とある勇者の日常。
初投稿です。至らない部分もあるかと思いますがお手柔らかに...
やぁ、俺は勇者。
名前は多田野凡人、周りの人からはボンドって呼ばれている。
28歳独身、彼女もいない寂しいアラサー男子さ。
仕事はとある国でほんのちょっとだけ特殊な国家公務員をやっている。
給料はそこそこいいけど長期出張も多いから、職場に女性職員もそれなりにいるけど結婚とかは考えられないかな。
職場の雰囲気?
どうだろう、和気藹々としているわけじゃないけどチームの仲は悪くないよ。
むしろみんなお互いを信頼しているし優秀なスタッフも多いからかな、他部署と比べても業績はいい方だね。
え?俺の立場?肩書き?ハハ、そんな立派なもんじゃないよ。
確かに最近昇進してチームを任せてもらえるようになったけど、まだまだ小さな部署だしね。
仕事内容は詳しく言えないんだ、ごめんね?まぁ、言うなれば調べる系のお仕事かな。
探偵?ハハハ、まぁ似たようなもんだよ、うん、そんな感じさ。
勇者なのにって?そうなんだよ、聞いてくれる?前の職場で上司に嫌われちゃってさー…
*
ひとしきり横についてくれた女の子と他愛もない話をしつつお酒を飲んだ俺は、『サキュバティック・ナイト』と書かれた店名と女の子の名前を忘れないように記憶に留めながら、ほろ酔い気分でさきほどまで接客してくれた女の子、確か名前はレミちゃんだ、に見送られながら店を出る。うん、なかなかに可愛かった。
もうすぐ夏のこの時期とはいえ、夜はまだ肌寒くて涼しい風が心地よい。
最近は慣れない仕事ばかりでストレスになっていたからいい息抜きができた。
気分もいいので鼻歌まじりに酒屋が並んでいる歓楽街を歩いていると背後に気配を感じる。
「ボンド隊長、プライベート中にすみません」
声をかけられて振り返るとそこにはスラッとした高身長に派手ではないが見てわかる上等な黒スーツにソフト帽、夜ということもあって顔は分かりづらいがそれでもイケメンなオーラを隠しきれていない若い男がいた。
すれ違う女性がチラチラと視線を送っているのが分かる。
「おうジェリク、お疲れさん。こんな所でどうした?」
俺のことを隊長と呼ぶこのイケメンは、今の職場の直属の部下であるジェリクだ。
23歳と若いながらも仕事をそつなくこなし、優しい人柄で同僚や女性からの人気が無駄に高いハイスペックイケメンだ。
こいつを見る度にどうしても自分の容姿と見比べてしまいテンションが下がってしまう。
自分のちっぽけな自尊心と妬みから度々上司特権という名目で無茶な仕事を押し付けて嫌がらせをするが、根っからのイイ奴なので嫌な顔一つせずに引き受けてくれる。
挙句、期待以上の成果を持ってきては驕ることなく、「これもボンド隊長に任せていただけたお陰です」とか言って報告してくるのだ、同僚からのお株も上がるというものである。
とにかく、本当にムカつくデキる部下なのだ。
「さきほど特務案件一〇七についてナイツより報告がありまして、至急お伝えすべきかと思いまして」
ナイツというのは同じ部署の同僚だ。
特務案件一〇七は彼がメインで動いているとある商人と麻薬密売組織の関係性を洗う調査任務で、現在は調査対象の24時間監視業務についているハズだ。
昼間に受けた定時報告ではまだ調査対象が組織と接触する予定はなかったはずだが、わざわざジェリクを通して俺の業務時間外に連絡を入れてくるということは動きがあったか。
俺たちは人目を避けるように路地に入りながら小言で話を進める。
「そうか、動きがあったか?」
「はい、組織の者らしき人物と接触があり明日の〇三〇〇時に取引が行われる、と」
「あと数時間後か・・・それはまた急だな。よし、ナイツに合流する。場所は?」
「埠頭の倉庫街です。商人の所有する13番か21番倉庫だろうとのことでした」
「あー、あの辺りか。敵の規模はどのくらいになるか分かるか?」
「30人前後の護衛が警戒にあたっていると」
「把握した。サーシャのチームを応援に呼べ、B装備で緊急招集をかけろ」
火急の用件なので手短に指示を出し、耳につけた通信機からサーシャ隊への応援要請を終えたジェリクと倉庫街へ向かう。
せっかくのほろ酔い気分はどこかに吹き飛び俺は仕事モードに入っていた。
給料分以上の仕事だよなぁこれと部下の前でボヤキそうになるのを堪えながら。
「さぁてジェリク君、今夜の敵は楽しめそうかね?」
「どうでしょうね。勇者ボンドの前では何人いても変わらないかと思いますが」
俺の名前は多田野凡人。
日本から異世界に召喚され勇者ボンドとして活躍していたが現在は魔王軍情報局に所属する。
人間ながら魔王軍に仕える諜報機関の人間だ。