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黄金の魔族姫  作者: 風和ふわ@コミカライズ連載中
【没】第五章 エレナと不屈の魔導士たち
98/145

98:魔導を求める理由

ただいま、リュカの過去を色々と加筆修正中。


 マナ鉱石というのは暗く湿った洞窟に生息する“生きた鉱物”で、周囲のものから魔力を吸い取る性質がある。故に魔力が命である魔族達に嫌われており、テネブリスではマナ鉱石の一欠けらでも見つけてしまえばすぐさま粉々に砕かねばならないとされている。そんなマナ鉱石が一体全体どうしてリュカの手元にあるのだろうか。リュカはポツポツ語りだした。


「このエボルシオン魔導学園と隣接しているランツァの森の中に洞窟があるんだ。その洞窟に生息しているバナナモグラの死体と糞の中で見つけた鉱石なんだけど……これ、マナ鉱石って言うの? どうして君がこの魔力が宿る鉱石の名前を知っているの? もしかして君、魔力とか魔法に詳しいの!?」

「あっ」


 エレナはしまった、と間抜け面を浮かべた。サラマンダーが頭を抱える。


「俺達は元々魔法や魔導を研究している師匠から入学を勧められてここに来たんだ。そこではその鉱石はそう呼ばれていた。それだけの話さ」

「アンス先生の他にも魔導の研究している御方がいらっしゃったの!? そ、その御方のお名前は!?!?」

「……ドリアード先生だ」


 サラマンダーの出まかせにエレナは黙って頷いた。この事は内緒にね、と釘を刺すとリュカは大袈裟に頷き、エレナとサラマンダーを熱っぽく見つめる。どうやらサラマンダーの嘘のおかげでたった今二人は完全にリュカの心を掴んだらしい。

 

「嬉しいなぁ、僕の他にも魔導の師匠を持つ弟子がいたなんて! エレンにサテイだっけ? これからよろしくね!」


 先程まであんなによそよそしかったというのに、二人が魔導に通ずる者であると知るとこの変わりようである。よほど彼は魔導の魅力に執心しているようだ。……だが、とにかく今はリュカがこのマナ鉱石を使ってどのように身体強化魔法を使用したのか問い詰めるのが最重要だろう。魔族にとってマナ鉱石とは見た途端にその輝きを失うまで砕くものである。それ故にテネブリスでマナ鉱石の研究は進んでおらず、それを利用した魔法の使用など聞いたことが無い。エレナがそれを尋ねるとリュカはあっさりと話してくれた。


「うん、僕はこのマナ鉱石と()()()()()()()()!」

「…………、」


 エレナとサラマンダーが黙って顔を見合わせた。おそらく二人の心は今、シンクロしている。そんな二人に気づかずにリュカは手の平サイズのマナ鉱石に頬ずりした。


「この石はね、最初は小指くらい凄く小さかったんだよ。でも魔物の血や魔花の蜜を少しずつあげていって、毎日毎日欠かさずに声をかけてあげたら……ある日突然僕の願いを聞いてくれるようになったんだ。……ね?」


 エレナとサラマンダーは相変わらずリュカを疑っていたが、マナ鉱石がそんなリュカの言葉に反応するかのように輝き出したのだから驚く。その後もリュカの言葉にだけ反応を示すソレに、サラマンダーは眉を顰めた。


「ほ、本当に、魔力と会話をしている……のか?」

「そうだよ! そうだって言ってるだろう! あ、ちなみにこの鉱石の名前はエリザっていうんだ」

「な、名前まで……!」


 幸せそうな顔でマナ鉱石に話しかけるリュカにエレナはなんだか笑みがこぼれる。


「ふふ、確かにマナ鉱石に話しかけようだなんて人、世界中どこを探してもリュカ君以外にいないよ。貴方の好奇心が新しい魔導を開いたんだね!」

「!」

 

 そんなエレナにリュカはぽぽぽ、と顔を赤らめた。そうしてぎゅっと唇を噛みしめると、リュカの大きな瞳から涙が流れる。エレナは自分が泣かせてしまったのかと顔を青ざめるが、どうやらリュカのこれは嬉し泣きのようだった。


 しかしサラマンダーは未だに腑に落ちない点があった。リュカがどうしてそこまで世間体ではイメージの悪い上に使用すると身体に副作用まである魔導に入れ込むのか分からなかったのだ。リュカはサラマンダーの質問に涙を拭う。


 リュカは語り出した。エレナとサラマンダーは黙って彼の言葉に耳を傾ける。


 十年前──リュカはとある小さな村で暮らしていたらしい。その村は魔物の被害が大きく、度々恩恵教の神父が訪ねてきていた。


 そして彼は言う。人間は魔法を操る魔物には敵わないのだから何をしたとしても無駄なんだ、と。故に村人は悪魔や魔物に怯えながら絶対神デウスを信仰し、()()()()()()()()()()()()、と。

 そんな神父の言葉にリュカは幼いながらも違和感を抱いた。何をしても無駄であるなんて、何もしようとしていないくせに何故分かるのか。リュカは神父にそう言い返した。人間だって諦めなければ悪魔に勝てるかもしれない、人間はデウスに自分の運命を丸投げして戦おうともしていないだけだ、とも。そんなことを叫ぶ幼いリュカを神父は──魔物への生贄にした。神に頼らずに人間自身の力で戦う。それは絶対神デウスを否定することになる。そんな危ない思想を持つリュカがいるからこの村は神に見放されたんだと神父は言い放った。生贄なんて既に何人も魔物に捧げている。捧げたところで皆、状況は変わらなかったというのに。生け贄の中にはリュカの友人だっていた。だからリュカはそれはおかしいと声を上げたのだ。縄で拘束されながらも、リュカは必死に村人に叫んだ。皆で戦おう、と。そうしたら勝てるかもしれないじゃないか、と。だが。


 ──『人間ごときが、悪魔や魔物に敵うはずがないだろう愚か者』

 ──『我々は、()()()()()()()()()。神の力がなければ勇者にも英雄にもなれないんだ!!』


 ──幼いリュカに、神父が冷たくそう言い放ったという。村人達はそんな神父の言葉に狂ったように賛同していた。そしてその後、たまたまその村に滞在していたアンスによって救い出されて現在に至る。

 リュカはぎゅっと自分の胸を抑えた。あと数十秒でもアンスの救出が遅れていれば、自分は魔物の胃の中に収まっていただろう。それほど危なかった。故にだからこそ、その時のアンスの言葉がリュカの魂にはっきりと刻まれていたのだ。


「アンス先生は生贄にされ、絶望した僕にこう言ってくれた。『人間は何もできないわけではない。諦めない限り、何にだってなれる。その可能性がある。魔導はその可能性の一つだ』って」


 リュカは顔を上げ、エレナを真っ直ぐ見つめる。その瞳の奥にはとてつもない熱が滾っているのがエレナには分かった。


「その時、僕は誓った。これから先はこの人にずっとついていこうってね。僕の一生をかけてアンス先生に恩を返すんだって。アンス先生はうまくいかない魔導の研究に苦しんでいた。だから僕も魔導の研究に没頭した。それに、こうも思ったんだ。何の取柄もない僕が“勇者”みたいに魔法を使えたら、きっと皆気づくはずなんだ。人間は非力なんかじゃないんだって。何も出来ないと最初から神様や全く知らない他人に自分の未来を任せてしまうのは間違っているって……!! 神を否定することで生け贄なんて馬鹿な制度もなくなるかもしれない!!」


 リュカの感情に反応するかのように、エリザがさらに真っ赤に輝く。リュカはエレナの両手を握った。サラマンダーの眉がピクリと反応する。


「──お願い、エレン、サテイ! 僕に協力して。十年かけてこのエリザまで僕は辿り着いたんだ! でもまだ欠点が多すぎる! 僕はもっともっと魔導を極めていかなければいけないんだ! だから、魔導に通ずる君達の力を貸してほしい!! 僕の研究に付き合ってくれないか!?」


 ──そんなリュカの熱い視線にエレナは思わず頷くことしかできなかったのだった……。

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