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光の飴玉

 荷物を置いても立ち去ってくれなかったので、計画を急きょ変更せざるを得なくなった。かと言って突然体に電流が走って閃くわけもなく、結局最初は強くあたって、あとは流れでゴリ押すこと決定する。

 ぶっちゃけ概ねいつも通りなのだが、駄目なら駄目で別の拠点を探せば良い。失敗してもいいならと、気楽である。


「サンドラ、大丈夫ー?」

「いやいやいや! コレかなりキツイよ!」


 今やっているオペレーション二人羽織は、メアリーの首根っこにアタシが見えないようにくっついた状態で、金髪幼女をキラキラと輝かせたり白い翼を生やして、教会に飾られている天使像っぽく見せるのが重要だ。


 しかしようやく慣れてきたばかりの自分の体とは勝手が全然違うので、ぶっつけ本番では結構辛い。

 具体的には背後から抱きついて羽織を被って、前の人の体を操り食事を取らせるぐらいに、繊細なコントロールが必要になる。

 メアリーは楽しそうにキャッキャウフフしているが、今のアタシは必死に足をばたつかせて泳ぐアヒルになった気分だ。




 それでも彼女は貴族のドレスを着ているし容姿も整っているので、偉そうに振る舞っても民衆に受け入れられやすい。

 流石に喋って動ける人形が姿を見せるのは不味いが、これまでアタシの声で交渉を行ってきたので、金髪幼女にはそれっぽい動きや口パク役を任せている。

 何よりキラキラの光の粒子や天使の輪っかや翼のほうが派手で目立つので、メアリーの顔はそこまで印象に残らない……はずだ。


「あっ…降りちゃったー」

「はぁ…はぁ! もうマジ無理!」


 取りあえずゆっくりと地上に降りて翼を休ませ、人形のアタシは呼吸しないし汗もかかない。そもそも疲れないはずなのに、今はぜえぜえと肩で息をしており、変なところで前世の村娘らしさが出ている。


 まあそれはとにかく、一服がてら交渉再開だ。

 これから周りにはメアリーを呆然と見つめる十人以上の大人たち相手に、口八丁手八丁で切り抜けなければいけない。

 その割には先程から全く反応がないので、こちらから声をかけることにする。


「……あのー」


 本物の天使が降臨したともなれば大騒ぎだが、残念ながらアタシは偶然天使の力を吸い取っただけの、真っ赤な偽物だ。

 うやうやしくかしこまられると、こっちが恥ずかしくなる。


「天使様とは知らず! 申し訳ありませんでした!」

「えっ? あっ…いえ、お気になさらずに」

「おおっ! 何と慈悲深い!」


 村人たちが膝をついて偽天使のメアリーに祈りを捧げるのを横目で見ながら、これ以上会話を続けるとボロが出そうだと思い至り、持ってきてもらった大きな籠に天使の輪を飛ばし、しっかりと固定する。


「では私はこれで。また何かありましたら、物々交換のほうをお願いします」


 これ以上は付き合ってられないとばかりに、メアリーにくっつけた翼をはためかせて空に舞い上がり、一目散に拠点へと逃げ帰る。


「お待ちください天使様! どうか我が村にお越しを!」

「そうです! 今すぐ歓迎の宴を開きますので!」

「天使様!」「天使様ーっ!」


 目に涙を浮かべる村人たちが何か言っているが、アタシは聞く耳を持たない。

 そんな人の認識できる速度を軽々と越えて行方をくらました偽天使に祈りを捧げ、この日より村の宗教は、唯一神教から分離した天使教へと変わっていくのだった。







 光の結界で守りながらの飛行により、メアリーの肉体の負担を限りなくゼロにすることで、羞恥心に苛まれながらあっさり音速の壁を超えて、無事に拠点に到着した。


 あらかじめ繭型結界を張っていなければ衝撃で家が倒壊したのだろうが、今の二人はそんなことは関係なく、もらってきた生活用品の確認である。


「んー…全体的に古いのが多いね」

「処分品ー?」

「かもね。でもまあ数や種類は多いから、色々試せそうだけどね」


 今回は生活用品を揃えてもらったが、次は大工道具が欲しくなってきた。天使の力は便利だが道具の代用にしようにも、肉体から離して使うと時間経過で効果が衰えていくので、扱いが難しいのだ。


「サンドラのキラキラ光るの、便利そう」

「確かに便利だけど、いつまで保つかわからないから怖いんだよね」


 鉄製の釘より長持ちはしないだろうが、取りあえず応急処置として新しい木の椅子に打ち込んでいると、好奇心旺盛なメアリーが瞳を輝かせながら話しかけてきた。

 確かに深く刺しすぎて尖った先が外に出たら、表面をサッと手で撫でるだけで尖りを削れるので実際とても便利だが、いつか本物が手に入ったらそちらに入れ替えるつもりだ。


「私もやりたーい!」

「気持ちはわかるけど、メアリーにできるのかな?」


 これが使えれば一時的だが工具いらずになるので、メアリーの気持ちはわかる。しかし直感的に使っている謎パワーを他人に教えるのは、多分無理だ。

 だが彼女も天使の力を使えるようになれば自衛にもなるので、アタシは駄目で元々で試してみることにした。


「メアリー、口開けて」

「えっ? うっ、うん」


 アタシが天使の輪を使えるようになったキッカケは、砕いた光の残滓を吸い取ったからだ。

 人間のメアリーに全く同じことができるとは思えないが、飴玉サイズのほんの微かな光の塊を生み出す。

 そのまま小さく開いた口の中に、ポイッと投げ込んだ。


「むっ…むぐっ! ゲホッ…ゴホッ!」

「体の中に入ればすぐに溶けるようにしたから、喉を詰まらせることはないはず……なんだけど。

 ちょっとメアリー! 大丈夫!?」


 ゴホゴホと激しく咳き込み、地面に手をついて気持ち悪そうに嘔吐するメアリーを見て、これは不味いと気づき、とにかくアタシの生命力を譲渡し金髪幼女の体調を万全に保ち続けた。


 それでも十分ほど顔を青くして苦しそうな状態が続いた。だがやがてそれも落ち着いてくると、元気を取り戻したメアリーは頬をプクーっと膨らませて、光の飴玉を投げ込んだ人形の頭を、バシバシと叩き出す。


「もう! 酷いよ! サンドラー!」

「ごめんなさい! 反省してる! もう二度としないから!」


 体内に入ればすぐ溶けるように念じたはずなのに、メアリーは激しく咳き込んでいた。喉に詰まることはなかったが、人間の体と天使の力は相性が悪いのだと結論づける。


「でっ…でも本当に、すぐに溶けてなくなるはずだったんだけど…」


 とにかく海よりも深く頭を下げて反省を示し、アタシは彼女の嘔吐物を浄化して綺麗なモノに変えながら考える。

 相性が悪くて吸収できないのだとしたら、彼女が自分と同じように天使の力を扱うのは、難しいのかも知れない。

 だがそれでも駄目で元々、あれだけ苦しがっていたのに成果がなしでは辛すぎる。


「そっ、それでどう? 天使の力は使えそう?」

「えっと…んー…、こう…かなー?」


 メアリーは意識を集中して両手を前に突き出すと、浮遊する光の塊が現れた。それは段々と形を持ち、やがて小さな輪っかに変わる。


「はぁ…ふぅ…今は、これが、精一杯…みたいー」

「そっか、おめでとう。頑張ったね。メアリー」


 アタシが褒めると、メアリーはたちまち笑顔に変わって頬が緩むが、今の彼女はそれで限界だったらしく、滝のような汗を流していた。

 そして疲労が限界に達したのか、大きく息を吐いて両手を下ろすと、空中に留まっていた光の輪っかは地面に落ちてコロコロと転がり、すぐにコテンと倒れて止まった。


「いつまで効果が続くんだろう?」

「はぁ…はぁ…わからないー」


 まだ肩で息をするメアリーが生み出した小さな輪っかを手に持って掲げると、まだほのかに光っているので、夜の闇を照らす灯りの代わりに使えそうだ。

 使わないときは適当な布でもかけておけばいい。


「アタシも最初は上手に飛べなかったし、そのうち上手く出せるようになるよ」

「そっ…そうだといいけどー」

「まあ、気長にやろうよ」


 上手くいかないと焦っても仕方ない。自分は感情のままに動いてるのだけなので、直感的な操作が得意なのかも知れない。

 そしてメアリーも一応使えたのだから、時間をかければ力の扱いが上手くなるだろう。




 そして取りあえず、彼女にはアタシがこれから生み出す天使装備一式を渡して、それに着替えてもらうことに決めた。

 いつまでも貴族のドレスで森を歩かせるわけにもいかないし、不意の事故で怪我を負ったら大変だ。

 100%天使の力で構成された物は、状態を維持するためには謎パワーの安定供給が必要になるが、そこはメアリー自身に任せればいい。


 維持するだけならさほど難しくなくなったし、攻撃や防御に秀でていて造形も自由自在だが、カラーリングが青白か純白の二択しかないのが、天使装備の辛いところだ。

 しかしオートマータの元々の属性は闇だったので、黒を混ぜてみるのもいいかも。でも天使のイメージを崩すと面倒だし、やっぱり白一択かな…と、色使いについてあれこれ頭を悩ませるのだった。


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