プロローグ
「………せ、先輩! 好きです!付き合ってください」
目の前の女子から発せられた告白の言葉は、屋上に吹く暖かい風に乗って、俺の耳へと伝わってくる。この言葉を俺は今まで何回言われできたのだろう。
他人から好意を持たれるのは、嫌ではない。むしろ喜ばしいことなのだろう。しかし、他人は他人である。それ以上でもそれ以下でもない。自分が他人と認識してしまった以上、他人から寄せられる好意に応えることはできないのだ。
「すまない。君とは付き合えない」
断る言葉はいつも同じ。
何の変哲も無い冷たい言葉。
「り、理由を聞いてもいいですか? じゃないと私、納得出来ないですっ!」
必死に訴えてくる彼女の頬には、いつの間にか涙が流れていた。
やはり自分の返答が酷かったのだろう。
「好きな人がいるんだ」
この台詞は、もはや決まり文句と化していた。まあ、本当のところは好きな人などいないのだが……。
「だ、誰なんですか?」
「それは言えない」
言えないのではない。いないのである。
「私より可愛いんですか?」
「ああ」
流石にいるはずもない好きな人より、目の前の女子はブスだと断言したこの返事は、今日のワーストナンバーワンだと自分でも感じた。
「私より優しいですか? 」
「ああ」
すまない。まず君が優しいのかさえ分からない。なんせ話したことがないのだから。これまた我ながら酷い返答である。
「っ!それなら早くその子に告白すればいいじゃないですか!学校一イケメンの先輩ならどんな女子でも落とせますよ!」
そ、それは流石に言い過ぎだろう。
いくら俺に好意を持っているからといって褒めすぎだ。告白に失敗した時のリスクがあまりにも大きすぎる。
「それはできない」
「なんなんですか!もういいです!失礼します!!」
バンッとドアを閉める音が屋上に響く。
俺だって早く告白して付き合いたいさ。でも、でも無理なんだ。
だって……なぜなら……………、
「「俺は男しか好きになれないんだぁぁぁぁぁ!! 」」
そうこの俺、悠木拓哉は男でありながら男しか愛せないのである!!!
「あー彼氏欲しい……」
俺の嘆きは風に乗っかって飛んではいかず、周りの空気に溶けていくのであった。