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転居直前、トラックに轢かれる?

 その日、俺は購入したばかりの新居に引っ越すはずだった。


 まあ。

 新居と言っても中古のワンルームだが。

 

 それでも、ずっと賃貸暮らしだった俺としてははじめての持ち家である。

 ワンルームなので持ち家というより持ち『部屋』かもしれないが、はじめての借り物ではない自分の家(部屋)。

 俺のテンションはMAXまで駆け上がっていたんだ。

 喜びいさんで新居(築28年で価格は300万円)への道を『小走りに』歩いていた俺は、



 ブオンッ!



 と、いきなり歩道に乗り上げてきた大型トラックに轢かれ、人生の最後を迎えたのだった。

 新居の目の前で。


 

(あ~あ。結局持ち家に住む夢は今生ではかなわなかったか……)



 などと思う間もなく俺は、潰れ、死んだ。

 それが俺、旧姓:ワタナベ・ユージの人生の顛末。

 ちなみにトラックの無謀運転の理由は居眠りだそうだ。やれやれである。














 で、

 ←イマココ。


 死んだはずの俺の意識なんだが、実はまだ意識がある。

 先ほど回想で……『今生では』持ち家に住めなかった……『旧姓』ワタナベ・ユージ……などと俺が口にしたのは、この死んだんだが死んでいない、現在の状況ゆえなんである。

 なんというか、


 俺の眼前、超美人な女神様だというお姉さんがこうのたまっているのだ!



「おめでとうございます。ワタナベ・ユージさんは、生前に獲得した転生ポイントにより、異世界エターナルへの転生資格が与えられます。異世界エターナルは剣と魔法のファンタジー世界です!」



 目の前の美人がそんなことを言い出した!


 転生……突然の展開。

 いや。ある意味お約束でもあるが。

 やはり突然は突然。

 すごく広い意味で想定内ではあるが、充分に予想外……な事態!

 何というか、俺はネット小説で語られる転生もののような展開が死後に訪れると思っていたわけではなかったんだ。

 可能性の問題として、ネット小説の転生ものがこの世の真実を語っているとは考えにくかった。

 何しろ科学的根拠が薄い。

 ゆえに……

 普通に死んだら終わり。

 意識のないただの無。

 俺と言う人格の完全な消滅。

 あたりが実際なんだろうな~、やっぱりそうだよね、なんて覚悟していたんである。

 そりゃ。

 ネット小説の転生もののような展開があったらおもしろいな~、そうだったらいいのにな~、と思っていなかったといえば嘘になる。

 現代日本人のお約束として、本当に転生出来たら~などというシュミレーションをすることも少々。というか多々あったが、でもそれはあくまでちょっとしたシャレ、願望であって……実際はそんなうまくいくわけない。世界はファンタジーではなく科学で出来ているんだろうと、半ばあきらめ覚悟していたんだが……







 ←キタコレ←イマココ!



(そうか、転生か……何というか、宝くじに当たるってのはこういう気分なんだろうな)



 と、嬉しくなかったわけではないのだった。

 いやいや。本来ならヒャッホ~と歓声を上げて狂喜乱舞する場面である。

 何せ、転生。

 トラックに轢かれて潰れて死んで終わりだったはずの人生のリスタート。

 嬉しいに決まっているのに!

 ……なのに、微妙なガッカリ感が俺の心の中から消えてくれないのは……やっぱりあれだろうと思うのだ。

 せっかくの新居への引っ越しをあと道路一本渡れば、というところで阻まれてしまったのだから。

 何せ潰れて死んじゃったし。




 瞬間、

 ポロリ↓


 と、涙が零れ落ちた。

 うおお。

 逆に自分でも驚いてしまうわ。

 悲しい……というわけではなかった。少しはそれもあるがそれ以上に転生出来たという喜びの方が大きかったし。

 前世のワタナベ・ユージはいい年した独身のおっさんだった。

 不幸だったわけではないが、まあまあこんなもんかな、という人生。

 そもそも独身でなければ中古のワンルーム物件とか買わないし。

 家族持ちだったら生活成り立たないし、狭すぎて。

 そんな旧姓:ワタナベ・ユージにとって転生は渡りに船だったはずなんだが(何せチートやハーレムだってあるかもしれない。俺が転生させてもらえるという異世界エターナルはお約束の剣と魔法のファンタジー世界であるというし! 凹んでいてもそんな重要事項を聞き逃す俺ではないのだ)……


 あわわ~、と突然の俺の泣きに呆然とした表情の女神さまに、俺は言うのだった。



「いえ。すいません。特に悲しいわけではなく」



 ガッカリしても涙って出るもんなんですね~などと俺は説明する。

 そう。

 ガッカリ涙だ。

 俺は今、


 転生出来るという喜び < 新居に一歩も入れず死んじゃったよ


 な、ガッカリ感に打ちのめされ、ガッカリしすぎで一粒の涙がポロリ状態だったのだ。

 実際、俺の人生で歴代一位なガッカリ具合だったので。

 そこはね……新居の模様替えを色々計画して楽しみにしていたからねえ。

 中古物件ということで一部、壁紙がはがれていたりするんだが(そこは購入前の内覧時にチェック済み)、そこは本棚を入れれば隠せるだろうなあ、とかね?

 そうした計画が沢山あるんである。

 他の個所は、築年数の割にずいぶん奇麗。

 かなり念入りに管理、修繕されている物件らしく、モノはいい。

 購入前にあちこち見て回った物件の中では抜群の奇麗さ、充分にオシャレマンションと言える作りだったのだ……ワンルームだけどね。

 ま。

 同じ価格帯の2DK、3DK物件と比べたら、そりゃ奇麗だろう、その分狭いんだから。

 築28年と言うのもポイントだ。

 いわゆるバブル時代に建てられた物件。このへんの時代にブレイクスルーがあったのか、この年代のマンションには今と通じるデザイン、構造があるように思うんだよね。ただ年式を重ねただけで、今時の新築マンションと同型等に思う。

 それ以前の物件は、それはそれで味はあるが……昭和? なデザインな気がする。

 何というか色からして原色が何色も使われて塗装されていたり、味はあるがちょっと玩具っぽい。

 ぶっちゃけガンダムみたいな(笑)塗装が散見される。

 そうした昭和の古いマンションに比べて、うちの物件は、地味というかシックというか……今に通じるマンションの見た目なのだ(ぶっちゃけ汚れも目立ちにくい)。

 ここまでオサレ、こっから平成……というギリギリラインに踏みとどまったオサレマンション(ただしワンルーム)という物件、それが俺がこの物件を購入した理由だったんである。

 それ以上に値段が大きかったんだが、それはいいっこなし。

 普通の田舎のサラリーマンが現金で出せる上限がこの価格帯だったんだから。

 ともかくも、俺はすごくこの物件を気に入ってたんだ。

 せまいけど俺は独身のおっさんだし問題なし。

 むしろ独身でなければこんなオサレマンションは買えなかった。

 となればだ。

 ここは独身のおっさんとはいえ、気合い入れて模様替えせねば……と気合入りまくっていたわけだ。

 そうなんだよ。

 めっちゃ盛り上がっていたからねえ……。

 計画はたんまりと脳内妄想したが、妄想と現実には擦り合わせも必要だしね……入れるつもりの家具がサイズ合わなくて入らない……とか逆に小さくて隙間できちゃったとか……そうした不測の事態に備えてプランB、Cと用意していたんである。

 ホームセンターに行って下見もした。

 何せ賃貸住宅と違って持ちワンルームだが

 それこそ釘の一本打つのも気を使って断念していた賃貸とは違う。

 DIYディーアイワイ気分で家具を自作したり、金具で家具を固定したり、夢が膨らみまくる楽しい時間……その妄想をいよいよ現実に!

 

 ま。

 それが……あと一歩(というか数歩)というところでお約束のトラックに……ぷち。

 だったんだけどさ~。


 

(そりゃガッカリもするっちゅ~ねん!)



 しかしビビったわ。人間の体って心底ガッカリすると涙が出ちゃうもんなんだねえ。

 別にやせ我慢ではなく(割と本気で俺は転生を喜んでいる)、悲しみではなくて俺は泣いちゃっていたんだ。

 その証拠に落ち着くとあっという間に落涙はとまる。

 

 美人の女神様に状況説明する、俺。



「というわけでして、転生自体は大喜びしているんです。ただまあせっかく買った新居に入ることも出来なかったのが心残りだっただけでして」



 サラッと笑いながら、言う俺。

 空元気ではない。

 転生出来ただけでもうけもの……心から俺はそう感じていたんだが、女神さんが『ふむ』と頷きながら口にした一言は、驚天動地に予想外だったんだ。

 だって女神様ってばこう言ったんだぜ!



「ふむ。それではユージさんの転生に際し、ご希望とあらば、新居のワンルームマンションをそのまま持っていく方向で検討してみましょう」



 え?

 は?

 うえええええええええええ~~~~~~~!

 そ、そんなことが



「ハイ。できます♡」



 できるのでしょうか、などと口アングリ尋ねる間もなく、女神様は言いきったのだ。

 俺の購入した生前の中古ワンルーム物件をそのまま『異世界に』持っていけるのだ、と!


 これが、俺の生前の中古ワンルーム物件をそのまま持って逝く、転生の顛末。

 その始まりだったんである。


 詳細は次回。


 何せ今の俺はドヤ顔でほほ笑む女神様の美貌を口ポカーンで見つめるばかり、心から放心状態だったのだから!

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