23-機嫌の良い皆川先輩は空気が読めない
――なっ?!
向こうもこちらに気付いたのか、目がバッチリと合った俺と、加藤と呼ばれた少女はお互いの視線がぶつかったままフリーズした。
「加藤は昨日居なかったから知らなかったと思うけど、この二人は新入部員の宮崎と如月だよ。二人とも一年生だから仲良くして……って、もう如月の事は知ってるのか」
皆川先輩は目が合ってお互いに固まっている俺と加藤に気付かず、嬉しそうにノリノリで紹介する。
き、気まずい……
俺は意図せずだが、彼女の告白に返事をしないという最低な形で彼女を振ったことになっているため、どのような反応をすれば良いかわからなかった。
今まで彼女に会う機会が全く無かったけど、やっぱり謝った方が良いよな。
――でも謝ってどうする?
もう過ぎた事だし触れられたくない問題かもしれない。
というかそもそもなんて謝るんだ?
もう一度言葉にして断る?
謝ってから付き合おうと提案する?
そんなのどちらもあり得ない。
自意識過剰にも程があるし、この上ない人の気持ちを踏みにじる行為だ。
そんな人間には死んでもなりたくない。
だが、香織と楓の事からも逃げ続けている今の現状も同じようなものだ。
あぁ! もうわっかんねぇ!!
こういう時にぐちぐち考えて何も行動できない自分にうんざりする。
しばし無言の時間が流れ、俺達の間には何とも言えない空気が漂い始めていた。
「はじめまして、宮崎可憐です。よろしくお願いしますね」
「ッ?! は、はじめまして、加藤利奈です」
そんな空気を壊してくれたのは可憐だった。
可憐、マジ感謝。
考えがまとまらない今はこの流れに乗って乗り切るしかない。
「如月純也です。これからよろしく」
「ど、どうも」
この流れで挨拶をしなかったら不自然なため、俺は自然を装って乗り切る事にした。
それに俺が気にしすぎているだけで、向こうはもう何とも思ってないかもしれないし……
可憐の作ってくれた空気のおかげで気まずさが少しずつ晴れていく。
「良かったな加藤! 加藤はいつも如月の事話してたからな」
ちょ、そういう事普通本人の前で言う?!
だが、皆川先輩の一言で普通に戻りかけてた雰囲気がさっきより気まずい空気に一瞬にして変わる。
「あ、あぁー。ナンだか頭がイタイカモなー。そんなわけでちょっと保健室に行ってきます」
そんな空気に耐えられなくなったのか、加藤はギギギと音が出そうなほどぎこちない動きで体を90度回転させ方向転換すると、そのまま保健室へ行こうとした。
そんなことは当然この場から逃れるための嘘であるため、加藤の額には三角マークが浮かんでいる。
やっぱりめちゃくちゃ気にしてた……
さっき向こうはもうなんとも思ってないかもと甘えた考えをした俺をぶん殴ってやりたい。
「ちょっと待って加藤。せっかくだから如月に付き添って貰いなよ」
「「ちょっと皆川先輩?!」」
突然の皆川先輩の提案に動揺した俺と加藤は思わず同時に声をあげる。
「仲良くなるきっかけになるかも知れないでしょ?」
皆川先輩はウインクをして親指を立てながらそう言った。
#
気まずい……
俺と加藤は保健室へ向かうため、廊下を歩いていた。
話す内容が思い浮かばないため、お互いずっと無言だ。
「ず、頭痛大丈夫?」
とりあえず、加藤は頭が痛いという設定になっているため、そう切り出した。
「気にしなくて良いよ。もう気づいてるでしょ? あれが嘘ってこと」
俺よりも少し前を歩いていた加藤はそう言うと立ち止まってそう言いながら振り返った。
「少しだけ聞いてもらっても良いかな。私の話」
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