17-マイナーすぎる同好会には人が集まるはずがない
更新が遅れてしまい申し訳ございません。
「あの、他の会員の人は?」
アグリコラ同好会に見学に来た俺と可憐は教室に入り、3つくっつけた机に座っていた。
「他のメンバーは兼部してるから基本は俺一人だよ」
丸いメガネをかけた、いわゆる“オタク”という感じの見た目をした男子の先輩が可憐の質問に答える。
先輩だと分かるのは上履きの色が緑色だからだ。
うちの高校は1年は青、2年は緑、3年は赤と学年色が分かれている。
「じゃあ、たった独りだけでずっとアグリコラをしてるんですか?」
ちょっと可憐。その聞き方は棘があると思うんだが。
「……言っとくが俺はソロだぞ?」
どこかで聞いたなそのセリフ。
「俺はヒトリコラが好きなんだ。 たとえ精神的なダメージでHPが削られて、HP表示がポシェモンみたいに1日2日オレンジになったってどうってことないぞ?」
やっぱり知ってるな、そのセリフ。
ちょっと変えてるけど超有名なあの作品の主人公のセリフを意識してるでしょ。
と言うか、真っ赤だったニコニコマークがオレンジどころか真っ青になってるんですが。
あ、泣きマークに変わった。
「自己紹介が遅れたけど、俺は2年の霧島界人。アグリコラ同好会の会長だよ。皆からは黒の剣士って呼ばれてるから、よかったら名字の始めと名前の終わりを取ってキリt――」
「言わせませんよ!!」
先輩にそれ以上言わせてはいけない気がしてついツッコんでしまった。
「冗談だよ」
ハハハと笑う霧島先輩の額には三角マークが出ていて安心する。
これを本気でやってたら速攻で帰っていたところだ。
「さっそくなんだけど、二人の名前を教えて貰ってもいいかな?」
「私は1年の宮崎可憐です」
「あぁ! 君が噂の宮崎さんか! 通りで美人な訳だ」
「先輩、可憐を見たことなかったんですか?」
可憐はうちの高校以外でもファンクラブができるほどの人気ぶりだ。
正直顔くらいなら見たことがあると思ったのだが……
「まあね、それに俺にはこの娘がいるし」
そう言って差し出された先輩のスマホの待ち受け画面はご注文がうさぎの銀髪のキャラになっていた。
ああ。なんだ、ただのロリコンか。
でも可憐のファンじゃないのは都合が良い。
ファンがいる部活は可憐が入部すればたちまち騒ぎになってしまうからだ。
それに加えて穏便派のファンなら見守るだけだろうが、騒ぎを聞きつけた過激派のファンはその部活に殺到するだろう。
だからマイナーかつ、少なくとも会長はファンではないこの同好会は案外可憐に向いているかもしれない。
「君の名は?」
霧島先輩が俺の方を見てそう言う。
ちょっとさっきからネタが渋滞しすぎて対応できないんですが……
面倒になった俺は考えるのをやめた。
「自分も同じく1年の如月純也です」
「宮崎さんに如月君だね。覚えたよ。じゃあさっそくだけどアグリコラやってみようか」
こうして俺達は初アグリコラをすることになった。
「霧島、あんたまだアグリコラやってんの?」
ちょうどアグリコラのルールを一通り教えて貰った頃、教室に声が響く。
声のした方を見ると教室の入り口に気の強そうな女子生徒が立っていた。
いかにも真面目そうな印象を受ける人だ。
委員長タイプとでも言うのだろうか。
上履きの色と言葉遣いからその人が2年生だとわかる。
「何だよ須藤今ちょうど良い所なのに」
「何回こっちに顔出せっていったらわかるのよ霧島。もうアグリコラ同好会はないんだからさ」
「え、どういうことですか?」
可憐が驚いたような声を上げた。
だが俺はそれ以上に衝撃的すぎて声すら出せなかった。
霧島先輩がアグリコラ同好会の説明をしていた時には額に三角マークは浮かんでおらず、ずっと真っ赤なニコニコマークだったからだ。
マークは一人につき1つずつしか見えないため、一番強い感情しか見えないのかもしれない。
これからはもう少し慎重にならなければいけないな。
「霧島あんた、まさかまだちゃんと説明してなかったの? ごめんね、2人は一年生だよね。私は2年でボランティア部部長の須藤遥。実はアグリコラ同好会は去年の3年生が卒業してからこいつだけになっちゃって今年の4月に部員不足で廃部になっちゃったの」
「でもこの広報にはアグリコラ同好会が載ってるんですけど」
可憐が持っていた広報を机に広げる。
「ああ、それは3月時点の広報だからだね。そのときはまだ同好会としてあったからだと思うよ。でも今はアグリコラ同好会の顧問と、うちの部の顧問が一緒だからアグリコラ同好会はボランティア部に吸収されて霧島もボランティア部なんだよ」
「俺はボランティア部なんかじゃない! 佐藤先生がボランティア部は基本自由だからそこでずっとアグリコラやってて良いって言ってたし!」
「でも名目上ボランティア部なんだから定例会議くらい参加しなさいよ」
「毎回同じ議題しか出ないじゃん。飽きないの?」
「あんたに言われたくないわ!ずっとアグリコラやってばっかで」
ギャーギャー言い争いをしている二人をポカンと俺と可憐は眺めていたが、須藤先輩の額にピンクのハートが浮かんでいる事に気付いた。
あ、そういうことですか。
俺は他人に向ける感情も見ることができるため瞬時に理解する。
おそらくこうして霧島先輩を訪ねるきっかけを作っているのだろう。
でも霧島先輩って二次元オタ+ロリコン疑惑が……
「純也さんどうします?」
「そうだね。一応ボランティア部も見ていく?」
俺がそういった瞬間、須藤先輩が言い争いをやめて目を輝かせて話に食いついてきた。
「来る?! っていうか来て!! うちも部員不足でピンチなの!」
「「は、はい」」
先輩の圧力に負けた俺達はボランティア部にも見学に行くことになった。
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