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決着

 邪神と戦うのはいいのだが、人が大勢居て狭い場所で全力で殴り合うわけにもいかない。なのでアタシは純白の翼を一瞬でメアリーの体に展開すると、巨大化して腕のように振り回して素早く邪神を引っ掴むと、問答無用に石壁に向かって放り投げたのだった。


 その際に白亜の城の壁をぶち壊しながら吹き飛んでいった邪神だが、予想通り体は相当頑丈らしく、潰れたカエルになることもなくピンピンしている。

 だが結果的に人的被害なしで広い外に叩き出すことに成功したので、目的は十分に達成している。


「ぬうっ! 少々侮り過ぎたか!」


 邪神は地面に叩きつけられる前に背中からコウモリの翼を生やし、城の中庭にゆっくりと降り立つ。

 アタシはぶち壊した石壁から顔を覗かせて憎らしい悪魔を見下ろすが、予想通りただ放り投げただけでは、傷一つつけられなかった。

 だが何もしないわけにはいかないので、自分も白い翼をはためかせて躊躇することなく、宙に身を躍らせる。


「ほうっ、我と戦うつもりか! ……だがっ!」


 おい馬鹿止めろ。移動中の攻撃は反則だぞ! …と心の中で異議を唱えたところで、邪神が聞くわけもない。

 地面に降りようと白い翼を羽ばたかせているアタシめがけて、大男の両手から放たれた闇色の巨大な砲弾が、一直線に飛んでくる。


 しかし相手も様子見のつもりなのか、この程度なら常時発動させている小規模光結界で、簡単に弾き返せる。

 なのでアタシとメアリーは何ら動じることなく、それをノーガードで受けようとする。


「光輪の盾よ!」

「我が必殺の一撃を防いだだとぉっ!?」


 アタシたちと邪神の間に突如として円形の光の盾が現れ、闇色の遠距離攻撃を弾いたことで、ヤギの角を生やした大男があからさまに動揺する。

 さらに聞き覚えのある声が続き、青白い刃が何処からともなく飛来し、邪神の片腕に決して浅くはない傷をつける。


「ぐっ! この焼けるような肌の痛みは! …神器か!

 光への耐性を得ても、これほどの威力が出せるとは!」

「ちいっ! 首を狙ったのだが、防がれたか!」


 城門からこちらに駆けつけてきたのは、申し訳程度のお土産を持たせて別れ、港町からここまで追ってきたのか、今はAランクに上がった天使の光輪の二人だった。

 それは置いといて、先程邪神は必殺の一撃と言っていたが、アタシたちにとってあの程度の攻撃は牽制にしかならない。


 つまりなんちゃって神器でできた傷や、大技を防がれたことでの動揺は、こちらを油断させるための罠だ。世界を滅ぼすほどの力を持つ邪神が、この程度のはずがない。

 だが一人で戦うのではなく、この危機的状況で援軍が駆けつけてくれたのは、本当に助かる。


「サーリア様! ご無事ですか!」

「私たちも戦うわ! 指示をお願い!」

「ありがとうございます。皆さんが来てくれて心強いです」


 さらに二人だけではなく、騒ぎを聞きつけて集まってきた騎士や魔法使い、戦える者たちが続々とこの場所に集結しつつある。

 攻撃を受けたことで降下を中断していたアタシは、光側の援軍が来てくれたことで、そう言えばと思い出した。


「闇の軍勢がすぐそこまで迫っています! 私は城壁の外で魔物を食い止めます!

 なので戻るまでの間、邪神をお願いします! ただし、決して無理はしないでください!」

「はい、サーリア様! こちらは任せてください!」


 言うだけ言って、アタシは広域探知に引っかかった数え切れない魔物に向かって、全速力で飛び去った。

 あまりにも速すぎたため、屋根や屋台の荷物が吹き飛んだり、窓ガラスが衝撃で割れたりしたが、勝利するための致し方ない犠牲だと思って大目に見て欲しい。







 所要時間一分足らずで王都の石壁を越えたアタシは、空から邪神の軍勢をじっと見下ろす。

 種族や大小様々な凶悪そうな魔物がひしめき合っており、ざっと見た感じでは確かに一万を越えているのは間違いなさそうだ。

 これが下級の魔物なら良いが、どれも人間たちの手に負えないので仕方なく封印された、一騎当千の強者だ。

 いくら創生の女神の力が少しだけ使えるとしても、まともに戦うには分が悪すぎる。


「んー…どうやって倒そうか?」

「時間をかけすぎると、あっちが心配ー」

「そうだよね。ドレインは便利だけど、どうしても倒すまでに時間がかかっちゃうよ」


 空に留まりながらメアリーを打ち合わせをするが、向こうは待ってはくれない。すぐにワイバーンやガーゴイルらしき空戦部隊がアタシたちを見つけて、火球や闇魔法を放って攻撃してくる。

 だが遅かった。敵が一人だと舐めているのか、ハエも殺せない速さのそれを、ヒョイヒョと躱しながら、ああでもないこうでもないと頭を捻って考える。




 唯一の攻撃技はエナジードレインとソウルドレインだが、体力と魔力の高い魔物には吸い尽くすまで時間がかかるし、対象が増えるとさらに速度が低下する。

 王都を守る兵士と協力して討伐しようにも、敵は巨大で数も多いので、押し留められずに内部に侵入される可能性が高い。

 結界を張って時間を稼ごうにも、邪神が内部で破壊活動を行っているので、二方面作戦は少々厳しいかも知れない。

 なのでやはり綺麗サッパリ片付けて、後顧の憂いはなくしておきたい。


「水面に勢いよく石を投げ込む要領で、まとめて吹き飛ばそうか」

「青い花が咲きそー」


 …と言うことで、アタシたちは白い翼をはためかせて、一旦雲と同じ高さまで上昇し、すぐに下降を開始した。

 その際には足先にピッタリくっつくように、光の結界を巨大な一枚状に展開し、大気の摩擦熱を軽減及び、敵を地表ごとまとめて吹き飛ばす目的で、軍勢の中心部をめがけて落下していく。


 最初の犠牲者は女神を追ってきた空戦部隊だった。アタシの飛行速度のほうが圧倒的に速かったので、十分に勢いが乗った落下攻撃により、光の板との接触時に一瞬で挽き肉に代わり、バラバラの肉片がゆっくりと地面に吸い込まれていく。


 次の犠牲者は遅れてやってきた空戦部隊第二陣で、その時はかなり地上に近づき加速も十分だったので、接触と同時に秒もかからず骨も残さず燃え尽きて、間髪入れずに闇の軍勢の中心部に、巨大なクレーターができる。


「やっやばっ…! 勢い良すぎた!」

「環境破壊反対ー!」


 地表への接触と同時に落下地点を中心に巨大な円で囲み、衝撃の末に巻き上げられた土砂や熱気流が、出口を求めて激しく荒れ狂う。

 外縁部にいた魔物も生き延びたのはほんの一瞬で、すぐにこの世の全てを焼き尽くさんばかりの熱風が襲いかかり、骨も残さず灰になった。




 そして数分が経ったが、次元をズラした異空間の中には強烈な乱気流と生物が活動できないほどの熱が充満していた。


 そんな円形のドームの一角に、子供一人分の光の繭が浮き出て、分離するように音もなく外に飛び出した。

 瞬間、虚空に溶けるようにかき消えて、中からは汚れや傷一つない純白のドレスを着飾り、肌や髪までも美しいままの金髪幼女が現れた。


「こりゃ、しばらく放置が良さそうだね」

「式典が終わるまでには収まるー?」


 落下の衝撃で吹き飛ばして闇の軍勢をミンチよりひでぇ状態にしたときに、脱出する前に女神の欠片をドレインしようとしたが、何故か勝手に集まってきた。

 なお光の残滓はアタシではなく、全てメアリーに吸収された。


 ちょっと意味がわからなかったが、自分はもう十分に強化されていて簡単には死なない体だ。それが邪神との戦いの前に、アタシよりもか弱い金髪幼女の頑丈さが、多少なりとも上がったは助かったと思うことにする。


 なお、相変わらず異空間では熱風が荒れ狂っており、沈静化の目処は立っていない。

 なのでアタシは、メアリーの質問に投げやりに答えるしかなかった。


「わっ…わかんにゃい!」


 森林地帯と王都の間にある草原は巨大な光の結界に閉ざされたが、石壁の上や街道から一連の流れを見ていた者たちの口からは、あの一閃は創生の女神の怒りによる、裁きの光だと、まことしやかな言い伝えが残ることになるのだった。







 闇の軍勢を片付けたアタシたちは、急いで広域探知を王城のほうに飛ばして残してきた皆の様子を覗き見る。

 幸いなことに状況は殆ど動いていないようで、人間サイドが全滅していなくて良かったと胸を撫で下ろす。

 本来なら急いで駆けつけるべきなのだろうが、何故かここでメアリーが待ったをかけた。


「何か邪神とお話してるみたいー?」

「どういうこと?」


 もし戦わずに会話しているのなら、何も知らないアタシたちが、いきなり横から攻撃を加えるわけにもいかない。

 なので城の中庭を目指して上空を飛び、視覚を強化して様子を伺う。メアリーが音を拾わなくても、相変わらず向こうの風魔法により、王都に中に聞こえているので問題ない。


 すると城の中庭には邪神を取り囲んでいる各国の名だたる戦士と、アタシが見た目だけは取り繕った神器を持たせた四人が油断なく構えていた。

 だが角を生やした大男は、余裕の笑みで何やら悦に浸っている。


「くっくっくっ…! 我が集めた闇の軍勢が力を失った女神に倒せると?」

「そんなこと! やってみないとわからないでしょうが!」


 流石エルフちゃんは付き合いが長いだけあって、アタシたちのことをよくわかっていた。実際には殆ど消耗せずに闇の軍勢を全滅させ、今現在空を飛んでそちらに向かっているのだ。


「いいや、我にはわかる! 闇の軍勢を押さえるために命を捨てた女神と同じだ!

 いくら神器が素晴らしかろうと、使い手が未熟では絶対に勝てんとな!」

「このっ! 言わせておけば!」

「落ち着け! 冷静さを欠けば奴の思うつぼだぞ!」


 Aランク冒険者のお兄さんがエルフちゃんを押し留めると、彼女は悔しそうに唇を噛んで若干涙目になり、周りの人たちも沈痛な表情で俯く者も出てくる。

 あれ? もしかしてアタシたち、死んだことになってない?


 遠くから様子を見ていた人たちは、表向きは自爆技にしか見えない攻撃を使っておいて、女神が無傷だとは夢にも思わないのはわかる。

 隙あらば邪神を不意打ちする気満々だったので、誰にも見られないように異空間から外に出て、力を押さえて高高度を飛んできたのも原因の一つになっているのだろう。


 まあそれにしてもだ。このお通夜のような空気はどうすればいいのか。


「どうしよう。凄く出ていき辛い」

「空気読むー?」

「…そうだね」


 今のアタシたちは、誰にも気取られないように白亜の城の高い屋根にフワリと降りて、そこから気配を消して顔だけひょっこり覗かせ、強化した視覚で中庭の様子をじっと観察する。


「アンタにサーリアの何がわかるのよ! 闇の軍勢だろうと、必ず倒してここに帰ってくるわ!」

「ははははっ! たとえ女神がかつての力を取り戻したとしても、それは不可能というものだ! たとえ命を捨てても、半数を道連れにと言ったところだ!」


 邪神の高笑いを聞くたびにアタシの心がズキズキと痛む。何だか無性に布団の上を転げ回りたい気分だ。

 しかし今ここでノコノコ出ていったら、空気を読めていないというレッテルを貼られてしまうのは間違いない。


「確かにサーリア様は、帰ってこられないかも知れませんわ」

「ほうっ、そこの人間の女は諦めがいいようだな」


 涙目のエルフちゃんを横からそっと手で制して、今度は辺境伯さんが一歩前に出る。


「いいえ、私は諦めませんわ!

 なので貴方を倒して、サーリア様を助けに行きますわ!」


 辺境伯さんが挑戦的に笑い世界樹の杖を両手で握る。それを受けて邪神も、彼女を自らの獲物と判断したのか、邪悪な笑みを浮かべて舌なめずりをする。


「良く吠えたな女ぁ! 今すぐ跪いて足を舐めて許しを請えば、我の玩具として、世界が滅びた後も側に置いてやるぞ!」

「お断りですわ! 皆さん! 行きますわよ!」

「「「おおー!!!」」」


 そうして邪神対人間族との戦いが始まった。最初は数で勝る光の勢力が有利だった。

 しかし神器を侮りがたしと判断したのか、自ら押さえていた力を開放したことで、形勢は逆転。

 今度は人間サイドが押され始める。


「メアリー、いつ出ていったらいいと思う?」

「んー…もう少しあとー?」

「じゃあ、もうちょっと見てようか」


 しばらく城の屋根の上から中庭の様子を伺っていると、だんだん負傷者の治療が追いつかなくなっていくのがわかる。

 そして神器使いの辺境伯さんが、エリアヒールの使い過ぎで魔力切れになり、魔力ポーションで補充するために急きょ戦線を離れることになった。


「んー…今ー?」


 観察眼に優れたメアリーを信じて、ただちに行動を開始する。憎き敵を打ち取る機会が到来したのだ。


「よっしゃー! 死にさらせやー!」


 闇の軍勢を葬り去ったときのように、足先に強固な結界をまとわせ、意気揚々と城の屋根の上から飛び降りる。

 その際にも白い翼で加速し、方向も調整して邪神めがけて一直線に突っ込んでいく。


「ん…何だ? ……へぶし!!!?」


 屋根から数秒程度で地上に到達し、邪神の顔面に金髪幼女の細い足がめり込んだ。

 回復役の辺境伯さんを闇の火球で焼き尽くそうとしていた大男は、死角からの不意打ちで、城壁付近まで吹き飛ばされた。

 地面を何度か跳ねてゴロゴロと転がり、やがて動きを止める。一応体はピクピクと痙攣しているので、しぶとく生きてはいる。

 予想通り加速が足りなかったが、そのおかげでベストなタイミングで戦闘に介入することができた。


「すみません。魔物の数が多くて、少しだけ手間取ってしまいました」

「サーリア! 良かった! 無事だったのね!」


 まるでたった今駆けつけたように装い、皆に笑顔で応える。エルフちゃんが嬉し涙を流しながら、メアリーをギュッと抱き締める。


「もうっ! 心配したんだから!」

「私はそう簡単には、やられませんよ」


 空気を読んで嘘をついているので、若干良心が痛いとは言えないので、メアリーも精神的にキツイのか、沈痛な表情でエルフちゃんを見つめる。


 すると地面に転がっていた邪神が起き上がり、顎のあたりを手で持って、コキコキと関節を調整しながら、不敵な笑みを向けてくる。


「ふんっ、まさか闇の軍勢を倒してくるとはな。

 しかし、厄介な女神を消耗させる役にはたったようだ」

「…言ってくれるわね!」

「だが事実だ。現に創生の女神の顔色は、かなり悪いようだが?」


 確かにメアリーもアタシも消耗している。だがそれは気苦労であり、肉体的にはこれっぽっちも疲れていない。

 それどころか今この瞬間までは屋根の上から観戦していたので、休息が取れて元気いっぱいである。


「あいにくですが、私は邪神を滅ぼすまでは死ぬつもりはありません」

「気丈なことだな。だがその強がり、いつまで保つかな!」

「サーリア!!! ……えっ!?」


 突然邪神が飛びかかってきたので、抱きついていたエルフちゃんの肩に手をかけて咄嗟に突き飛ばす。

 しかしメアリーが避けるには時間が足りずに、アタシは仕方なく殴られることに決めた。一発は受けてやるが、あとで百倍にして返してやるのだ。


「随分と温い攻撃ですね。まだ様子見ですか?」


 今度はメアリーの顔面を狙って超スピードで殴りつけてきた邪神だが、直撃にも関わらずに微動だにせず、ニッコリと微笑んでいる金髪幼女を見て驚きを隠せない。


「ばっ…馬鹿な!」


 実際には殴られるどころか、鋭い爪に炎を宿して貫こうとしてきた。

 だがそちらはメアリーの顔に触れる数センチ前で、青白く輝く光の結界に阻まれて、傷一つ付いていない。


 これといった手応えもなく容易く防げたので、邪神はきっと油断しているか様子見のつもりだったのだろう。しかし、それならそれで好都合だ。


「では今度は、私の番ですね」

「まっ…まてぶべらっ!!!」


 極限まで圧縮した光の結界をメアリーの全身にまとわせ、強化した身体能力を惜しみなく使い、驚いて硬直していた邪神を殴りつける。


「ちなみに貴方の番は、もう来ませんので」


 確か光の剣で斬られた傷が焼けてただれていたので、同じ属性なら耐性持ちにしても、普通に殴るよりは効率よくダメージを与えられるのは間違いない。


 そして目の前の大男が何か言っているようだが、こっちには全く聞く気はない。そんな暇があればとにかく無視して殴り続ける。足やヒジ、膝や投げ技を使ってでも、とにかく敵の行動を確実に潰していく。


 目の前の邪神など百害あって一利なしだ。ならば殺られる前に殺ってしまえば、万事解決である。




 アタシが周辺の探知を行い、それをメアリーが分析することで、邪神の行動を的確に潰す。

 距離が遠ければ辛いが、今は球遊びをするがごとく、角つきの大男が悲鳴をあげながら空中をポンポン舞っているので、連撃は一向に止まらない。

 創生の女神は全ての攻撃が常に必殺であり、憎き邪神に手加減などするわけがない。


 そしていくら人並み外れた自己治癒力や桁違いの生命力や魔力を誇っていても、殴られれば痛いし、回復速度を上回るダメージを受け続ければ、いつかは力尽きて倒れる。




 しばらくの間、か弱い金髪幼女が屈強な大男をボコボコにするかのような、一方的なサンドバッグが続いた。だが邪神をもう数発殴れば死にそうなぐらい追い詰めたので、そこでようやく攻撃を中断する。

 なお敵の自動回復分はきっちり吸収し続けているので、いつまでも虫の息である。


「ぐっ…ぐはっ…!」


 これから最後の仕上げにかかるのだが、その前にあることを思い出したので、メアリーの右手に光の刃をまとわせて、邪神の腹に風穴を開ける。

 そしてゴソゴソと何かを弄るように小さな手を動かし、すぐに握り拳以上もある女神の欠片取り出した。


「では、返してもら……あっ」


 アタシがドレインする前に、何故か欠片がかつてない程に眩く光り輝き、溢れ出た輝きが金髪幼女の体に次々に吸い込まれていく。

 やがて手に持った光の魔石は黒く染まり、ボロボロに崩れ落ちて砂に変わってしまった。


「創生の女神が完全に力を取り戻すとは! まっ、また我を封印する気か!」


 地に倒れ伏した邪神が何か言っているがアタシは聞いていなかった。またもやメアリーに力が流れ込んだことで、何でまた勝手に…と、頭の中が疑問符だらけだ。

 しかしそれは一旦置いておいて、とにかく今はこの大男を何とかするほうが先決と、首を振って思考を戻す。


「いいえ、封印はしません」


 ボロ雑巾のように地面に転がって痙攣する邪神を見下ろし、アタシは淡々と答えを返す。


「なっ…何、だと!?」


 そもそも自分は創生の女神ではなく、ひょんなことから光と闇の力を感覚的に使えるようになった元村娘で、できることと言えば殴る蹴るのゴリ押しぐらいだ。

 メアリーも力の操作は抜群に上手いが年齢的にまだ幼女だ。古代に使われた封印の術式など、朧気な記憶だけでは何もわからないだろう。


 ちなみに対処法については屋根の上から観戦しているときにメアリーと相談したのだが、創生の女神と邪神は属性は違うがお互い高次元の存在だ。

 たとえ体をバラバラにしたところで滅びることはなく、しぶとく生き続ける。そして欠片を使わずに自力を復活を果たしたことに、コイツは驚きはしたが不可能とは言わなかった。


 ならばどのような手段を取っても、神というのは決して滅ぼすことはできずに、いつか復活してしまうのではないかと、メアリーはそう結論付けた。


「貴方はこのまま生かします」

「どっ…どういうことだ! ……こっこれはっ!」


 地面に転がりボロ雑巾のようになった邪神を光の繭で包み込む。それを見て彼は大笑いしながら、こちらに不敵な笑みを浮かべる。


「ふはは! やはり封印するのではないか! ならば覚えておけ! 我は決して滅びぬ!

 いつか闇の力を取り戻し、再びこの世を滅ぼすのだ!」

「ですから、封印ではありません」


 いつもの光の繭は外の空間と隔離して防音性のバッチリだが、これは邪神を拘束して閉じ込めるだけの術式だ。

 温度や湿度調整機能もないから季節によっては暑かったり寒かったりするが、神様だから死にはしないし、どれだけ苦しんでも心は傷まないので問題ない。


「どっ! どういうことだ!?」


 メアリーが相変わらず無表情なことに疑問を持ち、指一本満足に動かせない身ながら、冷や汗をかきながら尋ねてくる。

 それに対してアタシは、無慈悲な答えを返してやった。


「家の庭に植えた世界樹の肥やしにします」


 これを聞いて邪神どころか周りで成り行きを見守っている人たちも、皆一様に言葉を失い、呆然とメアリーを見つめる


「えっ……は? だっ、だから! どっ…どういうことだと聞いている!」

「言葉通りの意味です。世界樹は瘴気を清らかな魔素に変換して体外に放出します。

 ですので邪神が復活するために闇の力を蓄えるほど、周囲は綺麗になります」


 永久機関とでもいうべきか、邪神のおかげで良い流れができて良かった。ある意味血も涙もない解決方法だろうが、これも世のため人のためだ。

 今まで数多くの生き物を殺してきたのだから、ちゃんとその分を世界に還元してもらわないと。


「おっ…おい! 頼む! そっそれだけは、やめ…止めてくれ!」

「邪神と言っても同じ世界に生きる者です。

 皆の役に立てて良かったですね。では、そろそろ行きましょうか」


 メアリーが小さな手をかかげた先に光の精霊を集めて、大鳥を生み出す。そしてこれから肥料になる邪神をクチバシで咥えて持ち上げ、そのまま何度か翼をはためかせる。


 光の精霊は家の庭についたら鳥からモグラに姿を変えて、世界樹の真下にコイツを埋めるようにと、しっかり頼んでおく。

 あとは太い根っこが彼を包んで、永遠に枯れることのない闇の力をチューチュー吸ってくれる。


「では、もう二度と復活したくなくなるまで、永久に絞り取られてください」

「いっ…嫌だ! 嫌だあああああ!!!」


 世界樹からの清らかな魔素で肥料を包む繭を維持して、さらに邪神の力を封じ込めれば一石二鳥だ。

 それにマイホームに何かあればすぐわかるので、離れていても心配はいらない。

 光り輝く大鳥が飛び去っていくのと同時に、邪神の悲鳴が遠ざかる様子を、アタシたちはようやく終わった…と、感慨深く眺めるのだった。

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