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目覚めたら、異世界

「うっ……いってえ……」


 身体中がズキズキ痛む。

 なんとか身体を起こそうとして、自分の転がっている地面の感触に違和感を覚えた。


 地面……?


 俺は昨夜もベッドで寝たはずだ。その証拠に寝巻きにしているスエットを着ているし、足だって裸足だ。

 今までに酔っ払って道で寝入ってしまったことなどないし、第一、俺は未成年だ。

 酒を飲んだことがないとは言わないが、ベロベロに酔っ払って道で転がるなんて失態は犯さない。

 親父の酒をチョロっと拝借して、部屋でちびりと舐めてみたことがあるくらいだ。


 俺が転がっていたのは、ところどころ土が露出し、落ち葉が降り積もった地面。

 ほんのり湿っていて、冷たい土の感触にここが自分の部屋ではないことを思い知らされた。


「森……?えええ?」


 目の前には深い森が広がっていた。

 生い茂る枝葉の間からほんのり光が入ってきているので、今は昼間なのだろう。

 かなり薄暗いが、周りが見えないほどではない。

 小動物らしき足音や鳥の声が聞こえるだけで、人影は見当たらない。


 思わず手を握りしめると、地面に降り積もった落ち葉からガサリと音がした。


 辺りを見回しても、視界いっぱいまで木ばっかり。


「どこだよ、ここ……」


 すっげえ怖え。

 寝てる間に拉致でもされたのか?

 なんのために?

 俺は平凡なただの高校生で、うちは単なるサラリーマン家庭だし金なんかない。

 俺を攫っても良いことなんてひとつも無いはずだ。


 北○鮮……?

 拉致で有名な近くの国の名前が浮かんだが、日本海側ではあることだろうが俺が住んでいた東京でそんな話は聞いたことが無かった。

 第一、攫ったにしても森に転がしておくなんて、リスクの割に意味がない。


 グワアオオオオオオオオオオ!


 落ち葉を掴んだまま固まっていると、突然森から動物のデカい鳴き声が響き、俺はビックウ!と震え上がった。


 恐る恐る声のした方に振り返る。


「なんだ、トカゲか……ビックリさせやがって」


 そこには、小さなトカゲが立っていた。

 手のひらに乗るくらいの白くて美しいトカゲだ。立っているし、一丁前に背ビレのようなものもあるが、トカゲの種類なんてよく知らないので、珍しい形のトカゲだなあとしか思わなかった。

 トカゲは俺を見て一瞬固まったが、俺が動けないでいると小さな頭をピョコンと傾けた。


 おお、可愛い……。

 もともと爬虫類は嫌いじゃ無いが、このトカゲはまた別格に可愛い気がする。

 白い鱗で全身がキラキラと輝いているし、クリクリしたつぶらな瞳は赤くて宝石のようだ。


「おいで、おいで」


 俺は魅入られたようにトカゲに手を伸ばし、手のひらを上に向けて来い来いと動かした。


 トカゲは俺の手に驚いたのか、一瞬ビクッとすくんだが、恐る恐るといった様子で少し近づいてきた。


 赤い舌が俺の指先をチロリと舐めて、くすぐったい。


「はは、可愛い……」


 俺は自分の置かれた状況も忘れて、手に乗ってきたトカゲを撫でた。


 カプリ


 トカゲが俺の手を甘噛みした。少しだけチクっとしたが、すでに全身が痛いところだらけなので気にならない。


 よく見ると、俺の全身は擦り傷だらけだった。この痛み具合からして打ち身もありそうだ。

 怪我なんてした覚えもないのに、なんなんだ。

  こりゃ相当乱暴に運ばれたのか?

 ったく……


 俺が顔をしかめていたからか、いつの間にかトカゲが怪我しているところを舐めてくれていた。

 そのせいか、なんとなく痛みが和らいでいるような気がする。

 気のせいだろうけど。


「はは、ありがとな……」


 トカゲの頭をチョンチョンと撫でると、気持ちよさそうに目を瞑る。


「こんなに可愛いのに、すげえ凶悪な鳴き声なんだな、お前……」


 この小さな体からあんな馬鹿でかい声が出るなんて……と思っていると。


 グワアオオオオオオオオオオオ!


 先ほどよりずっと近くから、デカい声がした。

 俺は再びフリーズし、嫌がる首を無理矢理声のした方に向ける。


 グワアオオオオオオオオオオオオオオオオ!


「っあーーーーーーーー!うあああああいいああ!!」


 俺から十メートル程離れた木々の切れ間に、見た事もないほどデカいイノシシがいた。

 そいつと目が合った瞬間、俺はヤツとは反対方向に向かって人生で最高のスプリントスタートを決めた。

 オリンピック選手でも今の俺には勝てないに違いない。

 文字通り必死だ。必ず死ぬ。

 いや待って!死にたくない!


 イノシシなんて動物園でしか見たことないんだけど!

 なんなの?!

 なんでツノ生えてるの?!

 牙とか超デカいんですけど!

 イノシシってこんな、見上げるほどデカい生き物だったっけ?!


「いーーやああああーーーーーーーー!」


 くっそ!走りにくい!

 森の中を走ってことなんてないから当たり前だが、突然ボコっと出ている根っこや顔を打つ枝が邪魔すぎる。


 たが俺は走った。

 何処へ向かってるのかなんて全くわからないが、ひたすらに走り続けた。

 今なら世界新を出せる自信がある。

 ……嘘ですごめんなさい。


 うおお、まさに今、俺は風になっている!

 まるで空まで駆け上がれそうだぜ!

 その証拠に、足が空を蹴って……空?


「っていやああああああああああ!」


 突然視界が開けたと思ったら、俺は崖からノンブレーキでフライハイしていた。



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