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6. 王女カテルノ

お空、きれい。


キャンプ用椅子の背もたれにもたれ掛かりながら

ペットボトルのコーヒーを頂く。

ペットボトルだけど、青い空の下で飲むと格別に美味いね。


『ピーーヒョロロローーー』


あぁ…鳥は自由だなぁ…どこへでも飛んでゆける。

頭の中を「コンドルは飛んでいく」が流れる。

僕は、どこまでも自由なんだ……。



「タクミさーん?」


ドゥクシ!


「あのー、もしもーし?」


ドゥクシ!ドゥクシ!ドゥクシ!

ガッシャーン!!!


「成人男性一人を椅子ごと倒すのは

蹴りすぎだろうがよぉ!

この性格ブス巫女が!

人が現実逃避してんの邪魔すんなよぉ!」


「当国は現実逃避禁止です。

今すぐやめてください。

と、言うかその調子だと特に何の計画も無く

約束しちゃった感じですね」


「…………」


美人に心底呆れ顔されるのって結構ツラいなぁ。


「まあ分かりますけどね?

王様も押し強いし、タクミさんの立場だと

何かしらやるしかないですし。

謁見からまだ2日しか経ってないから良いですけど、

ずっとそのまま何もしないでいると、

さすがに皆さん心配、というか不審がられますよ?」


「んなこと、分ってるよ…」


「うん、分かってるなら話が早い。何か行動しましょうよ」


「何かって、たとえば?」


「はい、とりあえずですね?

王以外の人と会ったりお話してから、

いろいろ考えてみません?」


「あー、まあ確かに。

ただ今日は体調微妙だから明日にしてくれる?」


「なるほど。では王女カテルノ様18歳超絶美少女 

が会いたがっててお取次ぎ頼まれてたけど

キャンセルしときますね」


「すいません急に元気になったので行きます!

あー!元気ハツラツ」


「単純でよろしい!」


アーヤに掌で転がされてる感じがするけどまあ良いさ!

だって美人が多いと有名な国の王女様だぜ?


前回同様、アーヤ同伴で

王宮に連れてこられたが、

通されたのは謁見の場ではなく

敷地の端にある庭園だった。

いや、庭園というよりは実用的な印象が強い。


パッと見は綺麗に仕上げられているが、

よく見ると背の低い植物はハーブだし、

所々に植えられた3~5メートルの木々には

すでに果実が実り始めている。

藪のようになっている垣根には

ミニトマトが実っていた。


ここは庭園っぽい見た目の菜園だ。

恐らく女王と王女が自らの手で育てているのではないだろうか。

想像すると微笑ましい。


庭園を望む形で東屋があり、

その下には素朴な木製のテーブルセットがあった。

そこで王女カテルノが待っていた。

とんでもなく美しい。


所々亜麻色に近いプラチナブロンドの髪

素朴だが趣味の良い生成りのワンピース。

村娘と変わらない服装にもかかわらず、気品が漂う佇まい。

家紋をかたどったであろうペンダントも妙に似合っている。

錯覚だろうけど、なんかキラキラしてない?

クラクラしてきた。


半分、無意識のうちに跪いてしまったが


「フフ、そんなに畏まらなくて結構ですよ。

どうぞお掛けになってください」


と、王女カテルノに着席を促された。

笑顔もええなあ。


「失礼いたします」


「今日はわざわざ来て頂き、有難うございます。

一昨日はご挨拶の場に来ていただいたのに、

外せない農作業があって伺えませんでした。

ごめんなさいね」


「そんな、とんでもない。謝らないでください!

一国の王女様に頭を下げて頂くなんて」


「いえ、それこそ買いかぶり過ぎです。

ご存じとは思いますが、この国の行く末は今のところ、

希望に満ち溢れているようには見えないでしょう?

私の未来だってどうなるか……」


遠い目をしてそう言われると、

こちらも神妙な気持ちになる。

戦争に負ければ、この宝石のような美少女の行く末は

良くて和平交渉の道具として政略結婚で側室扱い、

最悪の場合は奴隷か、見せしめの死刑だろう。


「一昨日、父が使徒様にお会いするまでは

どこか暗い影のようなものが

父に付きまとっていました。

不安だったのでしょうね。

でも、久しぶりに

父の希望に満ちた顔を見た気がします。

それだけでも、本当に感謝しています」


カテルノは少し沈黙し、庭に目を向けたまま続ける。


「ですが、私も希望を抱いてしまいました。

侵略され奪われる我が国と同じように、

私の人生もそうなるのかもしれない、

自由になれるとしたら、

それは死ぬときかもしれないと思っていましたが、

違う人生もあるのだと……

そう思ってしまいました」


彼女は再びこちらに顔を向け、言った。


「私の命を貴方に捧げても構いません。

…どうか、助けて下さい」


「俺の命こそ貴方に捧げます。絶対に助けます。任せてください」


カテルノは立ち上がり、

跪いて俺の手を取り祈りを捧げた。


「貴方に私の全てを捧げます。

女神ツクリナのご加護がありますように」


この時のことを、

俺は一生忘れないだろう。


本物のお姫様にこれほど真摯にお願いをされて、

動かない男なんている訳がない。

俺の命、使ってやるよ。

まあ、一回死んでるけどさ。



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