20-事件が起きたら逆に入部を辞退するわけがない
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「な、何ですかこれ」
謎の怪文書がたくさん入った相談箱に動揺したのか可憐は震える声でそう呟いた。
「いつもこんな感じなんですか?」
さすがに不安になり俺も先輩方に尋ねると、先輩方は勢いよく立ち上がりブンブンと風を切る音が聞こえそうな程、高速で首を左右に大きく振りながら否定した。
「い、いつもはこんなんじゃないのよ? もっと普通な相談しか来ないし、切り抜きでなんて来ないから! 今日はたまたまって言うか何て言うか」
「そうそう! だから二人とも引かないでくれ! そして辞めないでくれ!」
どうやら俺達の反応からこの大量の怪文書を見て、入部の辞退を考えていると思ったようだ。
二人の額には真っ赤なムンクの叫びのようなマークが浮かんでいるため、普段からこんなものが送りつけられているわけでは無さそうだな。
とりあえず良かった……いつもこんな感じだったらどうしようかと思ったところだ。
だが、俺は入部を辞退しないとしても可憐はどうだろう。
こんなものを見せられた後じゃ辞退を考えてもおかしくないしな。
「……」
ほら、可憐黙ったまま固まってるし、メンタルが心配――
「面白い展開です! 入部を辞退なんてあり得ません! ですよね純也さん!」
「?! えっ? う、うん」
――なかった。
むしろ超元気だった。
「私、こういう展開をずっと待っていたんです!」
可憐は椅子から立ち上がり、さらに目をキラキラさせながら拳を握ってそう熱く語る。
額には真っ赤な笑顔マークが浮かんでいたのだが、そのマークが一瞬『世界一熱い某テニスプレーヤー』の顔に見えたのは気のせいだろう。
まあ、可憐は入院生活が長かったからな、おそらく人一倍日常に刺激を求めているのかもしれない。
「良かったぁ、これで二人が辞めるって言い出したらどうしようかと思ったぁ」
「良かった、本当に良かった」
須藤先輩と皆川先輩は俺達が入部を辞退しないことに安心したのかヘナヘナと椅子に腰をおろして力の抜けた声を出す。
「これ、イタズラでしょうか。イタズラだったら犯人を探しますか?」
「そうだな。これが続くようなら犯人を探すか先生に相談だな」
「でももし、イタズラじゃなかったら掲示板にアドバイスと一緒に載せなきゃいけないんだけど……これはどうしようかしら」
先輩と可憐がそんな会話をしている時、切り抜きで書かれた相談用紙を一枚手に取ると文字は糊ではなく丸めたマスキングテープで貼られていることに気がついた。
ん? このテープポシェモンのやつだ。
懐かしいな、小学生の頃俺も同じものを使っていたため見覚えがあった。
「あっ、もうこんな時間!」
須藤先輩がそう言い、時計を見ると時刻は7時近く。
夏至が近く、日が長くなっているためまだ明るく、全然気が付かなかった。
「また明日これが入っていたら本格的に対応を考えるか」
皆川先輩の一言でこの日の部活はお開きになり、俺達は入部届けをもらって帰路に着いた。
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「……」
「……」
「……」
次の日、俺は放課後にボランティア部に行くと異様な光景を目の当たりにした。
可憐と須藤先輩と皆川先輩がボランティア部の部室のドアの前に張り付き、みんなガラスの窓から中を食い入るように見つめているのだ。
近づくと可憐が俺に気付き、声をかけてきた。
「純也さん、純也さん! 大変です、部室を見てください」
可憐に言われるまま部室を除くと誰かがいるようだった。
俺達の視線は部室の中にいる一人の人物に集まる。
ん? 誰だあのイケメンは。
清潔感のあるさっぱりとした髪型の美青年が部室の椅子に座りながらスマホを見ているのが見えた。
「純也さんはあの方を知ってますか?」
「いや、知らないな……上履きの色から2年生みたいだけど。須藤先輩と皆川先輩の知り合いですか?」
「いや、私は見たことがないかも」
「……」
皆川先輩は首をふるふると横に振って否定したが、須藤先輩は固まったままフリーズしている。
どうしたんだろうか。
「お二人が知らないとしたら誰なんでしょう。まさか、昨日の怪文書の犯人とかですかね?」
可憐は黙ったまま固まってしまっている須藤先輩が否定しているととらえたのか、興奮した口調で楽しそうにそう話す。
でも、あれ? あのスマホの待ち受け画面、どこかで……
一瞬見えた待ち受け画面の画像には見覚えがあった。
まさか――
「もしかして……霧島先輩?」
「「えっ? えぇぇぇ?!」」
廊下に皆川先輩と可憐の声が重なって響き、須藤先輩は相変わらずフリーズしたままだった。
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