9.特訓は続く
何度か電撃のような神力を流された後、
徐々にその威力を感じなくなってきた。
その後、木にしがみつく体制で
再びアーヤの神力ショックを浴びせられると、
指先に木の幹を掴んだ感触と共に、
何かが流れるのを感じた。
「そう!それが神力の流れです!
その感覚を掴んだら、
次は己の中にある神力の流れを
コントロールするために
瞑想、実践、瞑想、実践、日々訓練です!」
なるほどわかりやすい。
というかアーヤは女神に仕える巫女だし、
神力のエキスパートだ。
脳筋&スパルタ気味なところ以外は
教師として申し分無い。
一週間の特訓を続けた結果、
10メートルほどの木も
1分足らずで登れるようになった。
「タクミ君!すごいです!
今の動き昆虫みたいで良かったです!」
「褒める気ねえなあ!
スポドリ、もうやんねえぞ!」
姫様も微妙な顔で顔そらさないで!
同じこと思ってたでしょ!
「えー、それは困る!
訓練終わりに飲むあれ、
最高に美味しいんだから!
ヤモリに訂正するから許してよぉ!」
「うーん、まあヤモリなら……良いか。」
良いのか?まあ良いか。
「にしても、もう昼過ぎだし、
休憩しようか。
姫様が持ってきてくれた一角ウサギ、
楽しみにしてたんだ。
俺は小屋に行って、
焼き網と炭を用意するから。」
「では私たちはウサギを捌いておきますね」
姫様がそう言う。捌けるんだ。
ウサギも狩ってくるし
見かけによらず生活力高い。
黄金のタレが欲しいが、
ホムセンにそんなものは無かった。
塩と砂糖があるだけでもまだマシだ。
現地調達の酒と混ぜれば
それなりに食べられる味になったので、
しばらくはこれで我慢しよう。
ニンニク、ショウガ、トマト
なんかをペーストにして混ぜれば
もっと美味しい調味料になるだろう。
今後の楽しみにしよう。
「塩と砂糖がこんなに簡単に
手に入るなんて…使徒様すごい!」
スポドリぐびぐび飲みながら
今更何言ってんだこの生臭巫女は、
と、ウサギ肉の最後の一切れを摘まみながら思う。
「で、どれくらいで王様に勝てそうなの?」
「「…………」」
二人とも黙り込んじゃった。
俺、またなんかやっちゃいましたね。
アーヤがジト目で睨んでくる。
姫様もぷくーっとふくれている。
「タクミ君にはデリカシーが無いですね!」
「ほんとです!いくらタクミ様でも、
私たちが一番気にしてることですよ!」
デリカシーってこういう場面で使うんだびっくり!
「いや悪かったよ。
二人とも俺なんか足元にも
及ばないくらい強いし、
めちゃくちゃ頑張ってるのも知ってる。
本当に頭が下がる思いだよ!
そうだ、甘いもの食べようか?」
こういう時は甘いもので誤魔化すに限る。
ホムセンにあったアイスをすぐ持ってきた。
二人ともめちゃくちゃ素早く受け取るなぁ。
「まあ私も言い過ぎたかなって。ありがと。」
「タクミ様。……ごめんなさい。
先ほど言ったことは只の八つ当たりでした。
当然と言えば当然ですが父は本当に強くて…。
今のところ、どれくらいの期間修行すれば
勝てるか見当もつきません。」
うーん、素直。
アイスで機嫌直るのは異世界も変わらんなあ。
「ていうか、王がヒントくれてたじゃないですか?
タクミ君を戦えるようにしてから
3人でいけば良いんです」
ですよねー。思ってはいたけど、
それも簡単じゃないから
俺の口からは言わなかったんだけどなー。
少しは考えていたこともあるので言ってみる。
「…木登りとかいうレベルを超えて
もっと器用になれば、
例えば室内の戦いならの話だけど、
建物の梁を這うみたいな
立体的な動きで攻めれば
隙をつけるかもしれない。」
「たぶん相当キモい動きだけど、
それは確かにアリですね」
アーヤさん、キモいは余計だよ。
姫様も笑い堪えてんじゃないよ。
暇な時間にホムセンの売場を物色していると、
小さな鉄製ピッケルを見つけた。
それをクライミングに使いやすいよう
ヘッドの先端をギザギザに加工し、両手に装備する。
何と、これだけで木登りの速度が倍になった。
レンガとか石積みの壁を上るのに相当役立つはずだ。
敵地潜入の際、使えるはず。
だが、その前に
「ゴキブリ並みの動きで王様を翻弄しつつ攻撃を加える」
という、かなり高いハードルがある。
そのためにも、剣術の訓練が必要だった。
これがなかなか大変だった。
神力訓練(初級)が一通り終わった後、
アーヤにひたすらしごかれた。
棒で。
「棒を」しごかれたなら良かったのだが、
勿論そんなことは無い。
「体幹の使い方は悪くないね!けど手足がちぐはぐ!」
ボコ!
「単純に遅い!ステップで神力使う訓練も追加ね!」
ボコ!
そんな感じで、2週間が過ぎた。
毎日、特訓後には治癒魔術で回復してくれるが、
痛いものはやっぱり痛い。
さらに基礎体力をつけるため、
走り込みも始めたが、ここで意外な特技を発見した。
「タクミ君、走ってるところ見たけど、速いね?
ていうか滑るみたいな動きで
ちょっとキモかったけど、すごいよ!」
「いちいち貶すのやめてくれない?
ていうかそんなに速いの俺?」
「普通の人間があんなに速く走るのは、
ちょっと信じられないっていうか……。
自分の速さにビビっちゃう感じ?
スピード狂になる人もいるけど、
そういう人以外は、神力を使ってもあんなには走れないよ。
…馬と競争するのが趣味だったとか?」
アーヤは顎に手を当て、
怪しいものを見るような目つきで俺を見る。
「そんな変な趣味は無い。
けど、馬の何倍も速い乗り物に乗ってて、
体の一部みたいに感じてたな。
生き物じゃないけど、相棒っていう意味では
馬に近い感覚で扱ってたから、
スピードを出すことに全く抵抗がないんだ。
そのせいかもな。」
「なるほどー。それは私も乗ってみたいかも!」
「私も乗ってみたいです!」
アーヤも姫様も興味を持ったようだ。
二人とも脳筋の怖いもの知らずだから
バイク好きになるだろうな。
姫様をタンデムで後ろに乗せている姿を想像してみた。
……イイ。すごくイイ。
ごふっ!
アーヤの突きを喰らう。なぜ。
「隙あり。っていうか、
今スケベなこと考えてなかった?
顔が緩んでたよ。」
「ないよ!
二人を乗せてあげたいなって思っただけだよ!」
「もしこの国でその乗り物を作れたら、
ぜひ乗せてくださいね!
私、一番に乗りたいです」
姫様が、ワクワクして嬉しそうな顔で言う。
「もちろん!!俺も乗せるなら姫様がいいです!」
「あー!ずるい!私も乗せてもらうからね~!」
そんな感じで、その日の特訓も
なんやかんや楽しく終わった。
こんな日々がずっと続けば良いな、
と思うくらいに。
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