97:一瞬の馬鹿力
※96話修正しております。
ツンツン頭の名前はジャック・ブロンソン。黒髪青年の名前はリュカとなっております。
タイトルも変更しました。
エレナが中庭に到着しても、未だにツンツン頭──ジャックの猛攻は続いていた。エレナは人の間を潜り、その戦いを止めに入ろうとする。しかしその前にサラマンダーが後ろからエレナの身体を抱きしめた。
「おい! 勝手に行動するな馬鹿!」
「で、でも、あんなの放っておけないよ!!」
……と、そんな時だ。周囲にいた野次達が驚愕の声を上げる。エレナとサラマンダーもそちらに目を向ければなんと、あの細い黒髪青年──リュカが体格のいいジャックの腹に己の拳を埋め込んでいた。そして文字通り、ジャックを吹き飛ばした。
「──はっ?」
そう声を上げたのはジャック本人だ。育ち盛りの身体が一メートル程先で地面に衝突する。皆が唖然とした。しかし当のリュカは既に地面に横たわって動かないではないか。皆の前で恥をかいたと思ったジャックは顔を真っ赤にして、そんなリュカの身体を蹴り飛ばした。そこでエレナはサラマンダーに隙が出来たことに気づき、その腕から飛び出す。リュカを守る様に両手を広げた。ジャックが鼻息を荒げてエレナを睨む。
「あぁ!? なんだ転入生。てめぇも蹴り飛ばされてぇのかっ!?」
「もうやめなよ! 動けない相手に情けない!」
「なさ……っ!?」
ジャックの羞恥心に追い打ちをかけるエレナ。すぐさまジャックが歯茎を剥いた。我慢できないと勢いよくエレナに拳を振り上げたが、その振り上げた腕が誰かに捕まれる。掴んだのは勿論、サラマンダーだ。ぎぎぎ、とサラマンダーの怪力がジャックの腕を圧を掛けていく。ジャックはこのまま自分の腕が握り潰されてしまうのではないかと恐怖に襲われ、思わず腕を下ろした。そうしてサラマンダーとしばらく睨み合うと、「覚えてろよっ」とだけ呟いて大股で中庭を去っていく。
一方でエレナは動かなくなったリュカの様子を窺っていた。顔色は悪いものの、呼吸はしている。おそらく気を失っているだけだろう。懇願するようにサラマンダーを見上げれば、彼は渋々リュカを担いだ。
そして周囲の生徒達に見守られながらも、エレナとサラマンダーは救護室へ向かったのだった……。
***
救護室のベッドでリュカを寝かせて数十分後、彼は目を覚ます。黒い大きな瞳で瞬きを繰り返し、頭を抱えた。彼の傍らにいたエレナがぱっと笑みを溢す。
「よかった! 目が覚めたの……んだね!」
「僕は……」
リュカがエレナとサラマンダーを見て、今の状況を察したらしい。サラマンダーが怖い顔でリュカを睨む。
「お前、リュカという名だったな。あのジャックを吹き飛ばした馬鹿力は身体強化魔法だな?」
そう。サラマンダーの言う通り、身体の細いリュカがジャックをあんな風に豪快に吹き飛ばせるはずがない。つまりはリュカは魔導の力で己の身体に身体強化を施したのだ。その証拠にリュカの腕が未だに痙攣を起こしていた。魔導の副作用の一つだ。しかしここで、疑問が浮かぶ。
「魔花の私的な利用は禁止されていると聞いたが? それに魔花はアンス先生によって厳重に管理されているはずだ。どうやって手に入れた」
「……違う、魔花じゃないんだ」
リュカは俯いた。リュカの漆黒の前髪が彼の顔を隠す。エレナとサラマンダーは顔を見合わせた。二人の頭の中には一つの可能性が浮かんだのだ。もしリュカが魔花の力を使って魔法を使ったのではないとしたら──
──悪魔の力を使って、魔法を使用している可能性。
エレナが「魔花じゃないならどうやって?」とすかさず尋ねる。リュカは勿論黙り込んだ。今日出会ったばかりのエレナ達に己の秘密を教える義理はないと言いたげに。そこでサラマンダーが口を開く。
「ならば今回の件を俺達はアンス先生に報告しよう。事情はお前からアンス先生に話すといいさ」
「っ! ちょ、ちょっと待ってよ! こ、今回の一件は君達には関係ないはずだ!」
「関係なくとも、学園での不祥事は学園長に報告してもおかしくはないだろう。アンス先生も転入したてで右も左も分からない俺達に何かあったらすぐ訪ねてきなさいと親切におっしゃってくれたしな。お前が奇妙な力によってジャックを暴行した、とでも言っておこう。なぁ、エレン?」
「う、うん! 教えてくれないなら先生に報告するから!」
サラマンダーの目くばせにエレナはぎこちなく頷いた。リュカがきゅっと唇を結ぶと、再度俯く。彼はゴソゴソと懐から何かを取り出した。そこから現れたのは──真っ赤な、鉱石。エレナは目を見開く。その鉱石には見覚えがあった。
「マナ鉱石……?」




