19-力が強い先輩は握手の加減ができない
更新すごく遅れましたが、生きてます。
お待たせしてしまいすいません!
今後は定期的に更新していきたいと思いますのでよろしくお願いします!
「ようこそ、ボランティア部へ!」
ガラガラと須藤先輩が元気よく教室の扉を開ける。
先程まで恥ずかしい出来事が立て続けに起きてテンションが低めだった須藤先輩だったが新入部員を2人確実に獲得できた事もあり、いつもの調子を取り戻してきたようだ。
連れてこられたのは第1棟の1階の教室。
さっきまでいたアグリコラ同好会の……ではなかったのだが、教室のちょうど真下に位置している。
入り口には『ボランティア部』と書かれた看板が立てられていた。
開け放たれた扉の向こうの教室には長机とパイプ椅子な並べられており、部員と思われる生徒が1人だけ座っていた。
「遅かったね遥、そっちの子達は依頼の子?」
座っていた生徒がこちらを振り向き、須藤先輩に声をかけた。
「違うわよ桜、なんと新入部員!」
須藤先輩は今にも踊り出しそうなテンションでそう話す。
余程俺たちの入部が嬉しかったのだろう。
「マジか! それは嬉しいな。流石遥だよ。それにしてもこんな時期によく一年生を捕まえられたな」
「何の部活に入るか迷ってたみたいだから誘ってみたの」
須藤先輩に桜と呼ばれた長身の女性は黒髪のショートヘアで人懐こい笑顔が印象の、いかにもスポーツができそうな感じの人物だった。
上履きの色と砕けた話し方から2年生だとわかる。
でもこの人、どこかで見たような気が……
「はじめましてふたりとも。私は2年1組の皆川桜。このボランティア部の副部長だよ。よろしく!」
皆川先輩はこちらに近づくとそう言って右手をこちらに差し出して来た。
はじめましてって事は俺の勘違いか?
「はじめまして、自分は如月純也です」
俺も自己紹介しながら右手を差し出して握手を――って痛でででででで?!
「痛ってぇぇぇ?!」
その瞬間、とてつもない痛みが右手に走り、思わず叫んでしまった。
なんかボキボキ音がしたんですけど……骨折れてないよな? ないよね?
「え? あぁ、ごめんごめん! 新入部員なんて久しぶりだからな。緊張して少し力んじゃったよ」
嘘だろ!
あなた絶対俺の右手をミンチにする気満々の力で握ってたでしょ!
――なんて言葉にできるわけがなく、俺は冷や汗をダラダラ書きながらただ、「あ、あはは」と愛想笑いを浮かべることしかできなかった。
しかし、「すまんすまん」とカラカラ笑いながら謝ってくる先輩の額には真っ赤な笑顔のマークしか浮かんでいないため本当に緊張していただけのようだ。
どれだけ握力強いんだよ?!
「純也さん、女性と握手をして『痛い』は少し失礼ですよ」
そんな俺に可憐が冷静に突っ込む。
可憐の額には青色の青筋マークが浮かんでいた。
可憐さん、プチおこです。
「う、うん。ソウダネ……」
たしかに失礼かもだけど、本当に痛かったんだもん!
「私は宮崎可憐です。よろしくお願いします」
「よろしく!」
そして可憐も桜先輩と握手をし……
「痛ったぁぁぁぁあい!?」
悲痛の叫びが教室をこだました。
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「ごめんね、桜は力が強いからびっくりさせちゃったよね。馬鹿力だけど、本人に悪気は無いから許してあげて」
あの後しばらくして現在、須藤先輩が皆川先輩をフォローしながら可憐を元気付けていた。
可憐はまだ手が痛むのか涙目で右手をさすっている。
皆川先輩本人はお詫びとして自動販売機で全員分の飲み物を買いに行っている。
「だ、大丈夫です。ちょっとびっくりしただけなので。あと、純也さん。さっきは失礼などと言ってすいませんでした。まさかこれほどまでとは……」
「いやいや、可憐の言ってることは正しいから気にしないで。今回がちょっと特殊なだけだから」
そこでバーンと扉が開き、皆川先輩がペットボトルの飲み物を両手に帰ってきた。
「さっきはふたりとも申し訳なかった! このとーり!」
皆川先輩は床に膝をつき、額を床につけて土下座をしようとしたので俺たちは全力でそれを止めた。
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「こほん。気を取り直してボランティア部の説明をするわね」
須藤先輩はわざとらしく咳払いをするとボランティア部の説明を始めた。
おそらく張り切っているのだろう。
額のマークは真っ赤な笑顔マークだ。
俺たちは先輩たちに促され、空いていたパイプ椅子に腰を下ろしながら話を聞くことになった。
「うちの部活は如月君と宮崎ちゃんのほかに一年生の女の子があと1人いるんだけど今日は用事で来れないみたい。2年は私と桜と霧島の3人だけの小規模な部活よ。その分自由度が高いから、部室はいつでも使えるわ。例えばテスト勉強とかでも」
「本当ですか?!」
ガタンと音を立てて可憐が勢いよく立ち上がった。
よほど嬉しかったみたいだ。
俺も正直めちゃくちゃ嬉しい。
もう人目を気にして図書室で勉強する必要がなくなるのは大きなメリットだ。
「私も桜もテスト勉強はいつもここでしてるから遠慮しないで使ってね」
可憐の反応が良かったからか、須藤先輩も少し興奮した様子で説明を続ける。
「ボランティア部は言ってしまえば何でも屋みたいなところかしら。依頼があれば手伝ったり協力する事が多いわね。その他は学校外のボランティアに参加したり地域の清掃などを請け負っているわ」
なるほど、地域のボランティアに参加するだけじゃなくて依頼とかも受け付けているのか。
少し面白そうだ。
可憐もワクワクしたのか目をキラキラと輝かせている。
「もうすぐ体育祭があるでしょ? その準備とかもボランティア部が請け負っているのよ」
俺たちの通う高校は7月中旬に体育祭がある。
体育祭まであと1ヵ月を切ったところだ。
「なんだか生徒会みたいですね」
可憐がそう呟く。
確かに。生徒会がやってそうな仕事だな。
「うちの学校には風紀委員が無いからその仕事も生徒会で引き受けているのよ。だからこういった活動はうちで引き受けているの」
なるほど、役割分担ってことか。
通りで先輩方が部員を欲しがっていたわけだ。こういう活動には人手が必要だからな。
「最近は相談も受け付けているわよ。普段は直接相談とか依頼を受けてるんだけど、直接は恥ずかしい時は相談箱に相談を書いてもらってそれを解決したり、解決策を提案したりするの。あっ、相談箱って言うのはボランティア部の部室前にある箱の事ね」
さっき教室に入る前に木の箱が置かれてあったが、あれの事か。
「相談用紙は匿名でもOKで、その場合は職員室前の掲示板に相談と返答を掲示してるの」
「せっかくだから今、相談箱の中を見てみるか」
皆川先輩はそう言って立ち上がると相談箱を持って来て長机の上にゴトっと置いた。
大きさは30×30×50cmほどの立方体の木の箱で、ポストのような口が空いている。
よく手入れされているため、頻繁に利用されているのだろう。
運んでいるときにごそごそと音がしていたためかなりの枚数が入っているようだ。
「じゃ、開けるぞ」
皆川先輩が相談箱の裏にある鍵穴に鍵を差し込み、回転させるとカチャリと軽快な音がして箱の蓋が開けられた。
中には――えっ?!
『ともだちがほしい』
と怪文書のような新聞の切り抜きで書かれた相談用紙が大量に入っていた。
次回更新はできるだけ急ぎますので、今後ともよろしくお願いします!