9-勉強が得意な俺はテストなんか敵じゃない
まだまだ文章が荒いですが温かい目で読んで頂けると幸いです。
どこかで蝉の鳴き声が聞こえる。
季節は6月。
衣替えも終えて俺達の制服は夏服に替わった。
だが6月はどんより、じめじめとしてやる気が奪われていく時期。
朝のホームルーム前の俺達のクラスにも例外なくどんよりとした空気が漂っていた。
やる気を落とす気候に加えて、さらにみんなの気分を落とす原因となっている物は黒板に張り出された一枚のプリントだった。
「なあ純也、おまえあれ見た?」
優人が話しかけてくる。
「見たよ。うちの高校は2学期制だから仕方ないかも知れないけど、高校初めてのテストであれはきついよな」
2学期制の学校は定期テスト、定期試験とも呼ばれる成績に大きく響くテストが年に4回しかない。
俺達が通っている高校は6月、9月、11月、2月にテストがある。
つまり夏休み前までにテストは1回きりしかない。
その第1回テストまで2週間を切ろうとしていた。
張り出されたプリントにはこう書かれていた。
《夏休み期間の補習について》
成績不振者は夏休み期間中、8月の第1週の月曜日から7日間補習を行う
《予定時刻》
9:00~15:00
《対象者》
前期中間試験において得点が平均点の半分以下の教科が1教科以上ある生徒
《注意事項》
昼をまたぐため、昼食を各自用意すること
もしも無断で欠席した場合3日程度延長あり
俺は赤点を取らない自信があったが、可能性は0ではない。
貴重な夏休みを一週間も取られるのは嫌だ。
「どうしよう、現代文マジで無理なんだよ」
優人はこう見えてもサッカー部で部活に青春をかけているスポーツマンなのだが頭が良い。
どうせできるやつ特有の『俺全然勉強してない』的なやつだろうと思ったのだが
「俺さ、入試で国語15点だったんだよ」
額を見たが真っ青なニコニコマークあるだけだった。
嘘をついている様子はない。
「は?! じゃあ他の教科どれだけよかったんだよ!!」
「まあな、何たって俺だからな。国語以外は朝飯前よ」
「おまえ凄いな」
仮にもこの高校は難関校と呼ばれているため他の教科が満点に近いことは容易く想像できる。
正直、テストを舐めていたがこれはうかうかしてられないな。
俺の闘争心に火がついた。
「神崎、おまえは大丈夫か? 入試ギリギリだったって聞いたけど」
「……」
優人は前の席に座っている香織に話しかけるが反応がない。
「神崎? ……息がない……死んでる!」
優人がそんなボケをかましても反応がない。
「ちょ、無視されると俺メンタルやられちゃうから……」
優人の額のニコニコマークは俺が誉めてから真っ赤だったのだが一気に真っ青になる。
それどころか、真っ赤な絵文字の泣きマークが浮かび上がる。
メンタル弱っ!!!
流石に香織が心配になり正面に回り込むと香織は魂が抜けたような表情のまま固まっていた。
顔の前で手を振るとようやくこちらに気付いた。
「わっ、びっくりした!! 驚かさないでよもう!」
「いや、ごめん。驚かせるつもりはなかったんだけど」
「そうだぞ。俺を無視しやがって。危うく泣いちゃう所だったぞ!」
「泣いちゃうの? 何で?」
さっきまでの会話を全く聞いてなかったらしい。
「そんな話はいいんだ。おまえ入試ギリギリだったんだろ? テストは大丈夫なのかって聞いたんだよ」
「……やばいです」
「じゃあ3人で勉強会やらないか? 今日部活休みなんだけと、今日の放課後あいてる?」
「俺は空いてるけど」
可憐との勉強会は
『純也さんもテスト勉強があるでしょうから』
と可憐が気を使ってテスト前は集まらないことになっていた。
だから俺はいつでも空いていた。
「私も今日はOFFの日だから大丈夫だよ」
香織は軟式テニス部に入っている。
中学もテニス部で、3年のときは部長だった。
「決まりだな! じゃあ場所は学校から一番近いコエダ珈琲店で」
「はーい。もうチャイム鳴るから席についてください」
担任の教師 篠原奈々未の声でわらわらとみんな席に着く。
「奈々ちゃん先生質問です!」
優人が元気に手を上げる。
奈々ちゃん先生というのは先生のあだ名で本人公認だ。
何でも若く聞こえるからなのだとか。
今年で30歳を迎えるが、未だ独身で彼氏なしだと虚ろな目で入学式の後の自己紹介で語る先生を見て、クラス全員が奈々ちゃん先生と呼ぶようになった。
「どうしたの相川君」
「もし夏休みに補習になったら具体的に何をするんですか?」
「大体は夏休み前までの授業の復習だね。ちなみに私がボランティアで教えるからね……ふふふ……部活を持ってない先生って私だけだし、先生には夏休みなんてないし、あってもすることなんてないし、一緒に過ごす相手なんかいないし、みんなは良いよねキラキラしてて青春してて、おばさんには眩しくて直視できないよ……」
一瞬でクラスが静まりかえる。
「みんな補習にならないようにがんばろう!」
そう叫ぶ奈々ちゃん先生のテンションについて行けない俺達のクラスの全員が、絶対に補習にはならないように勉強すると心に誓った。
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