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13話 お人好し


 さて本題だ。直斗も何かしらに絡んでいるのか。だが、復職したばかりだ、重要な事は任せてもらえていないだろう。


「直斗、お前は今回の件に絡んでるのか?」


「まあ一応な。内部の事を調べてる、単独だけどな。ま、そっちのが気が楽っちゃあ楽だ」


「そうか。以前はどこの部署に居たんだ?」


「殺人課。色々と疑問を持って辞めちまった、闇が(ひし)めき合って、挫折ってヤツさ……」


 そういえば、世の中には3Kって言われている作業があると聞いた。キツい、汚い、危険。正に殺人課の代名詞だ。直斗なりに葛藤はあったんだろう、第三者の私が口を挟む問題じゃない。


「ごめん、悪いこと聞いたな」


「おっ、キーナが気遣ってくれるとは珍しい。嵐でも来るんじゃないか? アハハ!」


「フッ、かもな。まあ、せいぜいマザーと來斗の役に立ってやれよ」


「そう言うキーナは婆ちゃんのため? それとも兄貴のためか?」


 依頼に好き嫌いは関係ない、当たり前のことだ。


「仕事意外に何があるんだよ、誰がどうとか関係ない。ほら、せっかくの料理が冷めるぞ、早く食え」


「なら俺もそうする。変な神経使わずに済む……」


「そうだな。頑張れ直斗くん。ククッ!」


「……キーナ、俺がなんでお前に引っ付いてたか、分かるか?」


「えっ? さぁな、どうせ暇つぶしだろ」


「その、ツンっとした感じと、今みたいな優しさが俺にとっての憧れなんだよ。仕事をする上でさ」


 また気持ち悪いことを言い出した。憧れやお手本なんて正当に生きてる相手に対してするものだ。

 私は論外だよ、やっぱ阿保だな直斗は。

 

「何が言いたいんだよ、気持ち悪いなあ」


「俺のは純粋なる憧れなんだって、兄貴とはちょっと違うんだ」


「來斗とって、何が?」


「……まさか、気付いてない? 兄貴のこと」


「だから何のことだよ、いいか、憧れやらなんやらと勝手に押し付けるな、不愉快だ」


 ここで來斗を出してくる意味が私には分からない。きっと直斗の頭の中にも落し穴があるに違いない、おそらく蟻地獄的な――絶対。


「兄貴は完璧に近い男だ。ルックスも頭も良い、しかも堅物で一途。俺の言いたいこと分かる?」


「さっきからしつこいぞ、それより仕事の話しだ」


「キーナ、もっと他の事にも目を向けろよ。聞いたぜ、婆ちゃんが恋人だって、違うだろ。兄貴が他人と住むなんてあり得ないんだ、それなのにキーナと一緒に暮らしてる、もう分かるだろ?」


 來斗はフレンドだ、それ以上でもそれ以下でもない。一度勘違いをしたこともあったけど、來斗にとって私は恋愛対象外なんだ、それだけだ。


「私はただのボディーガードだ。この件が済めば退散する。そういえばこっち側の人間とかほざいてたな、お前らに私の何が分かる、これ以上構うな」


「キーナ……」


「あっ、すまん……來斗は関係ない、いいな」


「それじゃあ兄貴はどうなるんだよ!」


「仕事の話しをしないなら私は帰る。じゃあな」


 直斗をひとり残して駐車場へ向かった。私は何にイラついているのか。

 ブツブツと独り言を言いながら車に乗り込み、当てもなく走り続けた。いつしか辺りは夜に包まれ、気がつくとフリーウェイを走っていた。


 バックミラーに同じ車種の車がずっと付いて来る。私はいつの間にか怪しい車に挟まれていた。

 おそらくハンターだ。私はスピードを上げ、一般車を避けながら逃げた。しかしハンターは容赦なく追いかけて来る。

 

 私はパーキングエリアへ入った。逃げ道はないが一般車を避けることはできる。

 車を止めて外へ出た。能力を使えばある程度の被害は抑えられると思った。


 私の行く手をハンターが(さえぎ)る――


「お前らしつこいんだよ、誰の差金だ」


 ニヤついた顔の男が前へ出た。


「へっ、誰が教えるかよ。オレらも生活が掛かってんだ、悪い様にはしねぇ、そろそろ諦めな」


「お前がハンターのボスか?」


「冗談じゃねぇ、オレはこの辺りを仕切ってるリーダーのマイクだ。悪いがこっちは本気だぜ」


 ボスがいてリーダーがいる、ならおそらく組織化されているんだろう。生活が掛かってるとは、また大層な理由だ、家族がいるってことか――


「そうか、まあ、せいぜい頑張んな」


「お前ら、捕まえろ!」


 リーダーの合図と共に、ハンター達が一斉に襲い掛かって来た。相手は多数、しかも武器持ちだ。

 先ずは武器を持つ男達の手を封じ込める――


「《クレイ・シャックル》」


 粘土質の土は重い、嫌でも手が下がる。その隙に男達の足を払い、倒れたところでボディーに一発ずつ喰らわした。

 残るは何人だと油断した時、低い銃声音と共に私の腕を銃弾が擦った。車の陰から赤いポインターが見える、サイレンサーか。

 「パンッ!」と乾いた銃声が後ろから聞こえた。だが私には当たっていない、呻き声が前から聞こえる、と同時にハンターの銃が吹っ飛んだ。振り返ると來斗が銃を構え悠然と立っていた。


「キーナ大丈夫か! まだジッとしてろ!」


 そこへオフィサー達が一斉に駆け寄り、ハンター達を取り押さえた。そんな中、後ろからフッと暖かい手が私を包み込んだ。

 振り向くと、來斗が心配そうな顔で私を見る。


「危なっかしい奴だ、油断したか?」


「キーナ血がっ!」


 來斗の横て直斗が叫ぶ。なぜ彼らがここにいるんだ、もしかして直斗が來斗を呼んで跡を追って来たのか、相変わらずお人好しだ。


「また勝手なことを……」


「あの程度でオレが引き退るわけないだろ。ただ心配だったからさ、兄貴を連れてきて良かったよ」


「先ずは傷の手当てだ。キーナ、俺達の部屋へ帰るぞ、またカレーでいいよな?」


 このシチュエーションは物語で言う感動のシーンなんだろうが、私にとってはボディーガードが助けられた事のほうが、情けないシーンでしかない。

 確かデッドが、直斗は面白い奴で、來斗は面倒な奴だったか、どうやら当たってる。

 これでハンターからは当分のあいだ追われることもないだろう。ポリスの活躍がかなり大きいが、それも仕方ない。


 それよりも、直斗の言ったことを思い出すと妙に照れ臭くて恥ずかしい。慕われているとは思っていなかったから、余計に來斗を意識してしまう。

 ちょっと悔しい気もするが、この際と、直斗を連れ出してこっそり訊いてみることにした。


『お前が変なこと言うから意識しちゃうじゃないか……そ、そのう、來斗は私を好きなのか?』


『おっと、煽った甲斐があったな。そうだよ、兄貴はキーナが好き。素直になれよ、頑張れキーナ』


『が、頑張るって、何をどう?』


『何って、ニッコリ笑って好きって言えばいいんだよ。後は兄貴に任せればいい、それだけだ』


『…………なあ直斗、來斗はこんな私を受け入れてくれるだろうか』


『ハァ、言ったろ? 堅物で一途だって。兄貴はキーナしか受け入れないよ、心配すんなって』


 そこへ來斗が乱入――


「お前ら、何をしゃがんでコソコソ話してるだ?」


「えっ? えっと、ここからなら俺ん家のほうが近いかな〜って話しをね?」


 直斗が咄嗟(とっさ)に話をすり替えてくれた。そうとは知らない來斗は直斗を睨んで言う。


「直斗、キーナに構うなと言ったはずだ。キーナは俺が面倒を見る、お前はもう帰れ、分かったな」


「へいへい。じゃあキーナ、お大事に〜」


 お人好しで優しい直斗はそう言って、警察車両に乗って帰っていった。

 來斗が気まずそうにしている私の手を握り、問答無用で歩き出した。

 顔が熱くなるのを感じる、鼓動がうるさい、これから私はどうすれば――


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― 新着の感想 ―
ようやくキーナにも伝わりましたね〜。 直斗は兄思いで、真っ直ぐなキャラの印象を受けました!
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