13. トカゲの着ぐるみ
「イヤぁああああああ!キモイ!!キモイ!!」
ある朝、俺は女子のように叫んでいた。
ここ数日、セコスギーと出会った
村の宿に泊まっているのだが、
朝の散歩をしていたら、
突然現れた大トカゲに追いかけられたのだ。
「オラァ!!」
アーヤが雄叫びと共に、
槍をぶん回して大トカゲの頭を吹っ飛ばしてくれた。
助かった…。
ていうかトカゲでかすぎる。
尻尾も併せると5メートルくらいあると思う。
「そんなに怖がらなくても
グラントカゲの毒じゃ死なないよ?
死ぬほど痛いだけで」
グラントカゲという名前らしい。
「じゅうぶんイヤすぎるな」
「でも、こいつらこの辺では重宝されてるって言うか、
一角ウサギよりは手ごわいけど
皮も骨も捨てるところ無く利用できるから
生活密着型の良い獲物だよ?」
「皮は防具とかにすんの?」
「そうそう。高級品じゃないけど、
新米の兵士や冒険者の消耗品として。
あと、お祭り用の着ぐるみにもなるんだよ?
面白くない?」
「どんなお祭りだよ」
「老若男女問わず、トカゲの着ぐるみを着て、
徒競走をするっていうシュールなお祭り」
「シュールすぎるな。見てみたいわ」
「明日、街で見れるよ」
「マジで?」
**********
次の日、皆で休憩がてらソレを見に行った。
年に一回のお祭りを想像してたけど何のことはない、
5日に一回開催されている賭けドッグレースの
合間に催される余興だった。
もちろん、ドッグレースも楽しんだ。
「面白かったわ。ありがとな。
ていうかアーヤ、詳しいな。」
「賭けは巫女の嗜みですから」
「巫女の嗜みであってたまるか」
「ちなみに姫様も賭けました」
アーヤの告げ口に姫様がバツのわるそうな顔をしたが、
「カテルノ様!さすがにギャンブルは
羽を伸ばし過ぎですぞ。」
やはりラリーさんに窘められ、
苦虫を嚙み潰した顔になる。
「せ、世間知らずに育ったから社会勉強です!
これも民の生活を知るため!
ちなみにこれを外したら倍プッシュです!」
目が据わってる…。
「おい生臭巫女、二度と姫様にギャンブル教えんな…」
「真っ白なキャンバスほど染まりやすいって本当ね…」
**********
グラントカゲの着ぐるみを買った。
銀貨10枚でまあまあ高かったけど。
村の端っこで、早速、着ぐるみを着用して作戦会議を始める。
「そんなもん何に使うのよ…
俺は人間をやめるぞ~!!
トカゲ王に俺はなる!
とか言わないでよ?」
「タクミ様…悩みがあるなら聞きますよ?
話して楽になることもありますから、ね?」
「二人とももう少し俺を信用してくれ…
考えがあるんだ。」
「その格好で言われてもね…」
「ですねえ…」
確かにトカゲのコスプレをして、
トカゲの口から顔だけ出した状態で話しても
説得力がないのは致し方ない。
どう見てもふざけてる。
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「まず、一角ウサギ、鹿、羊
なんでも良いけど獲物になる動物を狩ります。」
女性二人はポカーン( ゜д゜)状態のままだ。
「それをタクミ君が生で食べる?」
「そこはトカゲの真似をしなくても…」
いろんな意味で酷い予想だな。
ラリーさんだけはピンときたようで、
「なるほど、攪乱ですか」
さすが軍人だ。
「そう!
獲物となる動物の死骸を撒いて、
グラントカゲをセメナソンヌ城壁に
行きつくよう誘導する。」
「「あーなるほど!」」
二人とも納得してくれたようだ。
「そして、タクミ殿がトカゲの着ぐるみを着て、
セメナソンヌ城壁付近で行動しても
目立ちにくい、という訳ですな」
「その通り!そしてこんな感じで壁に登ります」
忍者熊手を使ってトカゲの指先から
爪がでているかのような
自然な動きを再現できるよう改造してみた。
その状態で木に登って見せる。
「マジででっかいヤモリじゃん…。」
「凄いですけど…。なんていうか恐怖しかないですね」
女性2人ともドン引きである。
まあしょうがないけれども…。
「うむ。想像以上に怖い絵面ですが、良いと思います。
グラントカゲは普通、壁に登りませんが、
今のタクミ殿くらい自然な動きなら、
そういう事もあるのか、と
大抵の人間は受け入れてしまうでしょう。
壁上警備の人員も、
壁を上ってくるグラントカゲ対策を
講じなければいけません。
そういう意味で
多少の攪乱にはなるかと思います。」
「うん、勿論それもあるけど、
今から話すのが本命の仕掛けだ。」




