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黄金の魔族姫  作者: 風和ふわ@コミカライズ連載中
最終章 エレナと黄金の女神編
135/145

122:蘇れ

 ──テネブリス城、エレナの私室にて。


「ほんといい加減に目を覚ましなさいよ」


 エレナの寝室ではサキュバスのリリスがため息を溢し、エレナの寝顔を眺めていた。

 彼女は未だに死んだように眠っている。その隣では弟のリリィがエレナの手を離さないまま寄り添って寝ていた。


「城の男どもは全然駄目だわ。エレナ様がいないと覇気がないのなんのって……。ねぇ、貴女が眠っている間に私達の大切な仲間が一人、()()()()()()()()()……。お願い、早く帰ってきて……。貴女がいるだけで、傷ついた城の皆は前を向けるんだから……」


 震える唇。そしてリリスは我慢できずにその真っ赤な瞳から涙を流す。


 ……と、その時だ。


「ん、」

「っ!!」


 ほのかに漏れた吐息。リリスはハッとした。そして次の瞬間にはバッと勢いよく半身を起こすエレナ。「目を覚まして」とは言ったものの、ここまでダイナミックに起きられてしまえば、リリスも驚くというものだ。エレナは自分の頬を抓り、ここが現実であると理解した瞬間──リリスを見た。


「リリスさん! ウィン殿下は!? ウィン殿下はどこにいるの!?」

「え、うぃ、ウィンって……あのスぺランサの王子のこと……?」


 まさか真っ先にウィンの名前が出るとは思わず、リリスは困惑する。

 そんな彼女にエレナは詰め寄った。


「そう! 色々説明は後! とりあえずウィン殿下のいる場所を教えて!」

「え、ええと……あの王子ならノーム様と一緒に医務室で寝てるけれど……。シルバーが見張っているはずよ」

「了解! ありがとう!」


 風のような速さで部屋を飛び出していくエレナにリリスはポカンとする。しばらくそうしていると思わずふふっと笑みをこぼし、己の涙を拭った。


「──まったく、人に散々心配させといて! おかえりの一言くらい言わせなさいよね。まぁ、あの子らしいけれど!」




***

 



 その後、エレナは自室から飛び出して医務室に駆けこんだ。

 そこにはおろおろしているエルフ達とシルバーの姿があった。シルバーはエレナを見るなり、目を見開き、そして優しく微笑んだ。


「目が覚めたのですね、エレナ様」

「シルバー! 心配かけちゃったね。でも今はそうじゃなくて! ウィン殿下はどこ!?」

「こちらでございます。今まで静かだったのですが、たった今容態が急変しました」


 シルバーが目の前のベッドを示してみせた。すぐにそちらに目を向けると、エレナは絶句する。

 尋常じゃない程の血液がウィンの口から吐き出されていた。それは白いベッドを染め、上半身のほとんどを濡らしている。生を感じられないほど、顔を青ざめていた。ビクンビクンと痙攣を繰り返し、苦痛の吐息が漏れている。その姿は──死ぬ前のレイナ・リュミエミルの姿によく似ていた。これが悪魔の力を使った代償なのだろう。誰が見ても、今にも彼が虫の息なのは明らかだ。

 その姿に様々な感情がエレナの脳で爆発し、唇を噛み締めて拳を握る。

 

(駄目。冷静に……。今は怒る時じゃない)


 エレナはそう自分に言い聞かせ、ひとまず深呼吸をした。


「エレナ、」


 声を掛けられる。見ればノームが隣のベッドから起き上がり、エレナと目が合うなり頷いた。お前ならできる。そんな言葉が確かに聞こえる。

 エレナは彼の激励に勇気をもらい、ウィンと向き合った。


「絶対に死なせないよ、ウィン殿下。貴方には直接謝ってもらわないと気が済まないんだから」


 そっと彼の胸に触れる。その背後ではシルバーと……影からいつの間にか現れていたサタンがエレナの肩を掴んでいた。


「シルバー、サタンさん。私に力を貸して。もう私は目の前で誰も死なせない」

「ああ、(エレナ)よ。分かっている。我の全てを君のために使おう」

「仰せのままに。吾輩の唯一無二の友よ」


 次第にエレナの瞳が充血して、真っ赤に染まっていく。それと同時に医務室中に黄金の光が満ちていった。そうしている間にもウィンの身体のあちこちから肉の千切れる嫌な音がするので、早急に治癒しなければならない。

 ……だがエレナはどういうわけか焦っていなかった。己の身体からいつもの倍以上の魔力量を感じ取っていたからだ。医務室中に浮かびあがる黄金の光の粒が今までとは明らかにレベルが違う量であることからもそれが分かる。それはその場にいた者があまりの眩しさに目を開けられないほどだ。


(元々私とサタンさんの魔力で成り立っていた治癒魔法。それにシルバーの怠惰(不死)の呪いと魔力が加わることでこんなに力が増すなんて……。魔力には相性があるらしいから、私とシルバーの魔力の相性がものすごくよかったのかも……)


 いつもより五感が冴えていた。調子はすこぶるいい。後は吐き出すだけだ。

 エレナはすぅっと息を吐き、いつもの呪文──ではなく、どういうわけかふと頭に浮かんだ新しい呪文を唱える。

 いつの間にか足元にルーがいて、「きゅう!」と一鳴きした。


「──蘇れ(レクシオン)!」


 その瞬間、部屋中の光が驚異のスピードでウィンの身体へ集中していく。


 それはエレナの治癒魔法とサタン、シルバーの魔力が完全に一つとなり、治癒魔法からさらなる奇跡──()()()()へと進化を遂げた瞬間だった。

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― 新着の感想 ―
ルシファーさんとの約束通り、ウィンさんの治療(蘇生)をするエレナさん! 第五章でベルフェゴールの怠惰がこんな使い方するの!?とビックリしましたが、今となってはすごく頼りになる!!(*'ω'*)
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