第1話
影が光に飲まれていく。朝を告げるかのように鳴き出す小鳥たち。
爽やかな空気と共に、今日も新しい一日を迎える。
はっきりしない意識のまま、私はむくりと起き上がった。
…そうだ、今日は任務があるんだ。
布団から這い出て、大きく伸びをする。
ふと、窓を見る。よく晴れている。
まさにハレの日、初任務日和といったところか。
まずはいつも通り洗面台へ向かう。
顔を洗い、金色のセミロングの髪をツインテールにする。バッチリ。
ソファに置いておいた洋服に手を伸ばし、いそいそと着替える。
白いフリルブラウスに、シックな赤いスカート。まあ、普段通りの格好だ。
姿見に映る自分を確認する。
よし、OK。
心の中で呟きながら朝食を取るため部屋の外に出る。
鍵が閉まったことを確認したちょうどその時、隣の部屋から一人の少女が出てきた。
「まあ!おはよう、フレディちゃん」
「おはよ、リーナ」
件の友達、カトリーナである。
リーナというのは私が呼んでいるニックネームみたいなものだ。フレディというのもまた、同じである。
カトリーナとは気の置けない関係であると、少なくとも私は思っている。
こっちの世界に来たばかりの頃も、色々と教えてくれた。
「今日の朝御飯はなんでしょうね♪」
カトリーナはよだれを溢れ出させそうな勢いで目を輝かせている。
「毎朝そればっか言ってるわね」
くすくすと笑いながら、私たちは食堂へ向かう。
さて、今私たちがいるのは、『街』。
途方もなく大きな建物である。
といっても、中には更に建物があったり、自然があったりと、普通に街と言ってもあながち間違いではないだろう。
そもそもとしてこの建物は、私たちのような魔術師を育成したり、特殊な事件などを解決したりする目的で建てられたものだ。
魔術師は小さな歪みを自分で引き起こすことにより様々な力を使う。歪みとは、絶えず揺らめいている空間が、湾曲することにより生まれるものである。謎が多い力で、それらは人間に干渉して精神や肉体に異常を起こさせる。また、自然に干渉して、いわゆる超常現象というものを引き起こす。
これらのことにより大きな事件が起こるかもしれないため、それを食い止める役割を私たちが請け負っているというわけだ。
「ほわあ!いい匂いがしますね…」
食堂にたどり着くと、ますます幸せそうな顔をする。
食いしん坊とまではいかないが、カトリーナは食べることが大好きなようだ。
職員の人から美味しそうな料理の乗ったトレイをもらうと、空いている席に座る。
手を合わせると、お皿に乗せられたトーストに蜂蜜をかけ、ひとかじりする。
うん、美味しい。やっぱり蜂蜜万能。
私が育ったのは某食に絶望した国なのだが、私はグルメなのだ。誰がなんと言おうとグルメなのだ。
料理はあんまりしないのだから多少下手でも問題ない。
実際に東洋の国の先生に食べてもらったけど、意外と美味しかったみたいだし。…あれ、意外とって?
…カトリーナについては、今、笑顔でマーマイトを食べているとだけ言っておこう
「フレディちゃん、この後はすぐ会長室ですよむぐ」
言い終わると同時にサラダを頬張る。せめて読点一つ入るぐらいの間を空けようか…と突っ込みたいのをこらえる。
「会長直々の任務なんて、一体なんなのかしらね。それに何故私たちなのかしら」
「むぐむぐごくん。どうしてでしょうね?私たちは特に目立った功績を挙げたわけではありませんからぱっくんもぐもぐごくん」
「喉に詰まらせないでよね…落ち着いて食べなさいって。私たちはこれが初めての正式な任務なんだから」
「そうですね、楽しみですけど緊張しますぱくぱく」
「…」
私とカトリーナは大体同じ頃に食事を終えて、片付けた。
部屋に戻り簡単な支度を済ませると、再びカトリーナと合流してエレベーターで『街』の最上階まで行く。
エレベーターを降りるとそこには高級そうなソファがたくさん並んでいた。そして前方には扉。あそこが会長室だ。
ノックをすると、どうぞ、とだけ聞こえてくる。
「失礼します!フレデリーカ・オールディスです」
「カトリーナ・ヨークです」
「おや、君たちだったか。もうそんな時間かね。よっと…」
会長の椅子に座っていたのは、ジャージ姿の女性だった。