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冒頭
闇夜を一人の男が走っていた。
男の顔は苦痛で歪み、額からは大粒の汗が流れていた。
歯を食いしばり、今にも倒れそうな己の体に鞭を打つ。
男の心と身体はもはや同一性を保っていなかった。
裸族である男は可能な限り裸でいる必要があったが、彼に敵対する者に容赦のない仕打ちを受けたのだった。
それは己の意思を持つ洋服。
普段はナノ単位の粒子だが、人の体内に取り込まれると意思を持って衣服を形成する。
裸でいたい彼の意志とは別に、一瞬でも気を抜けば服を着させられる。
そんな極限の状態であるにも関わらず、彼は走っていた。
彼が守りたいもののために――。