8-尾行されている俺はいつでも気が抜けない
拙い所が多いと思いますが、温かい目で読んで頂けると幸いです。
じわりと嫌な汗をかく。
ちらりと視線を感じる方を見ると楓と香織が水槽の陰からチラチラとこちらをうかがっているのが見えた。
こちらに近づいてくる気配はない。
おそらく俺に気づかれていないと思っているのだろうがバレバレだ。
それもそのはず、楓も香織も可憐に負けないくらい容姿が整っているため二人の周りにはちょっとした人だかりができていた。
可憐を待つ俺は大きなジンベエザメの泳ぐ巨大な水槽の前に設置されたベンチに座っているのだが、照明が暗いためはっきりとではないが水槽に反射して後ろの様子が見える。
『ちょっとそこのお姉ちゃん達、二人だけ？ ちょっと俺達と食事でも行かない？』
楓と香織がコテコテのナンパ男二人組に声をかけられた。
『あ、そういう良いんでごめんなさい』
『そういうの不快になるんでやめてください』
二人は真顔で返す。
うわっ容赦ないな……
『女の子二人だけより人数多い方が楽しいからさ』
『あの、あんまりしつこいと警察呼びますよ？』
『そうですよ。キモいです。どん引きです』
『ま、まあまあ、そう言わずにさ。 少しだけだから』
男達もメンタルを少しやられたのか声が震えている。
だがこれくらいで挫けてたら軟派などしていないのだろう。
男達は強引に二人の腕を掴んだ。
おいおいまずくないか？！
反射的に助けに行こうかと思ったが
次の瞬間、楓は男の一人を見事な背負い投げで床に叩きつけ、香織は掴まれた腕をひねってもう一人の男の手首に関節技を決めていた。
いや、強すぎだろ！！
楓は何となく強そうだと思っていたが香織まで強かったのか。
あいつ運動神経いいからな。
もしあの二人を本気で怒らせたらどうなってしまうのだろう？
俺、生きていられるかな？
怖くなってきたので考えることをやめた。
二人ともしっかり手加減したのか男達はすぐに謝ると走って逃げてしまった。
周りで見ていたギャラリーから歓声が上がる。
明日あたりにSNSで話題になってそうだな。
楓と香織はしばらくしてから何かを思い出したように、こそこそと先ほどまで隠れていた場所にもどってまたこちらを覗きだした。
この状況でまだ気づかれていないと思ってるのか？！
「お待たせしました。混んでいて遅くなってしまいました」
そんなこんなしているうちに可憐が帰ってきた。
彼女の屈託のない笑顔を見て心が浄化される。
「あ、そうだ。純也さん、お腹空いてませんか？」
「そうだね。そろそろお昼にしようか」
背後に視線を感じながら俺達は水族館内にあるレストランで昼食を取ることにした。
「純也さん、これ美味しいです！」
可憐は真っ赤なニコニコマークを額に浮かべながら美味しそうにパスタを食べている。
彼女が注文したのは温泉卵ののったカルボナーラだ。
俺はハンバーグを注文した。
というかメニューに海鮮丼とかあったのだが水族館でこれはどうなんだ？
「俺もパスタにすればよかったかな。可憐が凄い美味しそうに食べるから俺も食べたくなっちゃったよ」
「でしたら、少し食べますか？」
そう言うと一口大のパスタをフォークに巻き付けて俺の口元に近づける。
これはあの『あーん』ってやつなのか！？
マジかマジかマジか
焦る俺は彼女の額を見てもマークは真っ赤なニコニコマークのままだ。
この娘天然だ。素でこれをやっている。
ガシャーン！！
何かが割れる音がして我に返り、見ると楓が皿を落としていた。
「やはり私の食べかけは嫌ですか？」
「嫌なわけないよ！ありがとう、頂くよ」
俺はそう言うと半ばヤケクソになりながらパスタを頬張った。
「美味しいですよね！これ」
「う、うん」
正直味なんか全然わからない。
ん？このフォークさっきまで可憐が使ってたんだよな？
そこで間接キスをしてしまった事に改めて気づくと顔がたちまち熱くなる。
ガシャーン！！
また何かが割れる音がして見ると今度は香織がコップを落としていた。
「私も少しそのハンバーグを貰っていいですか？」
「良いよ」
俺はハンバーグを取り皿に分けようとすると真っ赤だったニコニコマークが緑色になる。
これはまさか俺に『あーん』をしろということなのか？！
ハンバーグを一口大にナイフで切って彼女の口元に近づけるとニコニコマークが真っ赤に戻る。
予想的中。
彼女はそのままパクリと食べると
「こっちも美味しいですね！」
と幸せそうにしている。
ガシャーン！！ガシャーン！！
ガシャーン！！ガシャーン！！
立て続けにお皿が割れる音がする。
香織と楓はスタッフに促されて店の外に追い出されていた。
涙目になりながら大量の皿の破片を片付ける店員さんを見ると何だか申し訳なく思い、会計の時に彼女達が割ったお皿とコップ代も払わなくちゃなと思う。
静かになった店内で俺は可憐が美味しそうに再びパスタを食べるのを眺めた。
「今日はありがとうございました！」
可憐は満面の笑顔でそう言った。
時刻は午後5時
午後はお土産コーナーを見て回ったり近くにあったゲームセンターに寄ったりした。
あまりこういった所に来たことがないのか彼女は見るもの全てに新鮮な反応を示していた。
「いやいや、こっちがありがとうだよ！ わざわざチケットまで用意して貰っちゃって。今日は本当に楽しかったよ」
「楽しんで頂けたのなら嬉しいです！ 私も楽しくてついはしゃいじゃいました。 ではまた学校で！」
可憐と別れた後、俺は重い足取りで家へ向かった。
家に帰ると楓と香織の屍がそこにあった。
正確には魂の抜けたような顔で二人そろってリビングに転がっていた。
「あ……兄さん……おかえり」
「じゅん……おかえり」
てっきり尋問されると思っていた俺はポカンとしてしまう。
額には何のマークもない。無感情なのか？！
とりあえず彼女らは今日あった事は知らない設定になっているので今日あった事を報告する。
「今日、勉強を教えてくれたお礼って事で宮崎さんに水族館のチケットを貰って水族館に行ってきたんだけど……」
二人の前で可憐と呼んだら面倒なことになるから宮崎さんと呼ぶようにしている。
そう言うとピクリと二人が反応する。
「へ、へえそうなんだ。かわいい彼女ができてよかったね、じゅん」
やっぱり勘違いしていた。
「前も言ったけど宮崎さんとは付き合ってないよ」
ピクリとまた二人が反応する
「本当に？」
「本当にだよ」
なぜ彼女達が不機嫌なのかは理解している。
俺は鈍感なラブコメ主人公じゃない。
もしも、二人の思いを知っている俺が二人のどちらかに告白すれば二人とも快く受け入れてくれるだろう。
だが、それは能力で得た情報。
この力がなければ気づかなかったことが沢山ある。
だから簡単に決めたくなかった。
自分が本当に愛せる女性を見つけるまでは。
これは俺のわがままかも知れないし、優柔不断を誤魔化す言い訳かも知れない。
だけど俺は……
「今度はみんなで行くか？」
そう言うと二人の額にいつものハートマークが浮かび上がる。
チョロすぎる！！将来悪い人に騙されないか心配だ。
「はいはい！ 私、じゅんとディスティニーランド行きたい！」
「私は兄さんとディスティニーシー行きたい！」
「じゃあ別々だね！」
「そうですね！ 日にちを分けていきましょう！」
だけど俺はこんな騒がしく、退屈しない日々が好きになっていた。
答えが出るのはいつになるかわからないがそれまではこの騒がしい日々を楽しんでいきたい。
楽しそうに話す楓と香織を見ながらそんなことを考えた。
この物語はまだまだ続きます！
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