8. 神力
野良っていうか、野良作業?
頭巾にモンペ…
農作業のおばあちゃんみたいな恰好。
小脇に籠を抱えている。
こういう格好でも気品を感じさせるのはさすがお姫様。
「姫様!わざわざこんな
汚い場所にいらっしゃらなくても!」
おい!ここに俺を連れてきたのお前だろ!
「今日は山に栗を取りに行ってましたので、
タクミ様にもお裾分けをと思いまして。」
「どのあたりから聞かれてたんですか?」
気になったので聞いてみる。
「タクミ様が以前泥棒をやってたという所から」
「違いますよぉお!!」
「冗談です。3~4人は必要だな、
ってところから聞いてました。」
舌を出しながら言う。
姫様、こういうお茶目な感じも可愛いなぁ……
最高かよ。
というか、そんな前からいたのか?
気配すら感じなかったけど……。
「盗み聞きするつもりではなかったんですけれど、
気を悪くされたらごめんなさい。
私、耳が良いんです。
逃亡生活とか暗殺に怯える生活が長かったので、
無意識に神力を使って
そういう能力が身についちゃったんでしょうね。」
……姫様の境遇を思って胸が少し痛くなる。
「タクミ様、そんな顔しないで下さい。
今はアーヤとタクミ様のおかげで
希望を持っていますし、
私も剣の修行は欠かしておりません。
この耳もお役に立てると思います。
ぜひともお供させて頂きます」
お願いというより、宣言だ。
押しの強さは父親譲りのようだ。
この姫様を甘く見ていたかもしれない。
どうしたものかと考えていたが――
「あー、姫様なら武力的には心配無いですね。
よく私もお相手しますし」
アーヤがそう言うなら大丈夫なのだろう。
この巫女さん、口は悪いけど有能っぽいし。
「アーヤが大丈夫というなら俺も反対はしませんが、
ただ、王様には了解を取って頂きますよ?
無断では連れていけません。」
「ぐ!…んー……アーヤ、
お父様を説得するの手伝ってくれない?」
「お任せください。
王とはいえど、私と姫様二人がかりでいけば
叩きのめせるでしょう」
やり方が物騒だなぁ……
ほぼ説得じゃないだろそれ。
この国、脳筋率高くない?
翌日、アーヤと姫様二人がかりで説得
(という名の果し合い)を王に申し込み、
見事、ボコボコに返り討ちに遭って来たらしい。
「フハハハ!!
10年早いとは言わんが鍛え直してこい!
タクミ殿を加えて3人がかりでも構わんぞ!!」
……などと言われたそうで、
めでたく俺も巻き込まれた。
アーヤの治癒魔術で治したため、
怪我の跡こそ無いものの、
悔しかったのだろう。
結果報告しに来たその後すぐに、
俺の小屋の近くで二人は特訓を始めた。
という訳で俺は今、
その二人が木剣で立ち合うのを見ているのだが、
かなりレベルが高い。
まるでボクシングの世界戦を見ているかのような、
達人同士の勝負における緊迫した間合い、
そして剣術の巧みさにも驚かされている。
この二人を同時に相手にして
余裕で勝つ王様……流石というか、
18年間も戦を生き延びてきただけのことはある。
……見に行けば良かったな。
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5度目の立ち合いだが、
そのうち4回はアーヤが勝っている。
流石、武闘派を自称するだけはある。
だが、今回は違った。
姫様の攻撃をひらりと躱し、
完全に死角を取ったアーヤの攻撃が決まるか
と思われた瞬間、
姫様がスッと躱したことで
アーヤの体制が崩れ、
姫様の小手打ちが見事に決まる。
勘で躱したというよりは、
聴覚でアーヤの動きを読んだのかもしれない。
姫様も十分に達人レベルなのだろう。
5本目が終わると互いに
『ありがとうございました』と一礼し、
疲れ果てたのかへたり込む。
いや、姫様は大の字になって寝転んでしまった。
休憩だな、と思ったので、
二人にスポーツドリンクをあげると
めっちゃ喜んでくれた。
嬉しいな。と思ったのも束の間、
「じゃ、タクミ君は私と特訓しましょうか?」
げ。
「なんですかその嫌そうな顔は!」
「嫌だよ!めっちゃ強いじゃんお前」
「剣の立ち合いしようってんじゃないですよ?
まずは神力の特訓です」
「なんだ、良かった。
いきなり剣の達人と打ち合うのは勘弁してほしいわ」
「さすがに姫様の域に達するのでも
普通は10年かかりますからね。
だからタクミ君が今から剣で
そこまで行くのは期待してません。」
「だよねー。で、なにすんの?」
「こうします」
アーヤが俺と正面に向き合い、両手を繋いでくる。
?なにこれ?
と思った瞬間、
全身に電撃が走ったように痺れる
「あガガガガガガ」
「今、神力を流しました。
コレに慣れてくると
『コレが神力か!』
と感覚がつかめるようになります!」
そんな感じで、俺の神力耐久訓練が始まりました。
絵面的には美人に手を繋いで貰って
最高のサービスに見えなくもないけど…
めっちゃ痛い……。