4-部活に入っていない俺は放課後に勉強以外やることがない
初めての事ばかりなので至らない部分が多いと思いますが、暖かい目で見ていただけると幸いです。
俺は部活に入っていないためよく放課後は図書室で勉強している。
友達からはよく意外だと言われるが高校入試はトップで入学した。
中学時代は陸上部に入っており、100m走の県ベスト3位になった事もあるが左足を故障して中学3年の4月に部活を引退。
そこから部活に注いでいた力を持て余し、全て勉強に回したのだ。
その習慣がいつの間にか体に染みついてしまっている。
この高校は運動部が盛んなため放課後の校舎は人気が無くとても勉強に集中できる。
それに図書室は普段あまり使用されない旧校舎にあるため、利用する人がほとんどおらず大体は自分だけしかいない。
今日も一人で勉強をしていると
「すいません。隣いいですか?」
と声をかけられた。鈴を鳴らしたような透き通った声だ。
てっきり誰も来ないと思ってテーブルに広げていた参考書を急いで隅に寄せる。
図書室には利用者がほとんどいないためテーブルは1つだけしかなく、そのテーブルを占拠してしまっていたのだから申し訳ない。
「すいません。どうぞ」
そう言って振り返るとそこには宮崎可憐が立っていた。
「私は1年の宮崎可憐と申します。失礼ながらお名前をうかがってもよろしいですか?」
「俺は如月純也。同じ1年だから敬語は使わなくていいよ」
よし! 自然に言えたぞ。
ポーカーフェイスで落ち着いている風に装っているが内心は緊張しまくっている。
それもそのはず、テーブルには椅子が4つあるのだが彼女は対面ではなく隣に座ったのだ。
彼女との距離が近いため、きめが細かく化粧もしていないのに白く透き通るような肌や長いまつげ、ほどよく肉付いた形の良い唇、高校生とは思えないほど成長した胸が意識しなくても目に入ってしまう。
優人があんなに熱心になるのにも頷ける。
それにすごくいい香りがする。
美人には香織と楓で慣れていたと思っていたのだが世界は広いものだ。
耐えきれなくなって目線をテーブルの上に開かれた彼女の参考書にそらすと奇妙なことにタイトルは
『0から始める高校受験数学』
『中学英文法』
『中学数学1』
『中学数学2』
と全てが中学生向けだった。
「1年生なんですか?! 数学Ⅲや数学ⅡBの参考書をお持ちだったのでてっきり上級生かと思ってしまいました」
「部活をやってないからね。時間があるから予習をしてたらいつの間にか進みすぎちゃって」
「頭がいいのですね! そう言えば入学式の時にスピーチをされていませんでしたか?」
主席で合格した人が入学式でスピーチを行うため、確かに俺はスピーチをしていた。
「よく覚えてるね」
「やっぱりそうでしたか! 素晴らしいです!」
「そう言う宮崎さんだって中学の内容から復習するなんてなかなかできないし凄いと思うよ。勉強熱心なんだね」
「いや、決して勉強熱心という訳ではなく……お恥ずかしながら中学の頃は体が弱くてずっと入院をしていたので、全くと言ってもいいほど学校の授業を受けられなかったんです」
なるほど、道理で彼女の中学の話題を聞かないわけだ。
「え、でもこの高校に入れたなら十分な学力があるんじゃ?」
俺の通っている高校は県内でも割と有名な進学校だ。偏差値は60を越えているはずだが。
「中学3年の秋頃に退院してから入試に出やすい所だけの対策をして、何とか合格はできましたが付け焼き刃の知識だけでは今後の勉強に響くと思いまして」
「それを勉強熱心って言うんだよ。っていうか秋から中学3年分の勉強始めたの?!」
「はい、なので教科書の入試に出やすいところしか勉強してないです。このページのこの辺りは全く手をつけていなかったので全然わかりませんし」
「そこ難しいよね。俺で良ければ教えてあげようか?」
「本当ですか?! ありがとうございます!」
「こんなに遅くまでありがとうございました! ものすごくわかりやすかったです」
宮崎さんとの勉強が終わったのは校舎が閉められる20時だった。辺りはすっかり暗くなっている。
「如月さんは自分の勉強があったにも関わらず、時間を頂いてしまいすいません」
「気にしないでいいよ。俺の場合は習慣みたいなものだし、1年の範囲の勉強は一通り終わってるからね。またいつでもわからないところがあったら教えるよ」
「本当にいいんですか?! 実は次の単元のページによくわからないところがあったのですが」
「じゃあ明日教えてあげるよ。明日時間空いてる?」
「本当ですか? ありがとうございます! 全然空いてます。では明日も図書室で待ってます!」
そう言う彼女の額には赤色のニコニコマークが浮かんでいた。
彼女は元から勉強が好きなのだろう。
初めは緊張してなかなか彼女の顔を見れなかったが、彼女の人柄の良さもあり、今はだいぶ打ち解けて彼女の感情が見えるようになった。
話す前は遠い存在だと思っていたが話してみると、とても親しみやすい人だ。
「あ、そうです如月さん。私のことは宮崎さんではなく可憐と呼んでください」
俺にはかなりハードルが高い。正直超えられる気がしないレベルの高さにセットされたハードルなのだが
「わかった。俺も純也で構わないよ」
満面の笑みで話す彼女の前で断ることはできなかった。
「わかりました。では純也さんまた明日!」
この事を他の男子に知られたら俺、陰湿な虐めを受けそうだな。
というか宮崎さんと図書室にいることを知られるだけでまずいんじゃないか?
もしもバレればこの学校はおろかこの辺りの高校の男子の大半を敵に回すことになる。
とりあえず優人だけには知られないようにしよう。
家に着くと楓が不安そうな顔をして待っていた。
「兄さん! 遅いから心配しちゃったよ。遅くなるんだったら連絡してって言ったのに」
「ごめん、勉強してたら遅くなっちゃって」
「嘘でしょ。だって女の匂いがするもん」
え、女の匂い? そんなのわかるの?
「冗談です」
目が笑っていなかった。
「それに何回電話かけても出ないし」
スマホを確認すると着信履歴が表示されていた。
「本当にごめん! 全然気づかなかった」
「次からはちゃんと連絡してよね?本当に心配したんだから」
楓はそう言うと自分の部屋に行ってしまった。
今朝、衝撃の事実が発覚してから楓の感情はできるだけ見ないことに決めた。
それでもある程度ギクシャクしてしまうことは覚悟していたが心配していたほどではなくて安心した。
楓との付き合い方は……明日考えよう。
とりあえず今日は大量の情報が入ってパンク寸前の脳を休めることにする。
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