22-皆川先輩はただ者じゃない
「あ、そうだ。これ確認しなくちゃね」
霧島先輩がものすごい勢いで走って行った後、皆川先輩が相談箱を指差してそう言った。
俺は昨日のように中身を確認するのだと思い、相談箱に手をかけて運ぼうとした時、皆川先輩に声をかけられ、忠告された。
「それ重いから手を滑らせて足の指とかに落とさないように気をつけてね」
重い?
木の箱がそんなに重いとは思えない。ましてや中身はただの紙だしな。
先輩のジョークか、ひ弱そうだと俺をからかっただけなのか。
後者だったらへこむなぁ。
とりあえず、相談箱を持ち上げ――られない。
え?
机と一体化しているかのようにびくともしないのだ。
もう一度指に力を入れると、何とか持ち上げることはできた。
できたのだが……
コーティングされ、ツルツルした木の箱の上方の真横を両手で持ってしまったため力が上手く入らない。
ヤバいと思った瞬間にはもう遅かった。
相談箱が置いてあった机の高さは約80cm。
その位置からノンストップで手から滑り落ちた殺人兵器が加速しながら急降下する。
勢いのついた相談箱の狙いはただ一点。
「痛ってぇぇぇぇぇぇぇぇえ!!?」
俺の爪先に直接攻撃が叩き込まれた。
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「大丈夫ですか? 純也さん」
可憐が心配そうに尋ねる。
「大丈夫……」
口ではそう言ったものの内心涙目だ。
上履きの上からだったため怪我はしていないみたいだが、相当痛かった。
タンスの角に小指をぶつけるなんて比じゃないほどの激痛だ。
「やっぱ相談箱変えるべきかな。重すぎるよねこれ」
皆川先輩は重すぎると言いながら相談箱を軽々と持ち、どこか壊れていないか確認している。
「何でそんなに、その相談箱は重いんですか?」
「えっとね、私たちの先輩が盗難防止とか言って遊び半分でおもりを中に入れたんだよ。箱の下半分はおもりだよ?」
馬鹿でしょ!? 誰も得しないでしょそれ!
「よく先輩は軽々持てますね」
「桜は中学で色々部活を転々として、柔道で全国優勝したりしてるのよ。確か陸上でも高跳びと砲丸投げで全国大会上位入賞してたわね。馬鹿力なのはそのせいかも」
俺の質問に須藤先輩が答えてくれた。
額のマークはよく見えなかったが、声に少し元気が戻っている気がする。
というか皆川先輩凄すぎでしょ?!
二足のわらじだけじゃ収まっていない。
三足のいや、もっとわらじを履いているぞこの人は。
そんなことを考えているとタコのように足が何本も生えている先輩を想像してしまい、思わず噴き出しそうになるった。
でもちょっと待てよ、そんなスーパウーマンには心当たりがあるぞ。
「まさか、皆川先輩もしかして青羽中学でしたか?!」
青羽中学は俺の通っていた中学から一番近くにある中学校だ。
スポーツの強豪校として知られ、俺も現役の時は青羽中学校の生徒をライバル視していた。
そんな青羽中学に色々なスポーツで好成績を残す人がいることはかなり噂になっていたのだ。
この辺の中学校で全国大会の上位入賞者がでるのは大ニュースだったし、地元の発行する新聞にも載っていたため、おそらくそれは皆川先輩で間違いないだろう。
皆川先輩に見覚えがあったのはそのせいか。
「如月、私の事知ってるの?」
「知ってるも何も有名人じゃないですか。それに自分も陸上やってたんで知ってますよ。種目は100メートルでしたが」
「100メートル? あっ、『如月』ってどっかで聞いたと思ったら、お前県大会でいきなり2年なのに入賞とかしてなかったか?」
「はい、そうですけど……」
「やっぱり! 加藤が如月は凄いとか、これからまだ速くなるとか格好良いとか言ってからさ。」
「加藤さん……ですか?」
加藤という人に心当たりはなく、誰だか全くわからないが、誉められて嬉しくないわけがない。
思わずにやけそうになってしまう。
「あぁ、まだ言ってなかったな。昨日遥が言ったと思うけど、あとひとり部員がいるって言っただろ? その子が加藤だよ。ちなみに加藤は私の中学の後輩で元陸上部のマネージャーだよ」
「遅れました。すいません」
するとその時、廊下から声が聞こえた。
「噂をすればなんとやらだね。遅かったね加藤」
がらがらと開かれたドアから現れた顔に俺は固まる。
忘れる訳がない、そして間違えるわけがない
そこに立っていたのは入学早々俺に告白をした、そして俺が盛大にやらかした女の子だった。
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