第八十二話 護衛と出費(2017.12.4修正)
ロゼの制服の件も無事にゴンドリアに引継ぎが終わり、俺は引き篭もり生活に入ろうとしていた。
しかし、どうやら世界は俺に引き篭もる事を許してはくれないらしい。
「なぁ…なんで俺が荷物持ちしてるの?ゴンドリアも無限収納鞄持ってるんだからそれに入れろよ」
「あら、いいじゃない。両手に花よ。暇なんだから付いてきなさいよ」
「ふざけんな!俺は引き篭もりたかったんだよ!!」
「無理言ってすみません…」
ロゼが申し訳なさそうにそう言ってくる。
制服の打ち合わせが終わった翌日、俺はゴンドリアに拉致されて昨日の女子(?)4人組と一緒に買い物に出かけている。
何故か荷物持ちとして…
俺は無限収納鞄に4人分の荷物を入れるトランクケースかこの野郎。
つーかさ、お前早くロゼの制服作れや。
「服はあたしがこさえるから良いけど日用品はどうにもならないじゃない。それに護衛役が必要なのよ。こんな可憐な花が4人も揃ってるんですから」
「お前は護衛必要ないだろ!!っていうかお前俺よりも物理的に強いじゃねーか!!」
「ぁあん?なんか言った?」
「イエナニモイッテマセン」
理不尽だ。理不尽だ!こんなの絶対に間違ってる!!
ロゼとエルストライエ侯爵に護衛が必要なのは理解できる、だがお前とユーリに護衛必要ないだろうが!!
それにユーリの格好を見てみろ!誰が好き好んで近づくんだよ!!
なんでスイートロリータファッションなの?ねぇ!?
「それに女の子の楽しみといったらショッピングでしょうが!」
「知るかボケェ!!」
お前は女の子じゃねーだろうが!
自分で唯の女装家で中身は完全に男って言っているくせに矛盾してるだろ!
「セボリー君諦めなさい。そうやって男は成長していくものよ」
「世の中はそれを不公平と言うんですよ…」
エルストライエ侯爵もきっと旦那さんをこうやってこき使ってるんだろうな…
だって慣れてるもん。
溜息を吐きながら諦めつつも歩いているうちに、ふとある疑問が浮かんできた。
「そういえばロゼって何処に泊まってるんだ?まだ寮には入ってないんだろ?」
「本当は聖堂に止めてもらう予定だったんですけど、おばあ様の家に泊まってます」
「へ?態々エルストライエ侯爵領に移転陣で移動してるのか?」
俺がそう質問するとエルストライエ侯爵が笑いながら口を開く。
「違うわ。学園都市に別荘があるのよ」
「成る程。じゃあそこから学園に通うのか?」
「いいえ、寮に入りますよ。そのほうが友達も出来やすそうですし」
「しっかし、別荘かぁ。手入れ大変そうだな…」
シエルの家の別邸も見て思ったが色々大変そうだ。
そう思いつつ歩いているとまた4人のアンテナに引っかかる店があったらしい、引き寄せられるように店に入っていく。
「これ可愛い!あー、欲しいものがたくさんあって困ります!早く迷宮に入ってお金稼がなきゃ」
「ん?ロゼは迷宮に潜るつもりなのか?」
「はい!父からは反対されてたんですけどね。どうせならチャレンジしてみたいです!」
「じゃあ認定試験に合格しないとな」
「へ?認定試験?何ですかそれ?」
ありゃま、どうやらロゼは直ぐに迷宮に潜れると思っていたらしい。
普通の留学生なら直ぐに潜れるが、ロゼの場合は留学生ではないようなので直ぐには潜る事は出来ないだろう。
「ロゼは聖帝国籍だよな?」
「はい。そうらしいです」
「あ~、じゃあ今すぐは無理だぞ」
「え!?どうしてですか!?」
「聖帝国籍の場合、未成年は特別な許可を取らないと迷宮に潜れないのよ」
「そういうこと。詳しく言うとかくかくしかしか…」
エルストライエ侯爵がいたずらっ子のような笑顔でそう言って、俺も詳しく説明をした。
「そんな…推薦も貰わなきゃいけないって…しかもペーパーテストと実技も入ってくるなんて…」
「まぁ、焦らずにやれば?」
「セボリーさんはもう資格を取って迷宮に潜ってるんですか?」
「ああ、中等部に入学して直ぐに取りに行ったな、初等部の頃に推薦貰ったし。この認定証持ってれば色々便利なんだよ。このカードで支払いとか出来るから。まぁ、学園都市内限定だけど」
「あたしは商会で稼ぐようになってから銀行のカードで支払ってるけどね」
「私もこの前銀行のカード作りましたけど支払い時には便利ですよね」
「俺も銀行のカード持ってるけど認定証のばっかり使ってるな」
銀行カードは前世で言うクレジットカードのことで、認定証のカードは所謂デビットカードだ。
銀行のカードは聖帝国のそれなりの規模の店なら何処でも使えるのでとても便利だ。
それとは別に認定証のカードの支払いは学園都市内限定になっている。
そう思うと少し不便かもしれないが、俺は学生なので全く不便していない。
しかもこのカードで支払う事によってポイントや割引も発生するので、普通の銀行カードよりもお得なのだ。
留学生や他国から来た冒険者には銀行は中々カードを発行してくれず、カードを作るために試験を受ける人たちもいるほどである。
まぁ前に説明した大人の事情で取りに行く奴等のほうが多いと思うけどな。
なので俺は認定証のカードのほうを多用している。
「私も支払いは銀行カードね。行きつけの店はツケだけど」
「ツケが許されるほどの信用が無ければ無理ですね」
「でもツケって月末に一気に来るからこんなに買ってたっけって驚くわよ」
エルストライエ侯爵はさらっと言っているが、俺はツケなんて絶対に出来ないわ。
これも信用の違いか格差の違いか。
「でもあなた達の歳でカードを持っていること自体が珍しいわよ。普通は成人して自分で稼ぐようになってからだもの。あなた達は既に自分達で稼いでいるけどね」
「私も早く自分で稼いでカードを手に入れよう」
「カードは色々便利だけど使いすぎると直ぐに残高なくなるから注意しろよ。俺も最初はチビるかと思ったし」
「はい!」
ロゼが鼻息荒く決心したようだ。
「そう思うとうちの国の貴族の子供達って俺達と同じような懐事情だよな、シエルもフェディもそんな感じだったし」
「そういえばフェディなんて入学当時お金が無かったから自分で薬草取りに行ってたしね」
「聖帝国の貴族の人たちって皆質素ですよね。私の国の貴族なんて皆凄い浪費家ですよ」
ユーリがしみじみそう呟く。
確かにジジが精神をすり減らすように面倒を見ているあの馬鹿達は凄かった。
あそこまで行くと引くわ。
「そういえばトリノ王国のあの馬鹿達も凄かったわね」
「でも他国の貴族ではあれが普通なんですよ…私も母国では似たような格好してましたし」
そして今はある意味もっとドギツイ格好をしていらっしゃいますね。
きっと母国の貴族達もびっくりするでしょう。
「聖帝国では貴族は一代貴族が多いからね。知ってるかもしれないけど貴族の家には相続税が無いの。でもね。一代貴族に列せられてその人が倹約家でも、亡くなってその人の次の代が浪費して家が没落するなんて良く聞く話だからね。世襲貴族も相続税は無いけど毎年税を納めなきゃならないから色々シビアになってくるのよ。一応貴族としての見栄は張らないといけないけど、世襲貴族だからって胡坐をかいているわけには行かないわ。まぁ、そんな奴は皆排除されるんだけどね」
流石に見栄は大事らしく必要最低限の見栄を張らないといけないようだ。
そう思うと貴族も色々と大変らしい。
一通り買い物を終えて街中を歩いているとエルストライエ侯爵が突然立ち止まった。
どうやら小腹が空いたらしい。
「ねぇ、お腹空かない?」
「そういえば空きましたね」
「実は私も空いてます」
「なら前にルピシーがお勧めしてたスイーツのお店行って見る?前にユーリと行った店じゃないところ」
「ああ!あのケーキやお菓子だけの店ですね!!」
「あら、良いわね。体も動かしたし甘いものが食べたくなってきたわ」
「あ、甘いものですか!?大好きです!!」
「じゃあ、そこで決定ね」
あのぉ…すんません。俺はパスしてもよろしいでしょうか?
確かに俺も甘いものは結構好きだけど、甘いものだけの店は勘弁して欲しいんだけど…
そう思い俺は忍び足で逃亡を図るがゴンドリアに見つかってしまう。
「あらぁ?ちょっとそこのセボリオン君何処に行くのかしら?」
「………あのぉ……ちょっとお花を摘みに」
「あら、でももうお花ならこんなに美しい花がたくさんいるわよ。逃げようとしてもそうはいかないわ。バツとして奢りなさい」
「なんでじゃあぁぁああ!!ねぇ、お願い解放して!女子4人組で行けばいいじゃん!!」
「だ~め。さ~、行きましょう。皆~セボリーが奢ってくれるって!!」
「え!?本当ですか!?ありがとうございます!」
「やっぱり迷宮に潜ってるとお金もたくさん持ってるんですね!」
「あら、セボリー君は紳士ね」
「「「ゴチになります!!」」」
「誰でも良いから助けてくださーーーーい!!!」
結局エルストライエ侯爵以外の奴等は俺にたかってきた。
こうして俺は行きたくもないスイーツ店に連行された挙句、奢らされる破目になるのであった。