表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/35

§プロローグ 【マッドドール】

§プロローグ 【マッドドール】


 真夜中――

 静まり返った街道を我が道と化し、縦横無尽に獲物を追うバウンティハンター。


「オイ! 奴はいたか?」


「見当たらねぇ、どこへ行きやがった!」


 所狭しと無造作に停められた車。一台がゆっくり走り出す。ヘッドライトが路肩を照らすと、古びた車を映し出した。そこには車体に寄り掛かり、眩しそうに手を(かざ)す人物が立っていた。

 

 黒いシャツにタイトなズボン、大きめのブカっとしたグレーのブルゾンを羽織り、足元は黒いショートブーツといったスタイル。

 砂色のメッシュが印象的な、褐色の長い髪を胸元で束ね、時より(のぞ)かす銀のピアスが端正な顔を引き立てている。

 

 フッと口元に笑みを浮かべながら、黒いサングラスをゆっくり掛けた。ハンターに追われる者――


「ハ〜イ、お疲れ様。ではご機嫌よう」


 そう言って車に乗り込みエンジンを掛ける。アクセル全開でハンドルを勢いよく回すと、タイヤは地を滑り、白煙と共に車をUターンさせた。ハンターにライトが当てられる。


「クッソ! また逃げるぞ!」


 古びた車は軽快にスピードを上げて、追う者の車と車の間を擦り抜ける。

 ハンターの車は身動きが取れず、車を降りて地団駄(じだんだ)を踏む。そしてハンター達は追うことを諦めその場から去って行った――


 

 


――――――――――――

 


 遥か昔、神の時代――

 

 世界の秩序をそれぞれの役割と成す神々は、良くも悪くも絶えず世に恩恵を(もた)らす存在で(あが)められていた。

 全盛期だった神の時代は過ぎ去り、意味も知らずに、(まつ)りの行事のみ細々と伝わる時代が訪れる。

 

 神の原初、大地の女神が密かに託したひとつの泥人形。神々はその泥人形に個々の力を与えた。

 ある宴の晩、神々はその未知なる物を、お試しとばかりに宇宙の無限界へと放った。

 天王は告げる――

 

「人を愛し、求め悩み苦しみ道を定めるまでは、関わる事これ罰とし罪とする。傍若無人を尽くすことこれ必然。あとは己れの脚で決めさせれば良い」


 神々は無言で承諾し従った。全ては生なる物に任せて――


 


***




 私は一方的なカーチェイスをかわし、街道を抜けて何食わぬ顔で普通車と並走する。

 

 気分転換を兼ねて、ファミレスへ寄った。

 駐車場に車を駐めて、店の入口の自動ドアを(くぐ)る。小さくBGMだけが聞こえる。


「いらっしゃいませ! お好きなお席へどうぞ!」

 

 元気ハツラツとパートらしきおばさん。真夜中とあって客の姿もまばら。

 私はいちばん奥のボックス席に座った。メニューを開いて珈琲と小腹を満たす物をチョイス。

 

「ピ~ンポ~ン」


 呼びボタンを押すと店員がすぐやって来た。


「ご注文はお決まりですか?」


「珈琲と、唐揚げ。以上」


「ご注文承りました。しばらくお待ち下さい」


 店員は慣れた笑顔で立ち去った。


「フゥ、やっと一息……逃げ切れたか?」

 

 メニューをスタンドに立て、テーブルに置かれた灰皿を見つける。どうやらこのエリアは喫煙が出来るらしい。ズボンのポケットから電子タバコを取り出し、珈琲がくるまで一服を決め込む。


 私の名前は、キーナ・エフケリア。

 "好機の波"と言った意味だ。性別は女、見た目は中間、振る舞いは男だ。まあ、誰もが私を女だとは思っていないし、仕事上知られては面倒なので男の振りをしている。タバコも格好付けに始めたが、いつしか依存してしまった。百害あって一利なし、確かに。

 

 それはさておき、神々は私に曖昧な記憶を残した。言われたとおり暴れてやった。

 そして泥の殻を破り、人間へと変化し、様々な惑星、そして異世界へと放浪した。

 

 傍若無尽(ぼうじゃくむじん)を尽くしていたその異世界で、私は自称哲学者という転生者に出会った。キッカケはどうであれ、友と呼べるようになってから、生きる(すべ)や、心の在り方をそれなりに学んだ。

 

 私は友の生まれた惑星の話しを聴くのが好きで、よく耳を傾けていた。

 親愛なる友が()ちて果てるまで。


 私は友の語るその惑星に興味を持った。降り立って約半世紀あまり、少なからず、安住を得ることができた。

 第二の地球と呼ばれる青い惑星"レゾン・テール"に。私はいま、新都市(ネオポリス)のニルヴァーナ(解放)という街に根を下ろしている――


 私の仕事は"請負人(アンダーテイカー)"だ。主に闇組織からの依頼が多い。内容のほとんどは対立する敵側の抹消。だが私は両者を潰すのが目的、それを知らない悪党は今もこぞって私に依頼を頼む。

 この手の奴らは私を"壊滅請負人"と呼ぶ。こっちのほうが知名度が高いのは確かだ。

 

 私の日常に平穏はない、出逢いもなければ恋愛なんて夢のまた夢。そりゃあ、いちおう女だし、恋とかデートとかしてみたいと思うけど、恋愛感情なんて未知の領域、想像すらできない。いちおう努力はしてみますが。

 神には悪いが私は不適合ドールだ――



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ