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アネモネ

作者: 柑菜

私、(あん)には、付き合ってもうすぐ半年になる"(ふじ)くん"という彼氏がいる。


そして、私の友達、"(おき)くん"。


熾くんはとても良い友達で、今も私の話を聞いてもらっている。


「最近、藤とどう?順調にいってる?」


「順調……。うーん、いつも通りかな。」


「うわ、出たよ。幸せそうだな、ほんと。」


"いいなぁー、羨ましいよ。"


笑顔を見せながら熾はこう言う。


……確かに、幸せで、いつも通りなんだけど。


前と少し、藤くんが変わったと言うか、なんと言うか。


連絡もこの前よりかは頻繁じゃなくなったし、連絡してもすぐに途絶えるし。


いつも通り喋ってくれるんだけど、少し冷たくなったような。


まあ、慣れてきたって言えば、それまでなんだけど。


「なにか、あったのか?」


熾が心配そうに私に尋ね、


「もうこの際にさ、思ってること全部、俺に言ってみ?」


"全部聞くよ" と付け加えて熾が言う。


……ほんと、今までこんなに私のこと真剣に聞いてくれる人初めてだなぁ。


そんな事を思うと、私の目からは、不思議と涙が溢れてきた。


「え、ちょ、どした?そんなに辛いか?」


熾が心配そうな顔つきで私の顔を覗き込む。


「ううん……なんでもないよ。」


少しの間、私の涙が止まることはなかった。



「……ありがと。」


私が涙を袖口で拭ってお礼を言う。


あれから熾には、色々な話を聞いてもらったり、アドバイスを貰ったりした。


「おう!どーってことないよ!」


"この熾に任しとけ!"


そう言って微笑む。


「あ、後でちゃんと目は冷やしとけよ?」


「……へ?」


私は自分の目元に手をやる。


「今、凄い目が腫れてるし……赤いから。」


「そっか、そーする。」


そんな事を話していると、私の背後から、


「杏、熾。2人でなにしてんの?」


……これは藤くんの声だ。


私は藤くんの方へと振り返る。


そうするのと同時に、"私の目が腫れていて赤い"ということを思い出した。


あ、これはまずいかもしれない。


そう思った時には、遅かった。


私のことを見た藤くんは、


「おい、熾……?こいつに何をした?」


と、"真顔"で私のことを指差して熾に問いただす。


いや、周囲の人には真顔に見えるだろうが、私にはわかる。


……凄い怒ってる。今までに無いくらいに。


そして、藤くんの足は一歩ずつ、小さくだが熾に向かって行く。


絶対に藤くんは何かを勘違いしている。


……このままでは藤くんも熾も危ない。


そう思った私は、


「ま、待って……!」


そう言い放ち、藤くんの袖の裾を引っ張った。


「ち、違うの……っ!」


「どこが?どう違うの?」


そう藤くんは冷淡な声で問い、私を見つめる。


「それは……その。」


私は一瞬、熾くんを見る。


熾くんは私を見つめていた。


「ほら理由、言えないんでしょ?なら違わないじゃん。」


"こんな目にしてさ。"


そう言って藤くんは私の頬を優しく撫でる。


「でも違うって、言ってるじゃん……。」


私の目は自然と涙で溢れていた。


「え……?ちょっ。」


いきなりのことに藤くんは驚いた顔をして、私の頬から手を離した。


「ごめん、泣くなって。俺が言いすぎた。な?」


「もういいし……藤くんなんて知らない。」


流れた涙もそのままにし、私は藤くんに背を向け、その場から走り去った。


「おい、杏!」


咄嗟に伸ばされた藤くんの手は、数センチ私に届かなかった。




--杏が去ったあと、俺はどうすればいいのかわからず、呆然とその場に立ち尽くしていた。


「なあ、熾。俺はどうするべきだったんだ……?」


俺は目の前にいる熾にそう尋ねる。


「とりあえず、今は一旦帰ったらどうだ?」


"それから落ち着いてゆっくり考えなよ"


熾はそう答えると俺にしっかりと向き合い、


「次、杏と会ったら、しっかり謝って、話を聞いてあげて。」


そう投げかけた。


「ああ、そうだな。俺も言いすぎたし……。」


確かに、俺はあの時、誤解していた。


てっきり熾が杏を泣かしたのかと思っていた。


「なあ、熾。悪かった。」


そう熾に告げると


「俺にはいいからさ、杏に言ってあげなよ。」


そう言われ、勢いよく背中を叩かれる。


「いってぇ!何すんだよ……。」


「……藤、次は杏の手を握れよ。しっかりな。」


「おう、当たり前だろ?」


そう言い俺は微笑むと、熾も同じ様に微笑む。


「じゃ、俺はそろそろ行くよ。じゃぁな、藤。」


……俺も一回、頭冷やすか。


「ああ、じゃぁな。」


そして俺たちは手を振って別れた。




--藤と別れてから数十分後に杏から電話が来た。


いつも会ってる場所に来てほしい、と。


俺は、その言葉通りに、杏が待ってるであろう場所へ向かう。


俺が着くと、既に杏は待っていた。


「熾、いきなりごめんね。」


「大丈夫だよ。それで?どうしたの?」


……おそらく、さっきの出来事のことだろうが。


「あのね、さっきの事なんだけど……。」


やっぱり。


「私、藤くんになんて言おう……。」


「なんて……か。そうだな、杏は藤と、どうしたいの?」


「……え?」


俺は真剣な顔つきで彼女にそう放つ。


「どう、と言うかさ。杏は、藤と別れたい?それともまだ繋がっていたい?」


「そ、それは……」


俺は杏の目を静かに見つめる。


「い、嫌だ。別れるのは。」


うん、杏ならそう言うと思ってた。


「ならそれをちゃんと思って、藤に謝らないと!……な?」


「うん、そっか。そうだよね、ありがと。」


「じゃ、今から行っておいで。」


俺は携帯を取り出し、時間を確認する。


同じように彼女が腕時計に目を落とす。


時刻は午後の3時あたりを指していた。


「熾、ほんとありがと。私、行ってくるね!」


「うん!上手いこといきますように!杏なら大丈夫だよ!」


そういいながら俺は杏に向かって手を振る。


「……頑張れよ。」


そう俺が呟くように放った一言は、彼女に届かず、宙を舞った。




--熾と別れて私は、謝ると言っておきながら、まだ1人でいた。


行く当てもなく、ふらふらと思うがままに歩く。


すると自然に、足は歩き慣れた道を行く。


そして、いつも藤くんと会う場所に着いた。


……あんなこと言っちゃったけど、会いたいな。


と思って1つ、ため息をつく。


すると遠くから藤くんらしき人がこっちに駆け寄ってくるのが見えた。


いやいや、こんなところに藤くんがいるわけない。


きっと私の思い違い。そう思っていると


「杏……っ!」


え……?


「な、なんで。」


さっきまで会いたい、と思っていた人が目の前にいる。


「なんで、ここに居るの?」


私はそれが1番不思議だ。


「そりゃ、俺の彼女がここに居るっていう気がしたから。」


藤くんはそう言って微笑む。


「ほんと、藤くんには敵わないな……。」


"あはは"と私は自然と笑みがこぼれた。


「なあ……さっきは悪かった。」


俺はそう真剣な表情で私に謝る。


「私こそ、ごめんなさい。」


そう言った途端、藤くんは私をぎゅっと抱きしめる。


「……ありがとな。」


「うん。」


それに応えるように藤くんの背中に私の腕を回した。



……何分間、彼らは抱きしめあっていたのだろう。


もしかしたら、1分も無かったのかもしれない。


だが、それは2人にとってはとても長く、幸せな時間だったのであろう。


そして、どっちからともなく離れると、2人とも自然と微笑みあう。


「……帰ろっか。」


そう言って藤は杏に手を伸ばす。


「そうだね。」


杏は藤の手の上に、自分の手を重ねる。


その後、2人とも、お互いの手をしっかりと握りしめる。


この握った手を離さないように。




アネモネの花言葉「恋の苦しみ」

フジの花言葉「決して離れない」

オキナグサの花言葉「告げられぬ恋」

アンスリウムの花言葉「恋に(もだ)える心」


杏はアンスリウムの「アン」から、

熾はオキナグサの「オキ」から取りました。


恋人同士の杏と藤。

実は杏に片思いをしている熾。

だから杏の話は親身になって聞くし、心配もする熾。

でもそんな熾の思いには気付かない杏。


そんな藤⇔杏←熾の物語でした。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  よく耳にするシチュエーションです。 [一言]  私なら耐えられなくて、離れていってしまいそうです。
2016/05/04 10:58 退会済み
管理
[良い点] 熾くんがせつなくて良い味を出してます。 最後の花言葉が答え合わせのようで、得心のいくお話でした。 杏の無神経さはありえそうな残酷さですね。 女性は友達認定した男子を異性としてカウントし…
2016/05/03 19:49 退会済み
管理
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