なんということでしょう
「痛えな!なにすんだジジイ!」
俺はガバリと起き上がると抗議の声を上げた。
ジジイは俺を睨み据えると、無言で背中側を指し示した。
「あー……」
そこには全体的に大きく傾いた小屋があった。
あれー?小屋には当ててないはずなんだけど。
なんでかな。
よく見ると、俺の放った光線で抉れた地面に出来たクレーターに引き摺られるように小屋の建っていた地面が崩れていた。
「地面がちょっぴりなくなっちゃったから、小屋が傾いたんだな。なるほど、なるほど」
「なるほどじゃないわ、バカモンがーー!」
うむうむ頷く俺の後頭部に、ジジイの棍棒……じゃない、杖が炸裂する。
じいさん、その杖必要なくない?ファッション杖なの?
「ごめんって!わざとじゃないんだ。悪かったよ」
俺は頭を掻きながら謝った。
思ったより出力が出過ぎてしまった。建物やキューは避けたのにな。
「全く……そういえばキューはどこじゃ。神龍があれくらいでどうにかなるとは思えんが……キュー!」
「そうだった!おーい、キュー?!」
大声で呼び掛けた瞬間、太陽の光が遮られ、俺たちを大きな影が覆った。
「キューーゥ」
巨大なドラゴンがゆっくりと下降してくる。キューは地面近くまで来てから淡い光に包まれ、光が収まると人間姿に変身していた。
「キュー、ごめんな。当たらなかったか?」
俺がキューの頭を撫でると、キューは嬉しそうに笑って俺の手に擦りつくようにした。
「だいじょぶー」
くーっ!愛いやつめっ!
あまりの可愛さに、キューの頭をクシャクシャになるほど撫でてやった。
キューはくすぐったーい、と言いながらキャッキャしている。
「ああ、可愛いかった。そろそろ飯にしようぜ、じいさん」
「まずは家を直すのが先じゃい!全く……」
じいさんがぶちぶち言いながら小屋の方に歩いて行くのに、俺もキューを連れてついていった。
「おい、ヒロキ。ちょっとこの家を持ち上げとけ」
「おう」
じいさんはクレーターの真ん中に立って杖を構え、俺に指示をした。
俺がひょいと片手で小屋を持ち上げると、じいさんはなにやらモゴモゴと呪文らしきものを唱え出す。
「ほんにゃらほにゃほにゃ……土の精霊よ我に力を貸したまえ……」
じいさんの体が淡く土色に光り出す。
土魔法?ていうか土色って大丈夫?
じいさんの顔、土色だけど。
死ぬの?
俺が固唾を飲んで見守っていると、抉れていた地面がモコモコと盛り上がり、もとの形に戻っていく。
「おおお!すっげーな、じいさん!仙人みたいだぜ!」
「間違いなく仙人じゃ。よし、小屋を置け」
俺は持ち上げていた小屋をドシーンと置いた。
なんということでしょう!傾いていたお家があっという間にもとの姿に!
魔法って、本当にいいものですね!
じいさんは額に浮かんでいた汗を拭うと、こちらの方に歩いてくる。
そこで俺はある事に気付いてしまった。
ていうか……
「あんな魔法使えるなら、裏の畑って俺が耕さなくてもよくね?」
じいさんはギクウッと肩を震わせたあと、ギギギと音がしそうな動作で俺の方に振り向いた。
「…………修行じゃ」
「なんだその間。絶対嫌がらせだろ!」
「そそそそそんな訳あるかっ修行じゃ修行!ほれ、飯にするぞ!」
じいさんはそそくさと小屋の中に入っていった。
このクソジジイ……