラホラだ。それなりに営業は成り立っているらしい。

 マスターと目が合う。私はいつものカウンター席へ向かう。荷物BOXを見てハッとする。


「あ! しまった! アタッシュケースが……」


 私は項垂(うなだ)れたまま席に着いた。荷物は車のトランクの中だ、開けられる心配はないと思うが、失態。

 

 そこへまたデッドが店へやって来た。

 

「何を狼狽(うろた)えてる、お前らしくもない」


「荷物が……」


「ああ、レッカー移動されてたな。ハハ」


「観てたなら何とかしろよ!」


「ヤダよ。まあ、心配する事はない、誰もあの車を開けられねえよ。カスタマイズしたって言ったろ? お前に渡すんだ、それなりの仕掛けは当たり前だ」


「ウソ? そういえばトランク、開けるのに苦労したよ。鍵穴は無いし、レバーも無い、何あれ」

 

 そう、自分の車なのにウロウロと焦りまくった。周りからは怪しまれるし、ダサいの一言だ。


「あれは全部指紋認証だからだ。持ち主じゃ無いと開かないんだよ、そのためのボタン式だ」


「え? じゃ鍵は? 回して開けたよ」


「あれはフェイクだ、ドアノブにセンサーが付いてんのさ。そこがレトロ車の面白いところだ」


「ああ、なるほどね。へー、流石はメカニック」


「他にもまだある。フッ、そのうち分かるさ」


「えっ、私が困るんだけど……」


 面白い男だ。慣れると意外と人懐っこいし、世話焼きというか、有難い存在だ。

 だが、いつ指紋を採取したんだ、(あなど)れない。

 

 思い切って今の考えを打ち明けてみようか。冷やかされるか、馬鹿にされるかは当たり前のことで、今さら恥を(さら)したって笑い飛ばしてくれるかもしれない。ダメ元で話してみるか。


「なあ、デッド、自分の在り方の方向転換をしてみようと思ってるんだけど、今更かな……」


「……今更なに言ってんだか」


「やっぱそうだよねえ……」


「バーカ、もう始めてんだろ? 指図を受けるお前じゃねぇはずだがな。それに、あいつらはお前か女性ってことも知ってる、後はお前次第だ」


「えっ! そうなの?!」


 そこへマスターが凹む私に追撃する――


「そうよ、キーナちゃんと面と向かって話せば誰だって女性って分かるわよ。キーナちゃんったら自分を表に出さないからねえ、もったいない」


「マスターまで……そっか、バレてたのか――」


 面と向かって話たといえば直斗くらいか、でも敢えて黙っていてくれる、案外良い奴なのかも。


「まあ、ハンターには色男で通ってるみたいだから安心しろ。しかし奴らはなあ……弟はまだ良いとして、兄貴のほうが、なあマスター」


 兄弟の違い。顔の創りや性格は当たり前として、直斗の馬鹿さ加減とか、來斗のリアクションとか?


「あら、素敵な男じゃない。ねえキーナちゃん、彼はどんな感じだったの? 」


 何でマスターが知ってるんだ? デッドだな。


「來斗かあ、喋り方がさあ、変?」


「アハハハハ! だろうなぁ、お前が相手じゃ。笑顔は武器だ、もっと()()いてやれ」


「振り撒くって、阿保(あほ)みたいじゃん」


「まあそう言うなって、大丈夫、事は動いてるよ。今のままで行け」


 一応、意見は聞いた、でいいのかな。でも、話して良かった気がする。マスターはなぜか鼻歌混じりで上機嫌だ。

 

 唯一、私の素顔と素性を知る仲間。受け入れてくれた事に感謝している。朽ちた友の次にだ。

 この世界で初めての仲間といえるふたり。一度彼らに聞いたことがある。

 私を不気味と思わないのかと。

 

 マスターは言った――

 "自分より不気味な存在を知らない"と。

 デッドは言った――

 "俺は不気味と呼ばれた男だ"と。


 それを聞いた私は思わず笑ってしまった。言った本人もそっぽを向いてニヤニヤと笑っていた。

 私は居心地が良いと感じた、だから付かず離れずの距離感で今も連んでいられる。

 多分、これからもずっと……。


 デッドやマスターか背中を押してくれるんだ、後は行動あるのみ。


 私はマスターに今夜一晩だけ店に泊めてくれと頼んだ。するとマスターは家に来なさいと言ってくれたが、そこは丁寧にお断りした。恋話全開でオールナイトになりそうだから。

 夜、私は店のボックス席に、マスターが貸してくれた毛布を敷いて眠りに就いた――


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― 新着の感想 ―
えぇぇぇ、女性なのに痴漢冤罪されたんですか。 ペッタンなサイズなんですかね? 喫茶店のマスターも色々とキャラが濃そうですw
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