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仙人とUMA

「こりゃあ!お前、何をしておる!」


耳許でデカい声で叫ばれて、俺は心地よい眠りから強制的に浮上させられた。


「んあ?」


重たい目を擦りながら顔を向けると、そこには白ひげを地面すれすれまで垂らした小さなじいさんが立っていた。

じいさんは手に持った古めかしい木の杖を振り回し、顔を真っ赤にして怒っている。


「ここは儂の桃源郷じゃぞ!勝手に入りよって……あああああ!」


喚き散らしていたじいさんが、更に大声をあげた。

どんだけ声出るんだよ。

耳がキーンてなるわ。


「わ、儂の、儂の桃ーーーーーーーーー!」


すっかりまんの食べ尽くされた木を見て、じいさんは目をかっ開き、顎が外れんばかりに大口を開けて叫んだ。


「あ、これじいさんの桃だったの?ごめんな、腹減ってて食べちった」


「なんとっ!全部かっ!」


「いや、十個くらいだったと思うけど……」


木にはもっと沢山桃まんが生っていたはずだが、見れば全て無くなっている。


「あれ?」


桃の木を振り仰いだ俺の視界の隅に、巨大な影がうつった。


「え……」


首を巡らせると、そこには白銀に光る鱗を持つ、見上げるほどの巨体のドラゴンが鎮座していた。

マンガとかに出てくる、西洋系のドラゴンといえばいいのだろうか。

そいつはずんぐりとした腹を満足気にポンポンと叩きながら、長い首をゆらゆらと揺らしている。

俺と目が合ったそいつはググッと首をこちらに向けると、凶悪な牙が生えた口をグワッと開いた。


「うおえあああああああ?!」


「キュウ!」


「え?」


この鳴き声……さっきのトカゲ?

よく見てみれば、クリクリと赤く輝く瞳は先ほどの小さな白トカゲと同じだ。


「いやいやいや、いくらなんでも……」


手のひらサイズのトカゲが一軒家レベルのドラゴンになるとか、なんの冗談だよ。

ってそもそも。

ドラゴン?


「ユーマアアアアア?!」


未確認生物か?

何なんだよこれ!

森で目を覚ましてから、巨大イノシシに木になる桃まんやらドラゴンやら変なことばっかりおきやがる。

まるで日本どころか地球じゃないみたいだ。


……地球じゃない?


自分の考えに、俺の背中を冷や汗が伝った。

俺はギギギと首をじいさんに向け、口を開いた。


「つかぬ事をお伺い致しますが……ここは、どこでしょう?」


じいさんは訝し気な表情をしながらも俺の問いかけに答えてくれた。


「なんじゃ、迷子か?ここはアルストガルド大陸の南東、サムズ王国ギブリス山にある儂の桃園じゃ」


「ごめん、なんて?」


「じゃから、アルストガルド大陸の……」


「アルストガルド大陸……?」


わーたしのーの記憶ーが確かならば〜。

地球にはアルストガルド大陸なんてモノは存在しません。本当にありがとうございます。


「異世界ってやつですか……?なんで?」


俺は襲い来る絶望に、思わず膝を着いた。


「異世界じゃと?……ふむ。お主、もしや迷い人か。なれば儂の結界を通り抜けたのも納得じゃ」


「迷い人……?」


俺はわけ知り顔のじいさんに、縋るような目を向けた。

俺の視線を受けたじいさんは、ヒゲをしゅるりと撫でて口を開いた。


「お主、違う世界から来たのじゃろ?時々おるのよな、そういう者が」


「俺のいた世界は、地球というんだ。地球の日本という国の、東京って街に住んでるんだ。なあ、どうやったら帰れるんだ?目が覚めたらいきなり森にいたんだ。訳がわかんねえよ……」


理解できない現実に、頭が混乱してグルグルする。

そんな俺を落ち着かせるように、元白トカゲが顔を擦り寄せてきた。

ひと抱えもある顔に擦り寄られ、体が傾ぐ。

しかし俺は元白トカゲの頭をギュッと抱きしめた。


「ギブリスの仙人と呼ばれる儂にも帰り方はわからん。迷い人自体、ごく稀に現れると聞いたことはあったが、実際に会ったのはお主が初めてじゃからな」


「そんな……」


最悪だ。

外国に拉致されるのよりはるかに最悪の事態だ。

どうやって帰ったらいいのかすらわからないんだから。


「ふむ。そうさな、儂の師でもあるコンロー山のマーニャン仙人なら知っているやもしれん。師匠は創造神とお話できるからのう」


「マジか!そこに行くにはどうすればいいんだ?!」


勢いこんで詰め寄る俺に、じいさんは可哀想なものを見る目をよこした。


「コンロー山は、世界の果てにあると言われておる。じゃが……コンロー山自体が動いていて、どこにあるのかは誰にもわからんのじゃよ。もちろん儂にも」


「山が……動く?」


「雲の上に乗って空を飛んでいることもあれば、地下深く潜っていることもある。突然目の前に現れたと思ったら次の瞬間には消えている。山とは言っても、コンロー山はそういう場所なのじゃ」


「じゃあ、行くのは無理だと……」


俺の顔が再び絶望に彩られた。


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