旅立ち
「なぁ、カグツチ。明日大丈夫かなあ?」
雲一つない澄んだ青空に2人の少年達が竜に跨る。
「大丈夫だよ。ずっと頑張ってきただろ?」
真紅の瞳を持つ少年カグツチは、な?と右隣の黄色の眼を持つ少年スサノオに微笑みかける。
少年達が住んでいる、施設は竜乗りを目指す少年少女が住んでいる。竜乗りは、この地での厄災の調査、退治の為の組織だ。竜乗りは、あまりいい仕事では、無い。理由は、人それぞれだが。1番の理由はいつ死ぬか分からないのだ。特に階級が低い者は、調査では1番始めに出動するからだ。
階級は、やはり上の方が良い。
自身が乗る竜も強く早く賢い種族が良い。
そして、その階級と竜を、決めるのが明日行われる試験なのだ。皆緊張する。普段お調子者のスサノオでも
緊張するのだ。緊張しない人は、少数だ。
いないわけでも無い。
「なぁ、カグツチ俺ちょー、緊張する」
「緊張ってどんな感じ?」
緊張しない奴は、いる。特にこの少年、カグツチは
緊張、絶望、恐怖などなど、常人なら感じるであろう
者を全て欠落させているのだ。
試験などでは、緊張で失敗した事は無い。そもそも緊張をしないので練習通りの力を存分に出せるのだ。
そして、彼は優秀だ。
「そっかぁ。お前優秀だもんなぁ。星10だろ?」
「勝手に決めんなよ。まだ試験受けてないし。」
スサノオが言う「星」と言うのは、竜乗りの階級の事だ。星の数字が上に行けば行くほど優秀という事になる。
「じゃ、先行くぞ!」カグツチは、手綱を強く竜に打ちつけ天に登る。
「ちょ。置いてくなよ!」スサノオも後を追うように手綱を竜に打ちつける。
「君には、絶望したよ。」
施設長は、ふぅぅと、溜息を漏らし口をゆっくりと開く。「星1だ。」
カグツチは、俯向く。
何が悪かったんだ?いつも通りやった筈だ。緊張?
いや、違うコレは緊張じゃ無い筈、スサノオの説明の
手が震えたり、頭が真っ白になったりしなかった。
じゃあ。何で...
「コレが君の本当の実力だったのか...」
施設長は、ボソリと呟く。
思っている事を人に言われる事は、辛い事なんだと
初めて彼は、知った。
そっか、コレが自分の実力か...
昨日までは、まぐれだったのか...
考えれば考える程悲しみがこみ上げてくる。
静かな施設長室に嗚咽が響いた。
彼は、今日初めて、悔しさと悲しみを覚え、涙を流した。
「なぁ!カグツチ俺、星6だった!」
部屋に戻るとスサノオがニコニコしながらカグツチに駆け寄る。
「良かったな。」カグツチは、ニコッと笑い返し、
荷物をまとめ始める。施設長から荷造りをして外に行くよう伝えられたからだ。
「えっ。カグツチ何してんの?」
荷物をまとめ始めるカグツチにスサノオは少し焦りながら駆け寄る。
「僕、もう出るから。じゃあ。これから頑張れ。」
「え?どゆこと?」
カグツチは、ドアに向かう。
「僕、星1だったんだ。」
と、言ってから、ドアを開いて外に向かう。
「なぁ。何かの間違いだろ?お前が星1?ありえない」
スサノオは、とぼとぼ歩くカグツチの背を走って追う。「僕は、大丈夫だから。君は、自分のする事をするんだ。いいか?頑張れよ。じゃ。」
スサノオに優しく笑いかけてカグツチは、外に出た。
「すまない。カグツチ。許してくれ。これしか方法が無いのだ。」施設長室の窓から、真紅の瞳を持った1人の少年の旅立ちを見送る影があった。