12. お近づきのしるし
次の日、セコスギーの部下が
通行許可証を持ってきた。
さらに、
「昨日の話の続きをしたいから商会に来い」
とのことなので付いていく。
**********
城塞都市セメナソンヌは2重城壁になっており、
壁と壁の間は放牧場を兼ねているらしく、
ヤギが草を食む姿が見える。
ここを馬車置き場として使っていいとのことだが、
積み荷があるため見張りが必要だ。
さて、誰が残るか、という話になるが、
うちの女性二人、ただでさえ目立つ。
セコスギーに見初められて
強引に求婚されでしもしたら厄介だし、
そもそも姫様は王族として
面が割れているかもしれないため
人目につく動きは避けたい。
という訳で馬車には女性二人が残り、
商会にはラリーさんと俺が行くことになった。
**********
セコスギーの部下に付いていきながら、
ラリーさんが俺だけに聞こえる小さな声で聞いてくる。
「ところでタクミ殿。
任務で使うカメラとかいう魔道具のことで
聞きたいのだが、いいだろうか?」
「はい。アレは軍事機密ですから
内密にして頂けるなら、なんなりと」
「うむ、その…男同士の話ということで、
二人には言わないで欲しいのだが」
男同士の話…?
「単刀直入に聞くが、例えば
私と妻のまぐわいも残せるものなのか?」
一瞬耳を疑ったが、イケオジも男だ。
いや、それよりもこの短時間でハ●撮りへと
想いが至ったこの男に感動すら覚える。
性欲は世界線を越えるらしい。
「もちろんですとも。
この任務が終わったらお貸ししましょうか?」
「ありがたい!
だが、まずは妻を見つけないと始まらないがな」
軽い話と思ったら重い話だった!
「…どれくらい会えてないんですか?」
「もう五年になる。
戦の虚を突かれて攫われてしまってな。
…私のように妻を攫われた者には
新しい妻を娶る者もいれば、
使用人や商売女で自分を慰める者も多い。
だが私には妻以外の女とそうなるのは考えられない。」
スケベな話と思ったら泣ける話だった。
「奥さんを愛しているんですね。」
「当然だ。見つけるまでは死ねんよ。」
「絶対に見つけましょう。」
**********
その後、セコスギーとの商談では、
月にシロップを壺10個、約15リットル用意することを約束した。
ホムセンの在庫が回復するのに1か月かかるため,
その量が限界なのだ。
そもそもこちらの世界では甘味料自体が貴重品だ。
セコスギーもその量で一応納得してくれた。
が、もう一押ししておきたかった。
「セコスギー様、
この度お招き頂きまして、
こうして商談にも応じて下さり感謝しております。
こちら、ジリヒンヌの没落貴族から手に入れた、
とっておきの品です。
お近づきのしるしにどうぞ。」
大層な木箱の蓋を開け、ガラスコップを見せる。
貴族のくだりは勿論ウソで、198円の商品である。
だが、ガラス製品も文明度が中世だと、貴重品だ。
安物と疑うことも無く、めっちゃ喜ぶセコスギー。
「良いのか?
こんなに透明度が高いガラスの器を!
お前、見た目に寄らず良い奴だな!
困ったことがあれば面倒見てやるから私に言えよ!」
198円だけどね。
あと見た目によらずとか言うな。
でも、ハダカデバネズミみたいでキモ~って思ってたけど
こんなに喜んでくれると少しだけ可愛いな。
「喜んで頂けて何よりです。
では早速ですが、私の知り合いで服飾関係の職人が
何人か亡命希望でして…
その筋の商人に繋げて頂ければ幸いです。」
「うむ。まあ構わんが…。
妻と愛人と娘2人の分も、このガラスの器が欲しいのだがいけるか?」
さすが見た目通り、がめつぅ~い。
でも良いよ。1個198円だし。
「かしこまりました。なんとかして見せましょう」
どうでも良いあとがき
ガラスのコップは(株)ホリコシ様の
「 じょうぶなグラス ラッシュ ガラス製 満量240ml」
をイメージしました!
「ムラーノガラス」「ヴェネツィアングラス」に代表されるように
中世のガラス製品および職人は
現代における最先端半導体やAI技術者並みの存在だったので、
そのあたりの歴史について知るのもおススメです!




