なにこの桃まん超ウマイ
だぱーーーーーーーーん!
ものすごく幸運なことに、俺はフライハイした後、湖に着水していた。
湖から這い上がって、落ちてきた崖を見上げると、二十メートルくらいの高さはありそうだ。
本当に本当に幸運でした……
神様、ありがとう……
イノシシからも逃れられ、崖から落ちたのに命も助かった。
ビショビショだけどなんかもう感無量だ。
安心感からじんわり涙が浮かんできた。
「キュウ」
「慰めてくれるのか、ありがとな」
トカゲがペロペロと俺の頬を舐めてくれた。
逃げるときに無意識のうちに掴んだまま連れてきてしまったらしい。
少し気持ちが落ち着いた。
へたり込んだまま周囲を改めて見回すと、見渡す限り花畑が広がっている。
取り敢えず、見える範囲に危ない動物はいなさそうだ。イノシシとか。
花畑にはところどころに背の高い木があり、たわわに桃のような実をつけている。
腹減ったな……
そういえば昨日の夜からなんも食べてねーや。
まあ、昨日なのかどうかもわかんないけど。
時計がないので正確な時間はわからないが、体感では昼くらいだろうか。
俺はフラフラと木に向かって歩いて行った。
体に張り付いたスエットが気持ち悪いが、着替えもないから仕方ない。
木に辿り着いた俺は、スエットを脱いで木の枝に引っ掛けた。
今は春で暖かいし、その内乾くだろ。
パンツ一丁になった俺は木の実をひとつもいだ。
さすがにパンツは脱ぎたくなかったのだ。
だって生尻に土とか虫とかイヤじゃん。
木の実は見た目はまんま桃だった。
しかし何故か……温かかった。
持った感触はふんわりもちもちとしていて、これはどう見ても……
「桃まんだな」
何故桃まんが、木に?
桃まんのなる木?
何コレなんなの本当に。
桃まんを二つに割ってみると、ほわっと湯気が立ち上る。
もちもちの生地の中には美味しそうなあんこがぎっしりだ。しかも俺の好きなつぶあん。
超美味しそうなんですけど。
でも超怪しいんですけど。
木になっている桃まんなんて怪しさが爆発している。
しかし、地面に落ちている桃まんと木に生っている桃まんのどちらが食べたいかと言ったら、生っている桃まんだろう。
主に衛生面において。
後から考えると、この時の俺はどう考えても錯乱していたと思うが、後の祭りである。
俺はいい匂いのする桃まんに、がぶりと大口でかぶりついたのだった。
「超!う、ま、い……!」
今まで食べた桃まんの中で一番美味い。
ふんわりもちもちの生地にはほんのり塩味が効いていて、あんこの甘さを中和している。
しかしあんこ自体も甘すぎることはなくあっさりとしていて、いくらでも食べられそうだ。
「キュウ!」
トカゲの声に顔を向けると、肩の上でトカゲが羨ましそうに桃まんを見ていた。
「おう、お前も食べたかったのか。ほら」
桃まんを千切ってトカゲに渡すと、トカゲは夢中で桃まんにかぶりついた。
トカゲって桃まん食べるんだな。
まあ、美味いしな。
桃まんを十個ほど食べたところで満腹になって、ゴロリと草の上に転がった。
冗談抜きでこの世で一番美味い桃まんだと思う。
コンビニでしか食べたことないけど。
満腹になった俺は急速に眠くなり、そのままうとうとし始めた。
うーん、寝てる場合じゃないのに。
寝てる場合じゃ……ぐー。