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黄金の魔族姫  作者: 風和ふわ@コミカライズ連載中
【没】第五章 エレナと不屈の魔導士たち
92/145

92:ウィンの提案

「ベルフェゴール……!」


 エレナの両眉がきつく寄せ合った。悪魔ベルフェゴール。それはリリィを強引に暴走させた張本人だったからだ。アンスの話は続く。


「生徒はそれはそれは憎しみを込めてその名を呼び、その者が我が校に潜んでいることを告発して死んでいきました。そこで私は気付いたのです。彼は自殺ではなく他殺だったのだと。悪魔ベルフェゴールは私の大切な生徒を弄んだ! 私は、それを許すわけにはいかない!! 勇者様、先程貴方方を否定するとは言った私が言えることではないのですが……私にはどうしても悪魔と戦える力がある貴方方が必要です! これは私の信念に反することではありますが、私はそれ以上に悪魔ベルフェゴールを許せない……!! だから、どうか……どうか、我が校をお救いください……お願い致します……っ」


 つぅ、とアンスの頬に一筋の涙が伝った。エレナは唇をきゅっと結ぶ。悔しそうに歯を食いしばるアンスに心が動かされたのだ。そこで枢機卿が勇者達とエレナに視線を移す。


「──そういうわけなのです。エストレラ王国の女性失踪とエボルシオン魔導学園の生徒の自殺。この二件にセロ及び悪魔が関わっている可能性があります。そこで同盟の規約により勇者様とエレナ様の力をお借りしたい」

「……二手に分かれるというわけですか」


 サラマンダーがそう言うと、枢機卿は頷いた。エレナは思わずノームと顔を見合わせる。


(え、つ、つまりそれって私達四人で二対二に分かれるってこと!? えぇ……ウィン様とペアになったらどうしよう……! 流石に気まずい!)


 そんなエレナの思いを察したのか、枢機卿がフォローを入れた。


「ではエレナ様とノーム様、サラマンダー様とウィン様のペアにしましょうか。エレナ様はいつも無理をなさる傾向があるので、そのリミッターとしてノーム様が適任かと私は思っております」


 エレナは枢機卿の案に胸を撫で下ろす。しかしここで、なんとウィンが「発言、よろしいでしょうか」と言い出した。皆の視線がウィンに集まる。


「エストレラ国王と僕の父は親しい間柄です。そして僕自身も彼にお世話になっているので、エストレラの件はぜひとも僕のペアが引き受けたい」

「確かに、エストレラ国王もぜひともウィン様に調査をお願いしたいと依頼書にも書かれておりました。両者の希望を叶えるべきでしょうな」

「──それで、僕はこのエストレラ王国の件をサラマンダー殿下ではなく()()()()()()調査したいと考えています」

「!!」

 

 エレナは思わず目を丸くした。理解が追いつかなかったのだ。ウィンを見れば、彼もエレナに熱い視線を送っているではないか。ノームが怖い顔を隠さずに、ウィンを問い詰める。


「どういうつもりですか、ウィン様」

「どういうつもりとは? 女性が失踪しているのだろう。それを調査するには女性であるエレナの力が必要だと思っただけだ」

「っ、エレナを囮にするということか!!」


 ノームが思わず立ち上がった。エレナが慌ててそんな彼を抑えるが、怒りは収まらないようだ。ウィンが澄ました表情で彼を見上げる。


「勿論、エレナの安全は僕が保証する。僕の命に懸けて彼女に傷一つつけさせない。……エレナ、君はこの件をどう思っているんだ」

「っ、」


 ウィンの瞳がエレナを貫いた。ウィンの突然の提案にエレナは動揺を隠せない。確かに自分が囮になれば調査がスムーズに行えるかもしれない。消えた沢山の女性の為にはエレナ自身、囮になっても構わないと思っている。だが、戸惑うのはウィンの言葉だ。処刑するほどエレナを嫌いなのだろう彼が命を懸けてエレナを守ると言い出したのだ。戸惑わないわけがない。


「私は、事件解決へ一歩進めるなら囮になってもかまいません」

「……あぁ、そうだろうな。君はそういう(ひと)だ」


 ウィンの表情が綻んだ。そんな彼にエレナは硬直する。そのように穏やかに微笑むウィンを見るのは随分と久しぶりだったからだ。しかしここでノームがはっきりと「それには反対だ」と言い張った。綻んだウィンの顔が再度無表情モードへ切り替わる。


「ノーム殿下。僕の案に反対である君の意見を聞こう。よもや()()など持ち込んではいないでしょうね?」

「──エレナはサラマンダーと共に魔導学園へ行くべきだ」


 ノームの新たな提案。枢機卿がその理由を尋ねた。ノームはサラマンダーを見る。


「……サラマンダーは最近、身体の調子が悪い。昨日も倒れたと聞いている。本人は隠しているつもりだろうが。エレナの治癒魔法ならサラマンダーの不調にも対応できる」

「っ、」

「そうなの? サラマンダー」


 サラマンダーは返事をしなかった。目を泳がした後、俯く。おそらく事実なのだろう。そういえば以前にも彼は魔力を使用した際に気絶したことがある。ノームやウィンよりも魔力消費が激しいという彼の体質と何か関わっているのかもしれない。ならばエレナが傍にいた方がいいだろう。これにはエレナも力いっぱい頷いた。


「私もノームに賛成です! 私の力でサラマンダーを支えることができるのなら私は彼の傍にいたい! それにベルフェゴールは以前報告したように私の弟を暴走させたり……私自身、彼には借りがあるんです!」


 枢機卿がウィンの顔色を窺う。ウィンは「そういうことであれば」とノームの案を了承した。

 ……つまりこれで、ノームとウィンはエストレラ王国の女性失踪の調査へ、エレナとサラマンダーはエボルシオン魔導学園に潜む悪魔ベルフェゴールの調査へ向かうことが決定したのである。

 

 ひとまず詳しい調査依頼書と参考資料などは枢機卿が明日にでも勇者達とエレナに配ってくれるということで今日の話し合いは終了した。話し合いが終わるなり、ノームがエレナの腕を掴む。


「エレナ、行こう。テネブリス城まで送る」

「ちょっ、ノーム……?」


 いつもより強引なノームにエレナは眉を下げた。しかしノームが談話室を出ようとしたところで、声が掛けられる。声を掛けたのはウィンだった。


「──エレナ。少し、話があるんだが」


 エレナは思わず振り向く。ノームの手がピクリと震えた。ウィンは無表情を崩し、今にも泣きそうな顔でエレナを一心に見つめている。


「君と話す資格なんてないのは、僕が一番分かっている。だが、僕は君にどうしても伝えたいことがある。……頼む、」


 吐息と感情が入り混じった強い言葉にエレナは唇を結んだ。己の胸に手を当てる。


(ウィン様がどういうつもりなのかは分からない。でも、私も彼とこのままの関係で終わるのは嫌だと思う。長年ずっと一緒だったってこともあるけれど……オリアス達の為とはいえ私が先にスペランサ王国を、そしてウィン様を裏切ったのは事実なのだ。私は彼に向き合うべきだろう)


 己の考えを決めたエレナはウィンを真っ直ぐ見つめ返した。彼の話とやらを聞くことにしたのだ……。

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