海の星
気がつくと、マキちゃんは星になっていました。
さっきまで、病院のベッドにいたのは覚えています。
ママが手を握ってくれていて、パパが心配そうにママの肩に手を置いていました。まだ小さい弟が、不思議そうにこっちを見ています。
きっとわたしは死んでしまったんだわ、とマキちゃんは思いました。
人は死んだらお星さまになると、聞いたことがありました。
まわりを見ると、赤や青、白や黄色の星たちが、きらきらと輝いています。マキちゃんは、その中にいるのです。
「お前は、誰だい?」
ひときわ大きい赤い星が、マキちゃんにたずねました。
「わたし、マキっていうの。よろしくね」
「ふうん。お前、へんなやつだな。本当に星なのかい?」
「え?」
マキちゃんが自分をよく確かめてみると、たしかに形は星ですが、黒ずんだ青緑色のざらざらした体をしていて、オレンジ色のしみが点々とついています。
「あなた、へんな色だし、少しもきらきらしていないわ」
今度はひときわ明るい、青い星が言いました。
すると、まわりの星たちが口々に言い始めました。
「ほんと、へんな色」
「星じゃないんじゃない?」
「悪魔の子供じゃないの?」
「いや、きっと宇宙怪獣だよ。星を食べてしまうんだ」
「まあ、こわい」
「ここから、出ていってもらおう」
星たちは、天の川の砂をつかんで、マキちゃんに投げつけ始めました。
「出ていけ。出ていけ」
「わるい怪獣をやっつけろ」
逃げ回るマキちゃんに、星たちはさらに砂を投げつけてきます。
「痛い、痛い、やめて。わたしだって、星なのよ」
マキちゃんは隕石のかけらにつまづいて、そのはずみで空から落ちてしまいました。
マキちゃんは、夜の海に落ちました。
夜が明けてまわりを見ると、マキちゃんと同じような星がたくさん集まってきました。
マキちゃんが空の上でひどい目にあった話をすると、いちばん大きい星が言いました。
「間違って、空の上に行ってしまったんだね。君は、星は星でも、海の星になったんだよ」
少し時が流れた春のある日、マキちゃんは海辺に遊びに来たパパとママと弟に出会いました。
「あ、おねえちゃんだ」
ずいぶん大きくなった弟はそう言って、潮だまりからマキちゃんを取り出しました。
パパは言いました。
「それはヒトデだよ。帰してあげなさい」
「だって、おねえちゃんは、お星さまになったんでしょ。うちに連れて帰ろうよ」
こんどはママが言いました。
「おねえちゃんはね、お空のお星さまになったのよ。ヒトデはね、海でしか生きられないの。だから帰してあげなさい」
「熱帯魚屋さんに行こうよ。海水の素があるんだよ」
「だめだめ、世話するのは、どうせママとパパなんでしょ」
弟は、しばらくぐずぐず言っていましたが、パパとママのいうとおり、マキちゃんを潮だまりに帰しました。
「連れて帰ってよ」
そう言いたかったのですが、ヒトデになったマキちゃんは、話をすることができません。
「わたしはね、海のお星さまになったのよ。また遊びに来てね」
マキちゃんは、心の中でそう言って、三人の帰っていくのを見送りました。
泣きだしそうなマキちゃんを、仲間の海の星たちが、そっとなぐさめてくれました。