表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/35

3話 突然の拉致


 知らず知らずのうちに、私の聖地である山に来ていた。頂上で車を降りてタバコを取り出し一服。

 

 フッと空に一羽の鳥が旋回する。


「あれは(はやぶさ)かあ、珍しいな」


 鳥は大空を自由に飛ぶ、人間は地を()う。どちらも危険区域に違いない。だからどうというわけじゃないが――

 ハァ、お尋ね者回避にポリスは必須だと思ったんだが……ポリスに弱点とかないのかよ。

 そういえば、あの屋敷にいた指揮官はあの後どうなったんだろう、できれば仲間にしたかったが。



 翌朝――


 私はあのまま山で一夜を過ごした。腹の虫が時を知らせる。ファミレスも良いが、たまにはコンビニへ行ってみよう。


 車を路上の隅に停めてコンビニへ入ると、朝の通勤客で結構混んでる。手軽さが売りでも、これでは街のスーパーと変わらない。

 私はサンドイッチと珈琲を持ってレジへ向かう。


 そこで嫌な光景を目撃してしまった。どう見ても不審者丸出しの中年男、おそらく痴漢。

 女性の後ろにピタッと並んで怪しい動作。陳列棚が目隠しになって、左右からは見て取れない。

 この店をよく把握しているようだ、常習犯か。眼に入ったものは仕方がないと、私はふたりの間にワザと横入りをしてみる。反応や如何(いか)に。


「ちょっと君、横入りはダメだよ」


 男は怪訝(けげん)そうに私を見る。


「すまないね、彼女は私の連れなんだよ。女性のヒップを眺めたいなら離れて見るのがベストだ、特に知らない女性の場合はね」


「えっ、あ、ああ、いや……」


 一歩後ろにたじろぐ男。女の尻を追っかけて何が面白いんだか、呆れるな。

 女性は驚いたような顔で振向くも、またすぐ正面を向いた。恐怖と安堵が思考を鈍らせている様だ。

 レジの流れがスムーズになって、私は会計を済ませて店を出た。

 

 路上に停めた車が気になり、私は急ぎ足で歩く。すると突然うしろから声を掛けられた。あの痴漢に遭った女性だ。


「あ、あの、先程はありがとうございました。ずっと店の中を付いて回るので、困っていたんです」


「勝手なことしたかな、でも気をつけなよ。では」


「あ、待って! えっとお礼を、あのちょっと!」


 女性は興奮気味に声を張り上げて、私のコンビニ袋を引っ張る。周りの人達が何事かと私を観る。

 観ていたのは一般人だけではなかったようで、警ら中のオフィサーが騒ぎを聞きつけ近寄って来た。


「どうされました?」


「あのですね、痴漢が、えっと、その……」


 ちょっとお嬢さん、この状況でしどろもどろは反則ですよね、そこはこうきっちり喋らないと――

 

 案の定、私は否応なく交番とやらに連れて行かれた。初めての交番。

 職務質問くらいしてほしいとも思ったが、サングラスが怪しさを際立たせていたらしい。だからっていきなり交番はないだろ。

 

 女性は緊張のせいか、未だ辿々(たどたど)しくも一生懸命に説明をしてくれた。やっと解放と思ったら、覆面パトカーらしき車が交番の横に停まった。

 中から出てきたのはなんと、あのとき固まって動かなかった指揮官の男だ。

 

 どうするか、チャンスでもある、そうリベンジ。

 そんな事を考えていると、男が私に気付き、いきなり腕を掴んで覆パトに押し込んだ。

 オフィサーが男を呼び止める――


「あ、あの、警視殿、その人は何も……」


「俺はこいつに用がある。では」


「は、はあ……」


 私は突然のことに戸惑った。問答無用の連行、今のポリスは無言で拉致(らち)るのか?

 とにかく、この状況を把握しなくてはならない。


「えーっと、これはいったいどういう……?」


「探してた――ま、また逢ったな」


「えっ? ああ、そういえばまたって言ったな。あのさ、唐突なんだけど、私とフレンドしない?」


 ちょっといきなり過ぎたか。しかしこの機会を逃すわけにはいかない。

 

「な、なにを、意味が分からん!」


「やっぱり駄目かあ、お尋ね者だしねえ……」


「そ、それとこれとはまた別の話しだ……」


「それとこれって?」


「…………」


 黙ってしまった、把握どころか会話も続かない。私は何か間違いを犯したのだろうか。

 "フレンド"と言ったのが気に障ったのか、あるいは突然話し掛けたのがマズかったのか。

 意味が分からんって、けっこう直球投げたよね?


 そう思っている間も車は走り続ける――


 いったいどこへ向かっているのだろう。私を拘束することもしない、ポリスステーションへ向かっているとも思えない。この辺りは清楚な住宅街だ。

 住宅街に何の用があるのか、ポリス独自の監禁部屋でもあるのか、必死に思考を巡らせていると、ある家の駐車スペースに車を駐めた。


 男は車を降りて、後部座席の私に降りるようドアを開ける。私はいったいどうなるのだ……。


 車を降りると、目の前には二階建ての大きな家が目に入った。男は当たり前のようにその家の門を通る。


 庭に人影が――あっ。


 庭に立っていたのは、あの図々しいストーカー野郎の直斗だ。そうか、あのとき暗くてよく分からなかったが、ここは直斗の家だ。


「ゲッ! キーナに兄貴! 早くない?」


「ゲッて言うな! 家に入れ!」


 なんと兄弟?!


「ええっ!」


「自己紹介がまだだったな。俺は東御來斗(あずみらいと)、直斗の兄だ。悪いが家に入ってくれ、話しがある」


 來斗に直斗か、まさかの兄弟。しかも揃ってポリスとは、そういう家系か?

 それよりも、家に入る前に來斗に確かめたい事があった。そっと彼を呼び止めて尋ねた。


「あのさ、この間の内部抗戦、あれからどうなったのかな? 組長はともかく、他のふたり」


「気になるのか? 組長は派手にヤラれてたが無事だよ。あの幹部ふたりは仲良く留置所だ。そういえばお前に会ったら宜しくと言ってたな。なぜ?」


「いや、ならいいんだ。お邪魔しま〜す」


 私はあのふたりのことが少し気掛かりだった。留置所は仕方ないとして、望むものが同じなら、一緒に歩めばいいと思ったから。


 私は(うなが)されてソファに腰掛ける。隣りに直斗も座った、前の椅子には來斗が座る。

 まるで説教を聞かされる子供の絵面(えづら)だ。


「突然連れてきてすまない、直斗の言う事が真実なのか確かめたくてな」


「真実?」


「直斗がバウンティハンターに狙われた、というのは本当か?」


 なんだそんな事か。あの後どうなったのかは知らないが、でも正直に応えれば直斗が怒られるんだろう、既にドヤされていそうだが。


「ああ、あの時は私の仲間と勘違いしたらしいね」


「仲間? どうして?」


「私が直斗にちょっかい出したからだろう。間違いなんだって、そう言いふらしてやれよ」


 直斗が驚いて私を見る――


「おいキーナ、それじゃまるで……」


「直斗、悪かったな。用件はそれだけなら私は帰らせてもらうよ」


 私は話し終わると早々に立ち去った。どちらがどうでもいいじゃないか、私はそう思う。

 私はお尋ね者、直斗は違う、それだけだ。

 

 私は外へ出てふと気付いた。そうだった私の車、あのコンビニの前に停めたままだった。

 私は天を仰ぎ途方に暮れる……。


 あ、そういえば、デッドが直斗より厄介な奴がいると言ってたな、それって來斗のこと?

 厄介って何がだろう――


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
取り急ぎ回答を……。(あとで次話を読みます) あらすじか第一話の前書きにリライト的な言葉を入れるのが筋だと思います。 本編には入れず、活動報告などで触れるだけのやり方もありますが、本編関連に入れる方…
痴漢冤罪は恐怖体験ですね。(苦笑) 実際に巻き込まれたらこんな風に冷静に対処は難しいかも。 兄弟とは長い付き合いになりそうな予感……。 文字数の件: 読まれないことを気にされているようでした…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ