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冒険者たち

 森の奥に拠点を構えて一ヶ月が過ぎた。周辺の樹木は小屋の補修に使うため、手刀で伐採を繰り返していたら、住み始めた頃と比べて敷地がかなり広くなった。

 あとはメアリーは元気いっぱいで、積極的に自分のお手伝いをしてくれると、毎日家の庭の木陰で読書を楽しんだり、子供用の遊具としてブランコやハンモックを作ってみたが、そちらもちゃんと使ってくれているようだ。


 貴族の子供なら、普通はとっくの昔にホームシックにかかったりするだろうが、今の所はそんな気配は全くなかった。


「しかし、結界内の植物は成長が早いね」

「どうしてなのかなー?」

「わかんにゃい!」


 自分の謎パワーに関しては相変わらず何もわからないし、別に知らなくても全く困らないので、そのままにしている。

 メアリーは好奇心旺盛で気になるのか、色々と調査や実験しているようだが、アタシは大雑把な性格と頭があまり良くないこともあって、基本は直感に頼って放ったらかしだ。

 だがとにかく菜園の野菜や薬草、果樹がスクスク育つのはいいことなので、何だか知らんがとにかく良しである。


「でも、こっちの野菜と薬草は、別の季節に実がなるんだよー」

「なるほどー。メアリーは賢いね」

「えへへー」


 得意気に小さな胸を張る彼女は、最近は図鑑なるものを物々交換で手に入れて、熱心に勉強している。

 そして残念だが当然のように、元村娘のアタシは字が読めない。村や町の表通りに書かれている文字は何となくわかるのだが、そこ止まりだ。

 既に人形の知能指数は金髪幼女に敗北しており、完全に置いていかれている。このまま差が開いていくのは、もはや避けられないと言ってもいいだろう。




 それはともかく、一日中動ける力自慢の人形が一ヶ月も頑張れば、小屋の修理と物資の調達は殆ど終わり、今ではそれなりに快適な生活を送れるようになった。


「洗濯物も干したし、今日はどうしようか?」

「んー…釣りに行きたいー」

「確かに最近肉料理ばかりだし、今日は川魚にしようか」


 小屋の中から釣り道具を引っ張り出し、少し歩いた先にある渓流に向かう。

 メアリーは聞いたことのない歌を口ずさみながら、元気いっぱいに両手を振って歩き、天使純度100パーセントで作り出した純白のロングワンピースが、風に舞ってフリフリと揺れる。

 普段は鬱蒼とした森だがまだ日が高いので、あちこちから木漏れ日が差し込み、金髪幼女の足元を明るく照らしていた。


 一方アタシはと言うと、天使の輪っかで釣り道具を固定し、背中に生やした翼をパタパタと羽ばたかせて、彼女の少し後ろを飛んでいる。


 金髪幼女の肩に乗って楽をするのもいいが、整備されていない森の足場は不安定なので、上下左右にガックンガックンと揺れるのだ。

 五感はあっても人形だからか酔いはしないが、どうにも視界が定まらないため、長時間揺れ続けると不快感が溜まってしまう。


「んー? メアリー、ちょっと待って」

「どうしたのー?」


 危険を避けるために外出する際には常に広域探知を使っているが、そこに妙なモノが引っかかったのだ。

 まだかなり離れているから、動物や魔物なら向かって来ない限りは無視するのだが、今回はちょっと対応に困りそうなので、前方を歩くメアリーを呼び止める。


「アタシたちが向かう渓流に、人間が居るみたい。数は三人で、それ以外に魔物が五匹」

「…釣りは中止ー?」

「そうしようかな。でも…うーん」


 このまま回れ右して小屋に引き返すのが一番いいのだろうが、アタシはどうしたものかと悩む。それを見たメアリーは、可愛らしく首を傾げて尋ねてくる。


「問題発生ー?」

「うん、多分冒険者だろうけど、生命力が急激に弱まっていってる人が居るの」

「助けるー?」

「まあ、見殺しは後味悪いからね」


 知ってしまった以上は、見て見ぬ振りはできない。そしてアタシの広域探知は、範囲内の相手の生命力と魔力を、大雑把だが測ることができる。

 その中の一人がもう少しで力尽きることに気づき、ここは助けるべきだと判断した。


 メアリーも反対しなかったので、素早く金髪幼女のロングワンピースの中に潜り込んで、天使(偽)への変身を完了する。

 その際に人形が肌に触れてくすぐったいのはわかるが、満面の笑顔で変な声を漏らさないで欲しい…と、アタシは強くそう思ったのだった。







<とあるCランク冒険者>

 冒険者ギルドでブラックウルフの討伐依頼を受けた俺たちは、途中で被害に遭っているという村に立ち寄った。

 そこで詳しい話を聞くと、奴らは毎晩森の奥からやって来ては、家畜や作物を荒らすらしい。数は全部で五匹だ。


 最初は数日滞在して魔物を待ち構えたが、奴らは冒険者が居ることに気づいたのか。警戒して襲ってこなかった。

 このままでは埒が明かないため、直接巣穴を探してそこを叩く意見が出たが、この森は世界樹を囲む広大な大森林を比べれば確かに狭い。

 しかし慣れた猟師でも、奥まで行って村に帰って来るのは一苦労だ。




 その点、森の探索に関しては素人の俺たちが、討伐対象を探して森の中をあてもなく彷徨い歩けば、自分たちの位置を見失って帰れなくなることは容易に想像がつく。


 その点では幸いと言って良いのか、村は森の奥から流れてくる川の近くにあり、ブラックウルフたちはどうやら川沿いに下って来ていることが、地元住民への聞き込み調査で明らかになった。

 なので俺たちもこれに沿って巣穴を探すことを、満場一致で決める。




 渓流を遡って森の奥へと踏み入れば、傾斜は緩やかで比較的歩きやすかったが、それでも時折大きな岩が立ち塞がったり、鬱蒼とした木々に邪魔されて、平野や街道と同じようにはいかなかった。

 おまけに一本道だが何処も似たような景色で、少しでもルートを外れたら、たちまち遭難するのは確実だった。


 今さらだがパーティーのリーダーは俺で、種族は人間で性別は男だ。職業は戦士をしている。

 そしてハーフエルフの女弓使いと、索敵やマッピングを行う男盗賊の三人組だ。皆まだまだ若いが先日Cランクに上がり、冒険者としての成長著しい注目株だった。


「おい、リーダー! あそこを見てみろよ!」


 村から丸一日川沿いを真っ直ぐに進んだが、ブラックウルフの巣の手がかりは見つからなかった。

 それでもかなり奥まで来たので、この辺りで一度引き返そうかと考えていたとき、俺と一緒に隊列の先頭に立って警戒し、索敵を行っていた男盗賊が何かを見つけて、足を止めた。


 彼はおもむろに前方を指差すので、俺だけではなく、目の良い女弓使いも同じ方角を目を凝らして観察する。


「あれは、…野営した跡かしら?」

「そのようだな。ゴブリンでも住んでいるのか?」


 渓流の河原には、小石を並べた簡単なカマドのような物が作られ、その中心には何かを燃やした跡が残っていた。

 森の奥は魔物が出没するため、人間が暮らすには困難な環境だ。


 しかしゴブリンは火を起こす知恵があり、劣悪な環境でも生存が可能だ。そんな人の手が入らない森の奥なのをいいことに、数を増やし、最悪集落を築いている可能性が出てきてしまった。


「受けた依頼はブラックウルフの討伐だが、放置するわけにもいかないか」

「だな。せめて簡単な調査だけでもしておこうぜ」


 もし敵の数が多ければ三人での討伐は難しいが、あくまでも調査を優先して情報を持ち帰るだけなら、そこまで難しくはない。

 今は奴らの住処を突き止めることが肝心だと考え、目の前の河原に築かれた小さなカマドに視線を向ける。


 ここで食事を取ったのほぼ間違いない。ならば痕跡を調べれば、敵の人数とどのような個体かも、ある程度はわかるかも知れない。

 周りを見渡してもカマドは一つだけなので、そこまで数は多くないようだ。


「ここで野営したのは確実だが、食べカスは残っていないぜ」

「暖を取っただけか?」

「その可能性はあるが、これだけじゃ何とも言えねえな」


 俺たちはしばらく正体不明のゴブリンに頭を悩ませていたが、それがいけなかった。

 一箇所に留まり動きを止めて、盗賊が調査を優先させて索敵が緩んだのを見計らっていたのか、ブラックウルフの群れは、既にこちらを取り囲んでいたのだ。




 それに気づいたときには手遅れだった。茂みから飛びかかった黒狼に不意打ちを受けて、女弓使いが無防備な背中を鋭い爪で深く切り裂かれ、地面にうつ伏せに倒れた。

 即死こそしなかったが出血が多く、急いでポーションを飲ませたが、運良く命が助かったとしても、これではしばらくはまともに動けない。


「すまん! 指示した俺のミスだ!」

「それは後だ! リーダー! どうやって切り抜ける!?」

「お前は傷が癒えるまで、彼女を守ってやってくれ! 時間は俺が稼ぐ!」


 既に下級ポーションを飲ませているが、回復には時間がかかり、かなり深く切り裂かれていたので、激痛で気を失った彼女が目覚める保証もなく、命を繋ぎ止める可能性は半々といったところだ。


 そしてブラックウルフの群れの数は、俺が見たところ四匹…いや、五匹は居る。ちょうど依頼の討伐数と同じなので、奴らもここで全力で俺たちを潰すつもりなのだろう。

 もはやこの場から逃げるのは不可能だ。ならば手段は一つで、生き残るためにはここで迎え撃ち、倒すか追い払うしかない。


 敵は大人の膝ほどもある黒狼が五匹。逃げないように囲み、このままジリジリと距離を詰めて、包囲殲滅するつもりなのだろう。

 赤い瞳に鋭い牙と爪、人間を食べるのを楽しみにしているのか、口からヨダレまで垂らしている。


 普段なら鉄の防具で固めた俺が攻撃を受け止め、男盗賊が撹乱、女弓使いがトドメを刺すのが、うちのパーティーの戦い方だったのだが、今回はもっとも防御が薄いところを不意打ちで食い破られてしまい、正直厳しいが生き延びるためには戦うしかない。


「だがこれは、…どういうことだ?」


 決死の覚悟でロングソードを構え、ブラックウルフを迎え撃とうとした俺だが、奴らにはまるで動く気配がない。

 それどころか、俺たちに近い位置から目がうつろになって順番に崩れ落ちていき、その後はピクリとも動かなくなってしまった。

 突然の事態にリーダーの俺も男盗賊も困惑し、五匹全てが地面に倒れ伏したあとも、どうしていいのかわからず、構えを解くこともその場から一歩も動くこともできなかった。


「危ないところでしたね」

「……誰だ!?」


 突然聞こえた女の声に警戒を強め、武器を構えたまま気配を追って振り向くと、そこには純白のロングワンピースが風に舞い、白い翼を羽ばたかせて宙に浮きながら、ゆっくりとこちらに近づいてくる、金髪碧眼の幼い少女が居た。


 ご丁寧に頭上には光り輝く輪まで浮遊させているので、彼女が何者かは一目瞭然だった。世界中の誰に聞いても、その全員が天使様だと答えるぐらいに。


「怪我をした女性を見せてもらえますか?」

「あっ…ああ」


 地上に降りた天使様に道を開けるため、俺は数歩下がり、男盗賊も驚愕した表情で女弓使いを地面に寝かせて、慌てて離れる。

 金髪の少女はハーフエルフの仲間に近づき、背中の傷を確認すると、静かに手をかざした。


「傷が…!」

「これが神の奇跡か!」


 清らかな光の煌めきが天使様の手の先から少しずつ、ハーフエルフに流れ込んでいくたびに、ブラックウルフに深く切り裂かれた傷口から流れる血が少なくなる。

 やがて数分も経たないうちに血は完全に止まって傷も塞がり、女弓使いの顔色も戻り、呼吸も穏やかになった。


「これで治療は終わりです」

「ありがとうございます! 天使様!」


 回復魔法を見るのは初めてではないが、これが本物の天使様かと、頭を下げてお礼の言葉を伝える。

 その間にゆっくりと地面に下ろされる女弓使いに、再び男盗賊が駆け寄って、恐る恐るといった感じで脈を取る。


「んー…あっ…あれ? どうしたの? 皆?」

「良かった! 目が覚めたか! それで何処か、体におかしいところはないか?」

「え? ええっ? 別に何処もおかしくないわよ。それどころか、ちょっと元気があり余ってる?」


 女弓使いが何度か体を動かして、自分は大丈夫だとアピールする。

 教会の司祭や神官が行う癒やしは、対象の治癒能力を強制的に活性化する。なので傷の深さによっては、完全に回復する前に体力が尽きて衰弱死すると聞いたことがある。

 だがこれは一体どういうことだろうか。深い傷を癒やしたにも関わらず、まるで疲れた様子がない。


「私の生命力を傷ついた彼女に分け与えました」

「えっ! てっ…天使様!? どうしてここに? …って! うわあぁ! そっ、それは何とも恐れ多い!」

「大したことではありませんので、お気になさらずに」


 つまり天使様の生命力を使って傷を癒やし、過剰分は今の慌てふためく女弓使いの体力に上乗せされて、疲労回復までしてしまったと。

 しかしこうなると、今の慌てふためくハーフエルフが幸運か不幸かがわからなくなる。彼女の言うように、何とも恐れ多い。


 だがとにかく皆が今の状況を正しく認識したところで、そろそろ本題に入ろうと俺は天使様に話しかける。


「話は変わりますが、天使様は何故ここに来られたのでしょうか?」

「魔物に襲われている人間が居たので、助けに入ったまでです」


 慈悲深い天使様は俺たちが危ういと察知し、急いで駆けつけたらしい。実際もう少し遅ければ女弓使いが助からなかっただけでなく、全滅もあり得たので、まさに危機一髪だった。


「なるほど、ところで河原にある野営地なのですが。何かご存知ありませんか?

 俺たちはゴブリ…」

「私じゃありません!」

「「「えっ!?」」」


 まだ質問の途中だったのだが、突然天使様が大声を出して、俺たちは大いに驚いてしまった。

 これまでは必要最低限のやり取りを淡々と行っていたのに、今は感情をむき出しにして、自分ではないと必死に否定しているのだ。


「お魚を焼いて食べたのは、私じゃありません!」

「あー…はっ、はい。そうですね。天使様ではないですよね」

「…その通りです」


 俺は肯定の言葉を絞り出すのが精一杯で、殆ど棒読みに近かったが、天使様はそれを聞いて安心したのか。助けに入った時のように落ち着いて受け答えを行うようになった。


「今度は私から質問しても?」

「はい。構いません」

「貴方達は、どうしてこんな森の奥まで?」

「俺たちは町の冒険者ギルドで依頼を受け、村を襲うブラックウルフの討伐を…」


 それから天使様にいくつか質問され、俺たちはそれを嘘偽りなく真摯に答えていった。

 彼女は何故冒険者がこんな森の奥まで来たのか、今後は他の人間もやって来るのか…と、その辺りのことを、とても気にしていた。


 ここまで聞けば俺以外にもわかるが、天使様はこの森の奥に住んでいる。そこに俺たち人間が踏み込むことを、あまり快くは思っていない。

 それでも強引に押し入ったら、どんな天罰を受けるかわかったものではない。


「ふむ、…こんなところですか。

 ではブラックウルフの素材は全て提供しますので、このことは内密にお願いします」

「ええっ!? よろしいのですか!」

「はい、それは私には必要ない物です」


 魔物の素材は人間の世界では高値で取引されるが、天使様違うようだ。

 それともこれは、森の奥に住んでいることを黙っているようにという、口止め料の代わりだろうか。 

 ここで義憤に駆られて突き返せたらかっこいいのだが、あいにく仲間の治療に下級ポーションを使ってしまい、さらに依頼を受けてからの遠征費用を考えると、財布の中身が少々心もとない。


「ありがとうございます。このご恩は一生忘れません」

「ふふっ、私の出会いと一緒に、忘れてしまっても構いませんよ」


 俺たちは天使様に深々と頭を下げ、急いで五匹のブラックウルフを一箇所に集める。流石に全ての素材を持ち帰ると荷物が重くなり過ぎるため、高値で売れる部位の剥ぎ取りを、優先的に行わなければいけない。


 しかしどの黒狼も、まるで眠っているかのように傷が全くない状態なので、できることなら残らず持ち帰り、そのまま急いで町まで戻り、冒険者ギルドに卸したいものだ。


「もし良ければ、下流の村まで運びましょうか?」

「…えっ?」

「せっかく助けたのに帰り道で死なれては、寝覚めが悪いので」


 突然の申し出に困惑した俺たちは、仲間同士で顔を見合わせたあとに、天使様のほうを向く。わからないなりに彼女の好意に甘えることに決めて、皆は恐る恐る頷いた。


 すると次の瞬間、俺たちとブラックウルフの死体は、突如として巨大な光の繭に包まれ、空高く浮き上がったのだ。


「リーダー! うっ…浮いてる!」

「ちょっと! 空飛んでるわよ!」

「ああっ! いちいち言われなくてもわかってる!」


 色々と理解が追いつかない俺だが、半透明な光の繭の上部を見ると、片手で縄を持って優雅に羽ばたいている天使様。

 そして進行方向に視線を向けると、川の下流に小さな村が見えた。ついでに今現在、物凄い速度で飛行していることがわかった。


「丸一日歩いた俺たちの苦労は…」

「まあまあリーダー。天使様のおかげで早く帰れるし、素材が丸ごと手に入ったし」

「そうだな。本当に感謝しかない」


 そのまま十分足らずで村の入口近くまで来たが、これ以上近寄ると気づかれると思ったのか、少しだけ離れた川沿いに俺たちをゆっくりと降下させる。

 柔らかな光の繭が地面に触れると、空間に溶けるように消え去っていき、一瞬の浮遊感に少しふらついたが、土を踏みしめて無事に二本の足で立つことができた。

 そんな俺たちを見下ろす天使様は、相変わらず宙を留まった状態で口を開いた。


「では、私のことは秘密で頼みましたよ」

「はい、しかと心に刻みました」


 俺だけでなく仲間も姿勢を正して深く頷くと、天使様は満足そうに微笑み、再び空に舞い上がり、音もなく森の奥へと飛び去っていった。


 あとには無傷のブラックウルフの死体と、Cランク冒険者の俺たちだけが残り、そのまま数分ほど誰も口を開かずに、直立不動の姿勢を維持したままだった。

 しかしようやく極度の緊張状態から開放されたのか、皆は大きく息を吐きだした。


「はぁ…しかし、天使様とはな」

「綺麗な女の子だったな。あと十年もすれば、とびっきりの美人になるぜ」

「馬鹿ねぇ。今の貴族や王族じゃないのよ? 本物の天使様が歳を取るわけないじゃない」


 この場所は村に近いので、日の明るいうちは魔物は殆ど現れない。なので皆それぞれ好き勝手に話しているのだが、確かにお姫様のように可愛らしい少女だった。

 しかし神話に出てくる天使様が成長したという話は聞かない。


 聖典を調べてみないと何とも言えないが、多分一生あのままの姿だ。

 幼子が好きな男は喜ぶだろうが、俺にはそんな趣味はないので、もしもう一度会う機会があるのだとしたら、ぜひとも大人になった天使様を見たい。

 その願いが叶わないことに、少しだけ残念に感じたのだった。

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