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11.ミツだけに

セコスギー・ボルデールは商人である。

城塞都市セメナソンヌを拠点にしており、

都市内に3店舗を構え、

近郊の村々の商人とも繋がりがある。


さらに、街のゴロツキどもも彼には頭が上がらない。

この辺りでは顔役を自負している。


そんな彼の支配下にあるセメナソンヌ近郊の村に、

数日前、見慣れない行商人が現れたという。


行商人自体は珍しくない。

田舎から出てきた奴らが藁細工等の工芸品、

その他、蜂蜜やオリーブ油なんかも持ってくる。


藁細工程度は大した金額にならないから無視して良い。


だがセメナソンヌにおいて蜂蜜は

ボルデール商会の独占販売品だ。

近隣の村で勝手に売られては困る。


ボルデール商会を通さないなら徹底的に潰す。

しかし、まずは一度警告を与える。

なんと慈悲深いことか。


*************


「おいコラお前ら!

誰に断ってここで蜜売っとんじゃい!」


「やってまうぞボケコラ?

誰のシマやと思っとるんじゃオオ?」


デブとノッポのチンピラが、行商人の男に絡んでいる。

ボルデール商会で面倒をみてやっている奴らだ。

ちゃんと我が商会のために働いているな。

えらいぞ。


へこへこ頭を下げる男を見る。

若いが、貧相な奴だ。

他に使用人らしき人間を3人連れているが、

フードを深く被っていて顔は見えない。


まあ良い。

取り合えず、この男を脅せば

素直に言う事を聞くだろう。


「も、申し訳ございません!

お貴族様の縄張りとは知らずに

商売をしてしまいまして!」


「待て待て、そんなにかしこまらんで良い。

私は貴族ではない。

ボルデール商会のセコスギー・ボルデールだ。

ただ、ここで蜂蜜を勝手に売るのを

認めることはできん。」


「これは失礼いたしました!

風格のあるお方でしたので!

ただ、こちら蜂蜜ではなく、

シロップと言いまして…

味見をして頂ければ分かるかと」


壺に入ったシロップをスプーンで掬って、

小皿で差し出してきた。


確かに蜂蜜ではなさそうだ。

まず色が違う。赤い。

舐めてみると蜂蜜のように甘ったるいが、

蜂蜜のような奥行きのある味わいが無い。

ただ、イチゴのような甘酸っぱい良い香りがする。


「確かに蜂蜜ではないが、同じようなものだ。

いずれにしても商人ギルドに入ってない

君のようなよそ者が売って良いモノではないな。」


「そんな……借金してまで仕入れたのに。

蜂蜜の2割の値段で仕入れたのですが、

せめてそのお金だけでも

持って帰らないといけないのに……。

ああ~!どうしたらいいんだ!」


男は頭を抱えてうずくまってしまった。

蜂蜜の2割の値段で仕入れたというのは本当だろう。

というか、思ったより安い。

こんなものが出回ったら蜂蜜の価格も暴落しかねない。

早く見つけることができて良かった。


「まあそう落ち込むな。

私が買ってやろう。

蜂蜜の2割2分の値段でどうだ?

この量なら銀貨11枚といったところか?」


「よろしいのですか?

大変ありがたい!ではそれでお願いします!」


銀貨を受け取ると、そそくさと去ろうとする男。


「おい、ちょっと待て!」


「はい?なんでしょうか?」


「今後もこのシロップとやらを、

継続して仕入れることはできるのか?

だったら我が商会で面倒を見てやらんでもないぞ?」


「よろしいんですか?有難いですが、

私たちは実はジリヒンヌからでして…」


「お前ら、つまり密入国で密輸入って訳か?」


「はい、その通りでごぜえます。ミツだけに」


「……まあ良い。うちで何とかしてやる。

また明日来るが、その時にセメナソンヌへの

通行許可証も持ってきてやる」


「はは~、ありがたき幸せにございます!」


貧相な男に感謝されたが、

実際、笑いが止まらない。

蜂蜜の2割2分の値段で仕入れて、

6割の値段で売れば良いのだ。


今までに無いこのシロップを、

自分が独占して販売すれば大儲け間違い無しだ。


ヨシ!


*************


セコスギーが去った後、

4人とも無言で馬車に戻り、

村から少し離れた場所に移動して

大爆笑した。



「ちょっと~タクミ君!!なんなのよアレ!

ダイコン演技すぎるでしょ!!

あたし死にそうだったんだから!

今思い出しても…ブフフッ」


「悪い…自分でもダイコン過ぎるなって

思いながらやってて…

セコスギーの見た目いかにも悪徳商人だし

笑えて来てダメだった~」


「タクミ様…あの場で

『ミツだけに』

とか止めてください…流されてたし。

くだらな過ぎて笑っちゃいそうでした」


姫様もプルプルしてお腹抱えながら抗議してくる。


「はっはっは!確かに酷い演技でしたな!

タクミ殿の演技指導はまた私が致しますが、

狙い通り悪徳商人と繋がることが出来て良かったですな?」


ラリーさんも楽しそうだ。

というか、今回の茶番はラリーさん発案である。


『蜂蜜なんかを独占している商人がいると思いますので、

まずはその者にいちゃもんを付けられるところから

始めてはいかがでしょう?』


ということで。

ホムセンに蜂蜜は無かったので

代わりに、かき氷シロップを使った。


しかし、ここまで狙い通り来るとは思わなかった。

というか、欲深い奴の考えることほど

分かりやすいことは無い、というのが今回の教訓だね。





城塞都市カルカッソンヌに、いつか行ってみたいです。


あと、蜂蜜が中世では高級品というのは有名ですが

詳しい相場を調べてもわからなかったので適当に高価そうな値段付けました。

中世蜂蜜価格警察の方、教えてください。

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