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繋のうた  作者: alto
3/5

不思議なお客3

「ユラ様が殺された…?」

ルーの国はいたって平和な国で、やまこが殺されるような事件は滅多に起きない。一体どういうことなのか、エナはよく飲み込めなかった。

「そうだよ。今朝方西の海岸で殺されているのが見つかったんだ。まったく恐ろしい…その犯人が逃亡中だから朝から島中さがしてるんだよ。」

島の中心部ー島長たちの住むイルの街の役場の男が話す。そこで、唐突に店の奥からフラフラと、黒い影が顔を出した。

「私がどうしたって?」

「レイ様…!」

立ち上がったせいか、先ほどまでより顔色が悪い。それでも顔を出さずにはいられないような話の内容だった。

「お、お前!皇都の男!やっと見つけた!!」

「ユラ様を殺して逃げよって!」

「さっさと牢に入れ!」

男たちが口々に叫ぶ。

「ちょっと、あまり怒鳴らないでくれ。一体なんの話だ。」

目を瞑って天を仰ぎながらレイが言った。

「だから、お前が昨日未明に島長の妹君を殺したんだろ!お前たち皇都の連中が泊まっていた島長の別邸の使用人が、0時頃にフラフラと館を出て行くアンタを見ていたんだよ。」

「うーん、そうだったかな…。ユラ嬢は昨日会ったから分かる。だが、どうしてそれだけで私が犯人になるんだ。」

レイは昨夜の記憶が曖昧なことは伏せて、話を進める。記憶には無いが、どうやらその時間に宿を出たらしい。エナがこの場所でレイを見つけたのは確か1時頃だったから、歩いて真っ直ぐここに来たのなら、ちょうど良い時間だ。走ったり、何か乗り物を使えばその前に時間を作ることは可能かもしれないが、レイが犯人なんてことがあり得るのだろうか。

「ユラ様は、昨日は屋敷でツキヨミの儀式をしていたんだよ。それなのに月が急に雲に隠れてしまったからおかしいとおっしゃって、暗い夜道を出て行ったんだ。証人はユラ様の屋敷の門番である俺だ。俺も一緒に行くと言ったんだが、儀式の最中だからと断られてな、無理にでもついていけばよかった。示し合わせたように同じ夜に出歩くなんて、夜道でお前と遭遇して何かあったに違いないだろうが。」

ユラの屋敷の門番という男は吐き捨てるように言った。

「同じ時に外をほっつき歩いてたからって、私が犯人とはちょっと乱暴な理由だなあ。」

レイはやや呆れた口調で呟いた。

「細かいことはいいんだよ!この島の者が犯人なわけがない!それもツキヨミのみこ様に手を掛けるなんて…!お前が犯人なのは明白なんだ、さっさと来い!ったくこんな所に隠れてやがって…」

門番の男はエナの方をちらりと見て睨みつける。別の男たちはあっという間にレイを取り囲みにじり寄った。

「ちょ、ちょっと待ってください!」

そこでエナが慌てて声をあげた。男たちが一斉にこちらを見る。

「ユラ様は、昨夜月が隠れてから外に出たんですよね?その時分でしたら、レイ様は私と一緒にいました。ちょうど月の陰った時にこの入江で倒れているのを見つけて、一晩寝ずに介抱していたんです。」

エナは昨晩、家のそばまで泳いできた所で月が陰ったことを確認していた。ただ、海に落ちた所を泳いで助けたという点は黙っておいた。

「はあ…?お前の言うことが信用できると思ってるのか、このサカナメが!」

「適当なこと言いよって、お前みたいなマヤカシは黙ってろ!」

ひどい罵声を浴びる。いつものことだ。あくまで事実を述べたのだが、信じてもらえないのでは困る。このままではレイが犯人になってしまう。当の本人はぼんやりとこちらを見ているが、体調は大丈夫なのだろうか。

「…いや、ちょっと待て。この皇都の野郎でなくて、お前が犯人なんじゃないか?ユラ様が海岸で見つかったのは、マヤカシが海に引きずり込んだからかもしれねぇな。」

役場の男は持っていた鍬の先をエナに向けて睨みつけた。

「…私はやっていません。」

突然罪の矛先が自分に向く。これも良くあることと、心の中でため息をついた。ここで慌てても疑いが深まるだけなので、はっきりと否定する。

「…確かに怪しいな。そもそもなんで皇都の男を匿ってるんだ。」

「分かったぞ…お前ら共謀してるんだな!」

「なるほど、それなら全ての辻褄が合う!そういう事か!なんて奴等だ!」

男たちは口々にまくし立てる。

あまりのがなり声に、レイは反論どころではない。頭を手で押さえ、今にも倒れそうにしている。エナの反論も男たちの声に掻き消され、二人はあっという間に縄で縛られて、店の前に乗り付けた、馬が曳く大きな幌付きの荷台に放り込まれた。



馬車は30分もしないうちにイリの街に到着した。そして二人は役場の地下に造られた小窓が一つあるだけの、ジメジメとした牢に押し込められた。

「待ってください!このやまこ、少し熱があるみたいで…一度お医者様に見ていただかないと…」

ドアが閉まりきる前にエナは必死で訴えたが、男たちは誰も取り合わなかった。

レイの容体はここに来るまでにますます悪化していた。昨日海につかっていたからだろうし、もしかすると崖から落ちた時にどこかぶつけていたのかもしれない。

「レイ様、大丈夫ですか…とにかく横になって休んでください。」

二人とも両手を後ろで縛られており、たいした身動きはできない。床にはすのこ状の板が敷かれているだけで、寝心地はけして良くはないだろうが他に選択肢はなかった。

「すまないエナ…余計なことに巻き込んだようだ。」

壁にもたれかかって、レイは力なく答えた。

「起きた時は大丈夫そうだったんだけどなあ。そのあと急激に悪化した気がする。」

「無理もありません、むしろあそこから落ちて殆ど無傷だったは幸いです。でも、このままじゃ熱がもっと上がってしまうかも…」

そうは言ってもエナには何の手立てもない。手をこまねいていると、牢の外に人の気配を感じた。複数いるようだが、会話の内容までは聞き取れない。

声がして暫くすると牢の扉が開き、役場の男に出るように促された。エナとふらふらのレイが牢の外に出ると、そこにはニイネと付き人、島長たち島のやまこがいた。

「レイ、一体どこをほっつき歩いていたんですか。こんな大事まで起こして。」

開口一番、ドスの効いた声で怒ったのは付き人だった。

「ウズ…」

弱々しくそれだけ答えると、レイはそのままエナの方に倒れこみそうになってくる。流石に1人では支えきれないので、なんとか押し返しながらレイの体調が悪い事を伝えた。

付き人は怒った顔のまま、ニイネの方を見る。ニイネは困った顔をでそれを受け取り、島長の耳元で二言三言囁いた。それからエナの方を向いて優しくし言った。

「君まで巻き込んでしまったようで申し訳ないね。ひとまず私たちが借りている屋敷で休もう。」

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