10. 出発
特訓を重ねて1か月
俺の剣術はまだ基礎レベルだが、
3人で王に挑んだ。
そして普通に撃退された。
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王との立ち合いは建物内での戦闘を想定し、
謁見の間で行われた。
まず初手で姫様、アーヤが左右に分かれ、
俺が俊足でかき乱しつつ王の背後から建物の梁に上り、
死角となる頭上付近に移動し、
攻撃を行うという作戦どおり、
梁の上から王に飛びかかり木剣で襲い掛かる。
やったか?と思いきや、
王は俺の気配を感じ取り、
まるでハエでも払いのけるかのように、
側頭部を木剣で打ち据えた。
俺はその後の記憶がないが、
残りの二人も各個撃破されたらしい。
王、強すぎる。
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だが、一応ギリギリの合格をもらえた。
「ふむ、まだまだ未熟だが、
力を合わせれば手練れから
逃げるくらいは出来そうだな。
カテルノとアーヤは慢心が薄らいだが、
もう少し肩の力を抜け。
相手が格上でも常に深い呼吸を意識しろ。
タクミ殿は木登り以外まったく素人の動きだが、
戦法は斬新で良かったぞ?」
ニカっと笑う。
「王、ご指導ありがとうございます。」
「お父様、ありがとうございます。」
「ハハ…ありがとうございます。」
実力差がそのまま師匠と弟子の関係を作り出してて苦笑しかない。
「で、タクミ殿?
この程度の武力でも、
どうにかできる腹積もりがあって
今日は来られたのだろう?」
この人、ただの脳筋じゃない。
本当に王様なんだなと思わせてくれる。
その洞察力に楽しくなって口元が緩んでしまう。
「はい。お察しの通りお話があります。
ちゃんと一角ウサギも持ってきてますよ?」
「フハハハハハ!
痒い所に手を届かせてくれる!
楽しくなってきたのう!」
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目星をつけた候補の城塞都市が7か所、
ただし各都市における収容施設の位置は不明。
なお、人質の女性達は織物工場などで
集団で働かされている可能性が高いと思われる。
以上がジリヒンヌ側で調べた情報である。
その実情を探るために
各城塞都市に入り込んでの調査が必要だが、
リスクが高すぎる割に効果が不明なため、
これまで着手されてこなかったのだが…
俺の提案はこうだ。
まず、流れの商人として都市に潜り込む。
幸い、商品には事欠かない。
ホムセンにある安物のプラ食器ですら
この世界では珍しいだろうし、
包丁などの調理器具に至っては
かなり高級品扱いされるだろう。
露店で、何処にでも売っているものから始めて、
徐々に商品のグレードを上げていけば、
やがて貴族相手の個別訪問販売に行きつく。
そこで情報を得られるはずだ。
そして工場を担当する責任者に繋いで貰い、
服飾関係で新しい事業を考えているだの理由をつけて
女性が多く働く工場を見学させてもらう。
そこでこっそり動画を撮影、王国に持ち帰って
女性達の人相に心当たりが無いかを確認してもらう。
まずは顔の広い王族で確認し、
その後、親族と思われる人をあたるー
かなり地道な作業になるだろうが、難しくは無いと思う。
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俺は手のひらに収まる小型の動画撮影用カメラを王に見せた。
パソコンを取り出して撮影した動画を見せて説明すると
王は興味深げにそれを見つめる中、
俺がパソコンを取り出して録画した映像を再生すると、
王の目は驚きに見開かれた。
「…とんでもない魔道具だな。」
驚くだろうとは思っていたが、
思いの外、未知のテクノロジーを受け入れるのが早い。
魔法がある世界なので、
ビデオカメラも魔道具として
誤解してもらえるからなのだが、
ある意味ありがたい。
以前アニメか何かで、江戸時代から現代に
タイムリープした武士がテレビを見て
「中に人がおるぞ!助けなければ!」
と騒ぐシーンがあったけど、
そんなバカみたいな反応じゃなくて助かった。
トップが優秀だと話が早い。
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それから何時間もかけて王と話し合った結果、
俺の計画は王のお墨付きとなり、
早速、実行に移そうということになった。
そして王との立ち合いから5日後の今日、出発である。
今回、商人として行動するために、
幌馬車と御者兼護衛を付けて貰った。
「タクミ殿、紹介しておこう。この者が護衛のラリーだ。
重要な任務ゆえ、真に信頼のおける人間を選んだ。」
「ラリー=ツマスキーです。
思っても無い光栄な任務を頂き、感謝申し上げる。
よろしくお願い申し上げる。」
30代後半くらいだろうか?
オールバックに少し前髪を垂らした
上品で素敵なおじ様だ。
だが、間違いなく強いと思う。
王のような豪快さ・大らかさは無いが、
気品と殺気が同居していて、
なおかつそれがカッコよく見える。
日本ではお会いしたことの無い雰囲気の人だ。
高位貴族であり歴戦の武人、
という表現が一番しっくりくるか。
「は、はい!こちらこそよろしくお願いします!」
相手が男なのにシュッとしすぎて緊張するわ。
少し向こうでは、姫様が女王様と言葉を交わしている。
女王様、初めて見るけど綺麗だな~。
さすが姫様のお母さん……。
「タクミ君、女王様ガン見はどうかと思うよ?
姫様に報告しちゃうぞ?」
「ソレハヤメテ……」
「じゃあ先に馬車に乗っとこうね~
母と娘の別れの挨拶って時間かかりがちだし」
「確かに。さすがアーヤさんは気配りの人です」
「でしょ?分かったらお菓子出しなさい」
「ハイ…」
アーヤさんにカツアゲされつつ、
俺は馬車に乗り込んだ。
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