表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/28

入居直前、亜龍を討伐する?

 さて。

 俺は新居となる異世界マンションの前に立っている。

 正面玄関の手前が踊り場になっているのだが、そこから建物を見上げる体勢だ。



(う~む。前世のまんまだ)



 エターナルがコピーして持ってきた建物は新築に改修されていたりはしなかった。パッと見奇麗でオサレな建物だがよく見ると経年劣化もなくはない(なにせ築28年)。汚れもある。

 当たり前だ。

 現実世界で雨風にさらされた建物はそういうものだ。

 新車だって雨に降られ泥に汚れれば、こんな感じに煤ける。

 普段はイチイチそんなこと気にしないだけで、うちのマンションは充分に奇麗でオサレといえるだろう。

 そりゃ本当の新築物件に比べたらムニャムニャだがそこは値段なり。

 コスパを含めて考えて、やはりよい物件だったと思い返す。



(実際ワンルームでかまわないという思いきりがなければ、俺の買える物件でこんな奇麗なのは買えなかったよ)


 

 そういうことなんですよ。

 40も半ばを過ぎ、一生独身というふんぎりが無ければ買えませんでしたね。

 ちなみにうちの地方では最高50年くらいのマンションがあります。中古物件もチラホラ。うちと同じ300万円の価格帯で2~3DKってのが相場。カンペキにリフォームされた物件になると築50年でも1000万とかいうのもある。

 実際どうなんでしょう?

 キッチリ修繕すればマンションはずっと持つのか、やはり寿命はあるのか。

 新築からずっと住んでいるわけじゃない途中入居の俺には本当のところはわからない。

 ま。

 売ってる物件があるんだからあと20年は住めるんじゃないかな、というのも、狭いが新しいうちの物件を買う決定打になっていたりする。

 途中で追加で修繕費用がかかったとしても(積み立てで足りなくて……絶対ないとは言えない事態だろう)まあ、アリかと思ったりもした。

 ちなみにうちの地方の賃貸相場だと10年住めば元が取れる勘定だった。

 損得で考えれば実際どうかはわからんが、欲しかったしね。

 賃貸じゃない持ち家を所有し所有欲を満たせるというのは何物にも代えがたかった。


 というわけで、まあ何とか定年~年金受給くらいまでは住めるんじゃないかなあ、という読みだったんだけど、トラックに轢かれ転生してしまった今となっては取らぬ狸の皮算用。

 それでもキャッシュで中古物件を購入したのは幸いだった。

 ローンが残っていたりしたら、神界ルール的に財産と認められないそうなんである。



(そこはエターナルのスマホが、代金不足で危うく密輸判定されそうだったあたりと同じなのかね)



 神界の法律がどういう根拠で決まっているのか、神ならざる俺にはわからないが、中古物件を即金だったおかげで助かった。

 生前の物件をそのまま持って転生出来たのはそのおかげだ。

 住宅ローン減税狙いであえてローンを組んだりしなくてよかった。いや本当助かった。

 結果オーライってこういうことだね~。








 さて、である。

 ここでうちのマンションの立地を確認してみよう。

 振り返る。

 見渡す限りの草原。

 ダンジョン一層は草原ダンジョンだった。

 草原というか俺のイメージではサッカー場みたいな芝生状の草原がバ~ッと視界の果てまで広がっているばかりなんだが。

 一面の緑の中にポツンとマンションが一つ。

 ちなみに空はある。

 というか空にしか見えない。

 太陽は見えないが明かりはある。

 雲はある。

 ああ。曇り空なのにピーカンのような明るさは言われてみれば不自然かも。

 この空の上には天井があって、その外の立地は氷河だそうである。

 北極か南極か、異世界エターナルが丸い地球の地動説なのか、それは不明だが、そんな感じの人類未踏の土地にあるダンジョン。

 その一層がここだった。

 ちなみに魔物はまったく見えない。

 一層の魔物はオオカミ、草原グラスウルフとでもいうんだろうか?

 そのグラスウルフが捕食する兎なんかの小動物、あとは普通に虫なんかもいるらしい。

 ダンジョンでイメージする魔力生物で倒すと消える……というのとは違い普通の生態系に近い。

 こうしたステージを用意してくれたというのも食材として利用できないかというエターナルの心配りなのかしら。

 グラスウルフを駆除した後なら農地を作るのも出来そうだ。

 水場は視界の中には見えないがないってことはないんだろう。

 だってこんなに芝生が生えてるんだし……あるよね水場?

 ま。

 それも駆除が成功したらの話だけれども。

 姿の見えないグラスウルフの他に一層にはボスモンスターが存在する。

 そのボスを倒すことで一層の攻略は完了となる。

 それにより俺は一層のダンジョンマスターの資格を得るんだそうな。

 農場を作るもよし。テイムして部下にするもよし。リポップさせて食肉用にするもよし。

 なるほど至れり尽くせりだ。



(ただし、それなりの戦闘力のある転生者なら、だけどね……)



 俺は戦闘力に関しては一般人。

 ネット通販はチートだが、将来のことを考えると自活したい。

 自給自足、もしくは人間社会と交易して金策だってしないと。

 では、どうやって無力な俺が魔物を倒すのか?


 こうするんである。



『来ましたよ、ユージさん』


「お、おう」



 うお。

 ビビったあ。

 いきなり頭の中にエターナルの声が鳴り響いた。

 テレパシーである。魔法っぽく言うなら念話……とかそういうスキルか?

 スマホはエターナルにあげちゃったんでそうした魔法スキルで話しかけてくれるよう、お願いしてあったんである。

 魔法、体験してみたかったし。


 来た、というのは魔物のことだ。


 それもグラスウルフなんかじゃない。

 ボスだ。


 ぎゅうおおおおおおおお~~!


 スゲ~でかい風切り音。

 地上じゃない。

 空からだ。

 うええええ。

 ヤベこれマジ怖いんすけど~。

 転生前に潰されたトラックよりさらにデカいその姿は空飛ぶトカゲだった。


 亜龍:ワイバーンだそうな。


 ドラゴンとは言えない亜龍トカゲのまものだというが、俺には普通にドラゴンに見える。

 でけ~。

 怖~。

 ブレスを吹かず体当たりをしかけてくるあたりがドラゴンではない亜龍の証明なんだろうが、一層にしてはやはり凶暴すぎる魔物なんじゃないだろうか?

 体当たりというか餌である俺を咥えてそのまま飛び去るつもりみたいだ。



(ヤバこれ死んだわ)



 二回目とはいえ、死ぬのは慣れない。

 目をつむって俺は恐怖にへたり込んでしまった。



 グシャ!



 見えなったのは幸いかもしれない。



『おめでとう。ユージさん。ワイバーン討伐成功です!』


「お、おう」



 目をあけると血まみれだった。

 目の前の空間が血でべっとり。

 ワイバーンの首が無くなって胴体が草原に転がっている。

 血まみれな空間を見て……俺はとあるロボットアニメを思い出していた。



(エヴァンゲリオンのATフィールドじゃん。ガンダムじゃなくて不動戦士マンションの能力はこっちだったか?)


 機動戦士じゃなくて人型決戦兵器の方だったようだ、うちのマンションは。

 人型じゃなく箱型だけど(マンションだし)。

 種明かしすると、こういうことである。



 オートロックフィールド。


 

 ATフィールドならぬオートロックで守られた絶対不可侵なバリアーが、俺を餌とみて突っ込んできたワイバーンにごっつんこしたんである。

 トカゲ頭では察知できなかったようだ(頭もうないけど)。

 本来はマンション玄関入り口に設置されるオートロック。

 とはいえエターナルが管理するマンションは電気が引いてあるわけでもない。エターナルの魔力ごり押しで前世と同じ機能を再現している。

 となれば拡大解釈してマンション玄関口に不可視の領域を展開、トカゲ野郎のピンポンダッシュをグ~パンで阻止するのもアリというわけなのだ。

 厳密なようでグレーゾーンありありな神界ルール。

 神ならざる俺にはその法理論のすべてを知る日は来ないだろう。



「う~ん。自給自足用のお肉GET……と言っていいんだろうか、これ」


『ワイバーンのお肉は美味しいですよ! ユージさんにもオススメです!』



 食いしん坊女神エターナルがそんなことを言う。

 チョコおごったお返しなんだろうか……その割には餌にされた俺、めっちゃ怖かったんすけど。トラックに潰されたトラウマよみがえりそうだったんですけど。

 ま。

 あいつにそんな細やかな気配りができるとは思えん。

 諦めてお肉貰えたことを感謝しておこう。

 しかしどうするかね?

 なんぼなんでもでかすぎる。ガチでトラックくらいの大きさあるよ、このトカゲ野郎。


 今度は上級神の声がした。



『ユージさん。マンション動かしてみて』


「ああ、あれか」



 不動戦士……じゃなかった不動産であるマンションは本来動けない。

 動けたら可動産になっちまう。

 そういうことじゃなくて、一般人な俺にマンションを動かすスキルはない。

 オートロックフィールドはあくまで装備品であるマンションの力で俺の力じゃない。

 餌役の俺は立ってただけだ。

 なのに何故マンションが動かせるのか?



 ズルズル……



 マンションが少しずつ草原の地面の上を移動し始めた。

 動いた分だけ道のようになっている。

 そう、先ほど話した補助スキル。ボスモンスターを倒し階層クリアすることで発生するダンジョンマスターの力、リポップ。

 ワイバーンそのものだけでなく能力だけ使用することも、ダンジョンマスターには可能なのだ。



「慣れないと、なかなか運転が難しいなこれ」


『頑張って~ユージさん』


『ユージさん、ちょい右。そうそこで真っすぐ』



 なんということでしょう。匠の巧みなハンドルさばき(ハンドルなんてないが)に、ワイバーンの死骸がちょうどマンション駐車場入り口に吸い込まれていくではないですか?

 おそるべき匠の運転テクニック。

 なんてナレーションが鳴りそうだ。

 あ。

 ちょっと柱にぶつけた。

 あ~あ~見て見ぬふり。

 ちょっと血で汚れちゃったかも。



『あとは任せてユージさん』



 ワイバーンの巨体が駐車場内で消滅していく。

 俺が8000円で借りた駐車スペースをアイテムボックスと拡大解釈、収納したのだった。

 よかった。

 駐車場借りてなければ、せっかくのお肉の置き場が無くなるところだった。

 駐車場アイテムボックス内は食材の時間も停止、悪くなることもない。自給自足が一歩近づいたというわけだ。



「うう。でも疲れた」


『結構魔力消費してるよ。今日は少し休んだ方がいいかもしれないね、ユージさん』


「うう。そうさせてもらう」



 慣れない魔法使用で疲れた。

 というか俺の魔法の使い方がよくない。

 ワイバーンを討伐したことで俺は 一般人 < ダンジョンマスター へとレベルアップ。ワイバーンが空中を飛べる魔法=質量操作を使用可能となりマンションを自在に動かせる=不動戦士マンションに機動力を与えられる……手はずだったのだが、魔力操作にロスが多すぎたようだ。



(これは、かなり練習が必要そうだ)



 魔法センスはまるでなさそうな俺だった。

 ま。

 いいか。

 俺は戦闘職じゃなく生産職だし。

 本題は魔物討伐じゃなくマンションへの入居の方なんだから。

 胸が高まる。

 いよいよ……

 ついに……


 一歩、新居マンションの玄関の中に俺は足を踏み入れるのだった。

 中古でワンルームとはいえ、持ち家。ヒャッホ~である。

 玄関を開ける。

 入り口ロビーだ。

 そこから通路への扉を……



「あれ、開かない?」


『どうしたのユージさん?』



 エターナルが不思議そうに尋ねた。

 上級神が、



『ユージさん。それオートロックがかかってるんじゃ』


「おおう、それだ!」



 そりゃそうだ。なにせこのマンションはオートロックつき。

 そもそもそれを再現する過程でオートロックフィールドだって生まれたんである。

 オートロックがないはずがないんだった。

 これまで築50年のボロ屋に住んでいた俺はそんなこじゃれたモノ使ったことないし、とまどうのは無理もないというものだろう。

 え~と。

 カギに何かキーホルダーみたいなのがついてる。



『ユージさんそれよ、きっとそのきーほるだーで入り口の扉をあけるんだわ!』


「でもどうやって?」


『え……それは、知らないよ、私。どうなってるんだろうね』



 どうやらこのポンコツ女神、何となくフィーリングで地球文明のオートロック機能を再現しているだけで、仕組みはさっぱりらしい。

 魔法使用のセンスはあるんだろうが、天才肌で何で魔法がこう機能してるのか、論理だてて説明できないのだ。

 ゆえにオートロックのカギがどうやって開ければいいのかさっぱり。

 失敗した。

 結果、大失敗だ。

 生前、不動産屋さんにちゃんと開け方聞いておけばよかった!


 閑話休題。

 悪戦苦闘さんにんががりの末、オートロックのカギを開けるのに30分の時間を要した俺たち。

 結論。入り口インターホンのところにキーホルダーをかざすだけ。それでピピッとなる。

 どうやら俺は魔法使用だけでなく科学文明のセンスもさっぱりらしい。


 次回、ついに部屋の中へと……


今日はがきが届きまして……うちの中古マンションの取得税が7万円だそうです。

マジか……税金高すぎ。


税金はらわずに済むユージが羨ましい……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ