1話 シンクロスタート
『シンクロ完了まで、3、2、1……ようこそ【72(セブンティツ―)】の世界へ!!』
スマホに代わる新時代デバイス【バーチャルホン】。
片耳に挿入するイヤホンタイプで極端に軽量化されたこのバーチャルホンは、最先端のAR技術によって画面映像を宙に投影する事が出来る画期的なものだ。
また、AR映像から実際と同じように感触、匂い、熱等を受け取れるように対象の脳に直接電気信号を送るシステムを搭載している事から未だに恐怖感を拭い切れない層が一定数いる。
だが、それでも一般的な携帯電話として切り替わっていくのは間違いない。
そんなデバイスに本日深夜0時。
つまりはたった今、遂に待望の公式ゲームアプリがリリースされたのだ。
ゲームのタイトルは【72(セブンティツ―)】。
AR技術によって生まれた72体の悪魔とそれの支配下となる無数のモンスターから成るこのゲームはβテストの段階から人気を有し、バーチャルホンの売り上げはこのゲームをきっかけに今もなお爆発的な売上増加を見せている。
そんなゲームを心待ちにしていたユーザーは数えきれず、俺もそんな中の1人だ。
それにしても今年28歳になるっていうのにゲームのリリース1つでここまで心躍るなんて全く思っていなかったな。
『βテストでの情報を読み込みました。獲得したアイテム、ゴールドを引き継ぎました。全セーブデータの経験値、レベル、職業をリセット。新しい職業の選択を行ってください。注意、公式リリース版で保有出来るセーブデータは1つのみであり、自己によるリセットは不可能です。また、注意事項を必ずお読みください』
脳に響く声とBGM、それに空中にはβテストの開始時と若干違うテキストが投影されていた。
因みに違っていたのは、セーブデータを複数持てないという所。
恐らくサーバーに掛かる負荷を少しでも減らす為の施策なんだろう。
注意事項は……取り敢えずスキップでいいか。
『デバイス情報からプレイヤー名【芦沼瑞樹】で登録致しました。次に職業の選択をして下さい』
「えっ? プレイヤー名強制本名なの?」
映し出されたキーボードをあれこれいじってみるが、プレイヤー名の変更は出来ないらしい。
まぁ今は身バレして困るような環境にいないからいいけど……。
『職業の選択は画面に映し出された画像をスライドさせて選択してください』
少し時間を空けてしまったのが原因なのか、急かすようなアナウンスが流れたので俺は名前の変更を諦めて職業の選択に移った。
職業というのは、固有のスキル習得や特性だけでなくステータスにも影響を及ぼす大事な要素。
パーティーを組みやすい人ならいざ知らず、俺みたいな基本ソロプレイヤーだと大器晩成型の職業は中々にしんどい。
そんな職業は選べない。
そう思った俺はβテストではセーフデータが複数持てた事もあって、全ての職業を1度試す事が出来たのだが……。
職業を試す事に時間使い過ぎてゲーム内の戦闘力ランクが最低になちゃったんだよなぁ。
「でもそのおかげで……お! あったあった!!」
戦闘力ランク最低だったプレイヤーだけが選べるようになる救済処置職業、それがこの『アンデッド』。
もはや職業じゃないだろっていうツッコミは勿論済ませてある。
「よし、じゃあこれで……決定」
『職業を【アンデッド】で登録しました。芦沼瑞樹の身体データ等々をスキャン……。スキャンが完了しました。データを常に最新の状態で保持する為アップデートは自動で行われます』
身体データのスキャン?
これもβテストの時はなかった。
ゲームをよりリアルにする為だとは思うけど、そこまでは必要かな。
『ステータスの表示が出来るようになりました。ショップの解放は5レベルで可能です。注意事項はお知らせページにて記載しております。ユーザー情報や悪魔の残り頭数の確認、クエストの進行具合の確認を行いながら、クリアを目指しましょう。この世界が救われる事を心より願っております』
アナウンスが聞こえなくなり、テキストも消えた。
残っているのは視界の隅にある3本の白い線が縁で囲まれたマーク。
マークのある場所に指で触れると、ステータス、装備、ショップ【未開放】、アイテム、情報、お知らせの項目が現れた。
そう、これはメニューバー。
鬱陶しければ声による呼び出しにして、消す事も出来るが俺はこのゲーム感が好きだから出したまま派だ。
「おっし。レベル上げしないと、クエストに参加も出来ないし、早速――」
ピコンッ!
早速ゲームを始めようと、玄関に向かおうとすると、その瞬間メニューバーの上に赤く①のマークが現れた。
きっと、始まったばっかりでサーバーが重くなっているから何かしらの不具合が起こってるんだろう。
そう思いながら俺はメニューバーに触れ、お知らせのページを開いた。
――――――――――
【重要なお知らせ】
プレイヤーの皆様、いつも72(セブンティツ―)をお遊び頂きありがとうございます。
今回はリタイアとなってしまったプレイヤーの数が一定に達しましたので、その報告となります。
■リタイア数
『10000人』
■内自主リタイア
『3000人』
バーチャルホンを無理やり外してしまった場合強制的にリタイアとなります。注意事項はお知らせページにて再度確認出来ますので、まだの方は必ずお読みください。
――――――――――
「リタイアって……いきなりHP0になったのか? そんなシステム前はなかったはずなんだけ――」
「がぁ?」
「え?」
お知らせの内容を読み顔を上げた。
すると目に入ったのは1匹のゴブリン。
そしてその口からはみ出す1本の人間の腕だった。
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