第七十九話 初遭遇(2017.10.3修正)
セボリーは朝早くから重い足を引き摺ってアルティア司教座大聖堂まで足を運んでいた。
「あ~もう既に帰りたい…あのおっさん何考えて俺のこと呼び出してくれてんだよ…」
「モキュ!モキュキュ!!」
「はいはい、わかりましたよ。早く用事済ませてお前の無限収納鞄作ってやるからそう焦るなよ。ハァ…マジで帰りたい…って言うかさ、あのおっさん俺がこの休みの間に何処かに出かけるって思わなかったわけ?俺が引き篭もり生活始めるって確信があったのか?」
そう言ってセボリーは聖堂の警備兵に事情を話し、警備兵も既に話が通っていたようでセボリーをプライベートエリアへと招き入れる。
身元もしっかりしており一回きているので案内役無しで司教座へと一人と1匹で歩いていった。
コンコンコン
「入れ」
あのおっさんの声が聞こえてくる。
久しぶりに聞くとあの時のイライラがまた再発してくるような気がした。
「たのもー!!」
ガチャギィィイイイ
ドアを開けるとそこには副院長と見知らぬ3人の男女がいた。
「じゃあ、顔は見せたのでお暇しま~す。ごきげんよう」
「こら待たんか!!」
ドアを開けると帰りたい気持ちがマックスに達したので、ドアを閉めようとすると副院長が全速力で止めに入ってきた。
「ドアを開けて入りもせずに直ぐにドアを閉めて帰る奴があるか!!」
「いるじゃんここに!って言うかうっさいわぁ!いきなり呼び出しておいて何言ってるんですか!しかも手紙の内容が『2日以内に来い』ってなんやねん!!もっと文明的な手紙を書けや!!俺の研究で引き篭もる気満々の気持ちを返せ!!手紙に従って足を運んだだけでも偉いと思ってくださいよ!!それに公星だってこれから俺に無限収納鞄を作ってもらえるってワクワクしてたのにその気持ちを踏みにじったのは副院長ですよ!」
「モキュキュ!!!」
「ほら!公星だってこんなに怒っていますよ!!」
どうやら公星もご立腹らしい。
短い腕を組みつつ副院長に抗議の声を上げている。
「そうか、では菓子をやるから機嫌を直せ」
「モッキュ~~♪」
「おい!お前!!そんな安いもので買収されるんじゃねーよ!!根性見せろよ!お前のピケットとしての矜持はどこいった!!」
「良いから早く入れ」
渋々司教座の中へ入ると先程から俺と副院長のやりとりを面白そうに見ていた人たちを見た。
1人は俺と同年代くらいの少女で、残りは副院長と同じくらいの男女であった。
「うわぁでっかいハムスターだ……(ボソ)」
少女が公星をハムスターと呟くのを聞いた。
この世界ではハムスターではなくピケットだ、それをハムスターと言うのならこの子は転生者かもしれない。
俺はその呟きを気付かなかった振りをしてやり過ごした。
「まずは紹介する。この二人はエルストライエ侯爵夫妻で、隣の子は2人の孫だ」
「え!!?エルストライエ侯爵夫妻!!?」
「現エルストライエ侯爵ローレンシア・オフィーリア・ユージェニー・アリステッラ・フォン・ラ・ゴルドニアス・エルストライエよ。噂はかねがね聞いているわ」
「どんな噂なのか全く聞きたくないのですが宜しくお願いします。セボリオン・サンティアスです」
「その夫のベネディクト・ザクセン・ド・サンティアス・エルストライエだ。呼び出してすまなかったな」
「いえ、お気になさらないでください。諸悪の根源はあのおっさんですから」
「おい、誰がおっさんだ。グレンみたいな事言いおって…」
副院長が隣で何かを言っているけど無視無視。
シエルが現24家当主で女性当主が何人かいると言っていたが、まさか会うとは思わなかった。
まぁ、あのお方の手紙の件で少しは覚悟していたがな……
エルストライエ侯爵は綺麗な水色の髪の毛に蜂蜜色の瞳をした綺麗なご夫人だった。
旦那さんの方は雰囲気としてエルドラド大公に少し似ているが茶色い髪の毛に同じ色の瞳だ。
「ロザリア・エルローズ・サンティアス・レンネルフォッシュです。この度中等部の魔科に入学する事になりました。態々お呼び立てして申し訳ございません、実はセボリオンさんをお呼びしたのは私の制服の件なんです」
制服かと思いながら少女の姿を見ると、銀に近い灰色の髪の毛にエルストライエ侯爵と同じ蜂蜜色の瞳をしていた。
多分この子は転生者なのだろう、そうでなければ先程の言葉は出てこない。
俺は転生者と隠すつもりは無いが、向こうから言ってこない限り前世の話を出さないと決めた。
まぁ、もしかしたら喋り方や雰囲気でばれる可能性もあるがな…
「制服?つまりうちの商会の服飾部門メゾン・ド・リアードに依頼と言うことでしょうか?」
「ああ、そうだ。精霊糸を使った制服が良いらしくてな。デザインも入ってくるのならお前のところが良かろうと依頼するために呼び出したんだ」
それならば手紙でそう書けや!!採寸とかがあるんだから男の俺じゃ出来ないんだよ!
ゴンドリアも男だがあれは客から完全に男と思われていないし、男と知っていても何故か文句も言われないから問題無しだ。
ゴンドリアも役得とか言いながら採寸してるし…
お巡りさんこっちです。
「それなら最初からそう書いてくださいよ。ユーリとゴンドリアも連れて来たのに」
「ユーリとゴンドリアは忙しいと思ってな。今制服作りでピークの時期だろう」
「俺は忙しいとは思わなかったんかい!!」
「どうせお前の事だからな、迷宮か部屋で引き篭もって何かやっているとしか思わなかった」
「うっせーよ!!引き篭もってて悪かったな!!」
当たっているところがよりむかつくわ。
しかし制服の製作依頼とは…こんな遅い時期に頼むほうが珍しいぞ。
まぁ色々事情はあるんだろうから聞かないけどな。
「確かに今は制服製作受注のピーク時ですけど、もう終わりの時期ですから余裕はあると思いますよ」
「おお!そうか!」
「デザインもユーリに任せて心配ないと思います。ユーリは依頼者の要望を聞いて一点物で必ず似合うデザインの物を作るの得意ですからね。ゴンドリアも着る子が可愛い女の子と聞けばより一層張り切るでしょう」
「ん?お前もデザインするんじゃなかったのか?」
「俺はもうデザイナーとしての役割はユーリに任せた身です。シエルと一緒に経営面で指揮を執っていくつもりです」
商売人としての仕様にチェンジして事務的に説明していく。
「料金は人それぞれ違いますが、オプションを付けると上限に切りがありません。費用の心配が要らないのでしたら関係ないんですがね。うちの商会はオプションとしては護符が有名ですが、普通の花飾りやレースなども取り扱っていますのでご要望があればどうぞ」
少女は考えるように目を瞑った。
そこに副院長とエルストライエ侯爵夫妻が口を開く。
「料金はグスタフに貰っているから心配するな」
「もし足りなかったら出すわよ」
「ロゼ。心配せずに要望を言っておけ、これから数年間自分で着るものなのだからな」
「はい、わかりました。でもどんなデザインかは今は決められないのでさっき言っていた護符でしたか?それの説明をお願いします」
少女は決心したかのように俺に話しかけてきた。
「護符とは装着者の能力を補助増幅する魔道具の事です。護符は様々な効果があり、違う効果のある護符を重ね付け出来ますが同じ効果の護符を重ね付けする事は出来ません。もし重ね付けすれば効果の高い物しか反映されないので非効率です。護符自体にもデザインがあるのでアクセサリー感覚で選ぶのもお勧めいたします」
「つまりたくさん付けても効果は変わり無いと言う事ですね」
「はい。そうです。どういたしますか?今日だったらデザイナーと服飾部門の責任者がいますので商会で直接承る事が出来ますが」
少女が再び侯爵夫妻を見ると侯爵夫妻が頷く。
「そうさせて貰いなさい」
「はい」
俺は膳は急げと少女とエルストライエ侯爵夫妻を商会に案内するために町中を歩いている。
何故か副院長も一緒に付いてきたがな……
「なんで副院長も一緒に来るんですか…いやぁ痴漢!変態!!きっと幼い子の着替えをを楽しむんですね!!」
「何!!?それは本当か!!お前は死んだほうが良いぞ!!」
「違うわ!!私は一応この子の後見人だからだ!べネックも乗るでないわ!!」
「副院長って一応司教なんだから忙しいのに来る必要ないだろうが…彼女の祖父母もいるんだからさぁ…」
「大丈夫よ。この2人には口を挟ませないようにするから。私とロゼ、服飾責任者の子とデザイナーの子だけで話し合うわ。料金も服飾責任者の子と相談すれば良いんでしょ?」
「はい。それで結構です」
完全に省かれる事が決定した2人組みは肩を下ろし項垂れながら付いてくる。
「とりあえずお二人は事務所のウェルカムスペースでお茶でも飲んで置いてください。騒いだり喧嘩しだしたら即追い出すので」
「おい、私達は依頼者だぞ」
「そうじゃそうじゃ!」
「実質的な依頼者ってエルストライエ侯爵様ですよね?」
「「…………」」
「それに男が女の集まりに口を出すと酷い眼に会いますよ」
まぁ、うちのメンバーは皆男だけど。
こうして俺は自分以外の転生者に初めて会うこととなった。