10-鈍感じゃない俺は言葉の裏の意味がわからない訳がない
荒削りの部分が多いですが、温かい目で読んで頂けると幸いです。
「えぇっ! 神崎、おまえ絶対値の場合分けすらできないのか?!」
優人が驚愕の声を上げる。
放課後、俺達は学校近くの某喫茶店にやってきていた。
各自飲み物や軽い食べ物を注文し、数学の勉強をはじめたのだが――
「え、ぜったいち? 括弧と何が違うの?」
まあ、絶対値の場合分けは苦手にしている人もいるしな。
最初は俺もそう思っていた。
「じゃあ流石にたすき掛けとか田の字型因数分解はわかるよな」
「たすき?」
「じゃあ順列は?」
「??」
「駄目だこりゃ。というわけで純也、香織の事は諦めて俺に国語を教えてくれ」
「諦めるの速すぎだろ」
香織の額にはずっと『?』が浮かんでいる。
本気でわからないようだ。
正直優人の気持ちもわかるがそうするわけにはいかない。
「香織 中学じゃそこまで成績悪くなかったよな。仮にも入試でギリギリとはいえ合格できてるし。」
「中学の頃は絶対にこの高校に行きたいって明確な目標があったから死ぬ気で勉強できたんだけど、達成できたら毎日が楽しくてつい勉強が疎かに……」
香織の額にはいつものハートマークが浮かび上がる。
普通に聞いただけなら何気ない会話でも、感情が見えてしまう俺が聞くと
『死ぬ気で勉強してまで俺と同じ高校へ行きたかった』
と取れてしまう。
自意識過剰っぽくてこういう思考は嫌なのだが、どうしてもそう考えてしまう。
「……それに、授業中後ろから見られていると思ったら授業どころじゃないし」
顔を赤くして香織がポツリと、ほとんど聞こえないほど小さくつぶやいた声も意識してしまっているせいか鮮明に聞こえてしまった。
まだ席替えをしていないため席は出席番号のままだ。
後ろから見られるとは俺のことなのだろう。
思わず顔が赤くなってしまう。
「でも、このままだと本当に夏休みなくなるぞ?具体的な目標が必要なら夏休みの予定とか立てれば良いんじゃないか?」
そう提案する優人が気まずくなった空気を変えてくれた。
優人には助けられてばかりだな。
香織からの好意は正直嬉しいが、香織の事を異性として見るようになったのは最近だ。
何せ今まで家族同然に育ったきたため、すぐには気持ちの整理がつけられないのだ。
これは楓にも言えることで気持ちの整理ができていない。
気持ちを整理してから言葉にできるようにするにはまだ時間がかかる。
だから今はこのままの関係でいたかった。
「そうだな、たとえば海に行くとか」
「海?! 行きたい行きたい!」
「じゃあ補習にならないことだな」
「じゅん! お願いします! これから1週間くらい私にマンツーマン個別指導してください!」
アルプスの少女がどこかで叫んでいる気がした。
「いいけど……」
彼女の迫力に押し切られる形で俺は次の日の放課後から香織に勉強を教えることになった。
鈍感じゃないのに主人公がラブコメやってる理由が伝われば嬉しいです。
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