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Public Star~目指せ若隠居への道~  作者: 黛紫水
第四章 新たなる出会いの章
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第八十一話 初めての**(2017.11.28修正)

「あ、あの!その子に触らせてもらえないでしょうか!!」


勝手に酒盛りをしだした2人を商会から追い出した後、打ち合わせを終えた4人はウェルカムスペースに戻ってきた。

そこでいきなりロザリア嬢は俺に公星を触る許可を取って来た。

商会まで歩いている時も公星のことをガン見していたが、どうやらかなり触りたかった様だ。


「俺は別に良いけど…公星、良いか?」

「モッキュー」

「良いってよ」

「やった!」


了承の言葉を聞いてロザリア嬢は公星の前に歩き恐る恐る背中を撫で出す。


「ふわぁ…すっごいモコモコしてる。ねぇ、抱き上げて良い?」

「モッキュ」


公星はロゼの胸辺りまで抱きしめやすいように浮き上がった。


「…モフモフだぁ。あ~可愛い、何この動物。癖になりそう」


蕩けそうな顔をしながらロザリア嬢は公星の頭を撫で回した。


「公星の種族名はピケットと言う動物です。ただ普通のピケットはもっと小さいのですが、公星は俺の使い魔なんです。その影響なのかわかりませんがこんな仕上がりになってます」

「………ピケット?初めて聞きました」

「フェスモデウス聖帝国内ならほぼ何処でも生息している小動物ですよ」

「私は他国で育って、つい最近聖帝国に来たので知りませんでした」

「そうだったんですか」


どうやらロザリア嬢は複雑なお育ちらしい。

普通、24家の親族なら殆どが聖帝国内で生まれ育つのにそうではないのだ。

エルストライエ侯爵配のベネディクトさんがポロリと零した12年ぶりと言う言葉も気になったが、藪をつついて蛇が出るのは嫌なので流しておく。


「ああ~幸せ………あ!そうだ!!」


公星を抱きながらとても幸せそうな顔をしているロザリア嬢が、ふと俺のほうを向き勢い良く口を開いた。


「セボリオンさん!これから私はあなたの後輩になるんですから敬語で喋らなくても結構ですよ。私のこともロゼと呼んでください」

「そうかわかった。俺も畏まった感じが嫌いだし、ロゼも敬語を使わなくて良いよ。俺のことはセボリーと呼んでくれ」

「あたしの事もゴンドリアで良いわよ」

「私もユーリと呼んでください。それと私が敬語なのは癖みたいなものなので気にしなくても良いですよ」

「はい!宜しくお願いします!」


バターーーン


新しい出会いに4人で笑いあったその瞬間、ドアが勢い良く開かれた。


「ただいまーーーー!!!」


誰か言うまでも無く奴である。


「おい、お前。もうちょっと静かに入って来いって何回も言ってるよな。何回言ったら理解できるの?それともしないの?」

「まぁ、良いじゃねーかそんなこと!!」

「良くねーよ」

「セボリーは細かす…って!あーーーーーー!!あの時の子だ!!」


ルピシーはいつもの大声で叫び、ロゼを指差した。

何?こいつら知り合いなの?接点は何処よ?


「あ!あの時、串焼きをくれた人だ!!確か……そうだ!食べ歩きの貴公子!」

「「「ブフォ!!!」」」


俺とゴンドリアとユーリがあまりの不意打ち的発言で同時に噴出してしまった。


「いやぁ、照れるなぁ」


確かこいつの本のタイトルにそんな感じの名前が書いてあったのは覚えてるが、まさか直接聞くとは思わなかったわ。

しかもこいつ何故か受け入れてるし!

俺がそんな渾名付けられたら即山に篭ってるのに、こいつのメンタルときたら一体どうなってるんだ!


「ルピシー、ロゼの事知ってるのか?」

「えーとだな、昨日行きつけの串焼き屋で買い食いしてたら道を聞かれてな。物凄く物欲しそうな目で串焼きを見てたから一本やったんだよ」

「「「な!なんだってぇぇぇえ!!」」

「物欲しそうな目なんてしてないですよ!!」


また俺達が一斉にハモった。

ロゼが何かを叫んでいたような気がするが全く耳に入ってこない。

だってそうだろう、こいつが、ルピシーが知らない奴に食い物をやったんだぞ!

昔から公星とおやつの取り合いをしているあのルピシーがだぞ!!


「なんだって!?お前が食い物を見ず知らずの奴にやっただって!!?お前熱でもあるのか!?」

「そんな…あんなに食い意地の張ってる人が食べ物をあげるなんて……そうか!悪い物でも食べたんですね」

「信じられない……あんた今からでも遅くないわ。ちゃんと病院に行って精密検査受けてきなさい。大丈夫よ、ちゃんと検査費も経費で落としておくから。それに着るものも入院の準備もこっちでやっておくからね、心配しなくて良いわよ…」

「そうだぞ!ちゃんと病院に行って検査しろ!お前が病気になったことなんて一回も無いだろう!昔から健康だった奴が病気になるとやばいんだぞ!馬鹿は馬鹿なりに病気に罹れるんだな…兎に角一回病院に行っておけ」

「お前等!それ絶対言うと思ったぞ!!お前等は俺のことをなんて思ってるんだよ!!!」

「「「食い意地の張った馬鹿」」」

「お前等嫌いだ!!!」

「あはははははは!!」


ロゼが俺達の毎度おなじみとなった天丼に大笑いしている。

公星を抱えながら蹲るように笑っているので、相当ツボに嵌ったらしい。


「あ~おかしい。皆さん面白いですね。私も学園に入学したらこんな友達できるかな?」

「出来るかなじゃなくて作るのよ。それにもうあたし達とロゼは友達よ」

「え!?」

「ねぇ、そうよね?」


ゴンドリアの問いかけに俺たちは笑顔で頷いた。

俺達が頷いた瞬間、何故かロゼが涙目になる。


「わ、私…初めて友達が出来ました…」

「「「「「え!!?」」」」」


ずっと黙って見ていたエルストライエ侯爵も驚いたようで、目を見開いて驚いている。


「ずっとお父さんと各地を転々としてたから友達なんて出来なかったし、出来そうになっても直ぐに違う場所に移ってしまったから今まで友達と言える友達なんて誰ひとりいなかったんです…」

「あらまぁ」

「そうだったんですか…」


あ~成程。

そういえば前世でも親の転勤が多すぎて、ずっと渡り鳥みたいに引っ越ししている同級生がいたわ。

そいつ自体はもの凄く良い奴だったんだが、長くても半年も同じ場所に留まれないので色々と大変そうだったな。

しかも子供が携帯を持てないような時代だったので「絶対手紙書くね」と言われて送られては来るが一回こっきりだったとか言ってたし、どうやらロゼはそんな育ち方をしたらしい。


「それに同年代の女の子と一緒にお喋りする事はあったんですけど、男の子の場合お父さんがいつも邪魔して一緒に外で遊んだりとかはできなくて…」

「Oh…」


なんと言う不憫さか…

こんな俺でさえ友達と呼べる奴がいるのに、色んな環境と過保護すぎる保護者のせいで友達ができる機会を全て潰されてきたようだ。

エルストライエ侯爵も涙目になっている。

い、いかん!ココは空気を変えなくては!


「じゃあ私達が最初の友達ですね!」


ユーリ良く言った。流石は空気が読める女だ!!(注:男)


「そうだな!!俺達がお前の最初の友達だ!」

「また賑やかになるわね」

「個性的な奴ばかりだけどよろしくな」

「お前が言うんじゃねーよ!セボリーが一番変じゃねーか!!」

「違う!俺が一番のノーマルであり常識人だ!!」

「「「それは無い(です)」」」

「誰がなんと言おうと常識人だ!!」


何で皆分ってくれないんだ、絶対この中じゃ俺が一番ノーマルだろうが!!

え?何?キコエマセーン。


「話を聞いて最初はグスタフに任せたのは間違いだったかと思ったけど…友達が出来てよかったわね、ロゼ」

「はい!」


今まで話に参加していなかったエルストライエ侯爵が安堵の表情を浮かべてロゼに話しかけた。

それはそうだろう、自分の大事な孫娘に友達がいないと聞けば誰だってそういう反応になるわな。


「んじゃ、話もまとまったし友達出来た祝いでどっかに食いに行こうぜ!ヤンとフェディはいないけど、シエルは自分の部屋にいるみたいだから呼んでくるわ」

「え?シエルいるの?」

「ああ、ちゃんとシエルの気配がするぞ」

「お前は本当に人間か!!そんな気配なんて全くわからないっつーの!!」


ルピシーがシエルを呼びに行った2分後、本当にシエルが出てきましたよ。

どうやら研究に没頭しすぎて周りの音が聞こえなかったらしい。

ギークに引き篭もっていても相変わらず輝くイケメンですこと。

ロゼも小さく「うわぁ…超絶イケメンだ…将来が楽しみ」と呟いているしなコンチクショー。


「あれ?エルストライエ侯爵様じゃないですか。お久しぶりでございます。お元気そうで何よりです」

「本当に久しぶりね。シエル君に最後に会ったのは6~7年ほど前だったかしら?」

「そうですね、僕が学園入学前だったのでそのくらいです」

「この子の事を紹介するわ。私の孫娘のロザリアよ。今度学園に入学するので制服製作依頼で立ち寄らせてもらったの」

「は、初めまして!ロザリア・エルローズ・サンティアス・レンネルフォッシュです!ロゼと呼んでください!」


ロゼは輝くイケメンを目の前にして顔が赤くなっている。


「こちらこそ初めまして。僕はこのパブリックスター商会の会頭で、エルトウェリオン公爵家長男のアルカンシエル・ランスロー・ジャン・クラインドール・エルドラド・デ・エルトウェリオンと申します。まぁ、実質的な会頭はそっちのセボリオンなんですけどね。シエルとお呼び下さい」

「よ、よ、宜しくお願いします!」

「シエル、ロゼはもう俺達の友達だからお堅い口調は無しだぜ」

「あ、そうなんだ」

「この子聖帝国に来たばかりで分らない事だらけだと思うから良かったら助けてあげて頂戴」

「はい、分りました」


シエルが笑顔で返すとロゼは顔を赤くさせた。


「良し!自己紹介も終わった事だし食いに行こうぜ!」

「そうね、そうしましょう」

「そういえば打ち合わせでお昼もお茶とお茶菓子以外何も食べてませんでしたね。お腹が空きました」

「エルストライエ侯爵様もご一緒にどうですか?」

「そうね。それじゃあ言葉に甘えさせてもらうわ」

「旦那さんは放っておいてよろしいんですか?」

「きっとセディとお酒飲んで馬鹿騒ぎしている事だろうから放っておくわ。そのうちかえって来るでしょう」


世襲貴族が雑多な店で飲み食いする姿が想像できないわ…

まぁ、その世襲貴族の子息が普通に汚い店で飲み食いする姿は何回も見てるがな。


「モッキュー!」

「え!?何?どうしたの?」

「ああ、こいつも一緒に連れて行けって言ってるんだよ」


今までずっとロゼの腕の中で抱かれていた公星が騒ぎ出し、自分も連れて行けと鳴き始めた。


「え?でも人間の食べるもの与えて大丈夫なの?」

「ああ、心配するな。こいつは雑食を通り越して悪食だからな。文字通り何でも食う」

「そうなんだ。じゃあ一緒に行こうか」

「モキュ~♪」

「ご飯楽しみだね~」

「モッキュ~♪」

「あ!!」


皆揃って商会を出て行こうとした時、ロゼが大声で叫んだ。


「そういえば…」

「そういえば?」

「ロゼ、どうしたんだ?早く飯食いに行こうぜ!飯は待っててくれないぜ!!」

「貴公子さんの名前って何て言うんですか?」


その言葉にエルストライエ侯爵とシエル以外がずっこけた。


そういえばルピシーの自己紹介してなかったわ。

ルピシーの方は自然にロゼの名前言ってたからな。


「この子は学園のテストで低空飛行の記録を大幅に更新し続けているレコードホルダーのバカセウス君ですよ」

「違げーよ!!ルピセウスだ!ルピセウス・サンティアス!!ルピシーと呼んでくれ、よろしくなロゼ!!」

「はい!」

「モッキュー!!」

「はいはい。こいつはピケットの公星と言う謎の生物だ。勝手に餌を上げないでください」

「モッキュー!モキュキュ!」


その後食事も終わり家路へと帰る途中、繁華街のゴミ捨て場に見たことのある顔の男が若干2名酔いつぶれ寝ていたのを目撃した。

静かに歩み寄ったエルストライエ侯爵が、片方の男の顔に懐から出した万年筆で落書きをしていたので、俺達ももう一人の男の顔に落書きをした。

ちょっと溜飲が下がった気がした。

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