第七十八話 手紙二(2017.9.25修正)
俺は今、商会事務所の自分の部屋で引き篭もり生活を始めようと準備を整えていた。
「さ~ってと。引き篭もって研究でもしますかね。公星、暇なら町で過ごしたりしていいぞ」
「モッキュ~」
公星は首を横に振って「行かない」と意思表示を示した。
いつもなら俺を放置して町へと繰り出すのだが、今日に限って何故か首を縦に振らない。
「ん、なんだ一緒にいるのか?おやつはやらないぞ」
「モキュキュ」
今度は首を縦に振っておやつもいらないと言い出す(言ってないけど)。
な…なんだと!あの公星がおやつを強請らないだと!!どういうことだ!!!
これは明日空から副院長が降ってきてもおかしくないぞ!!!
いや…マジで降って来られても困るんだけどね…
「え?マジ?いらないってか?ってお前!俺の引き出しにいつの間にお菓子溜め込んでやがったんだよ!!どおりでこの頃俺の机の周辺がなにやら甘い香に包まれてたんだな!謎が解明されたわ!!つーかそのお菓子は何処で手に入れたんだよ!そのうち虫が沸くから入れるなよ!今度お前専用のお菓子箱作ってやるから今は俺の引き出しを明け渡せ!!」
「モキュキュ~」
俺がヒートアップする中、公星は俺の腰辺りまで浮き上がり俺の無限収納鞄をぽんぽんと叩いた。
「ぁあん?無限収納鞄が欲しいってか?お前絶対それお菓子か食料しか入れないんだからいらないだろうが!」
「モッキュー!モキュキュ!モキュ!モキュキュキュキュー!!」
「だぁあーー!お前はスーパーで駄々をこねる子供か!!分った!分りました!作ればいいんでしょ!持ってけドロボー!!」
はぁ…公星の駄々でこいつサイズの無限収納鞄を作らなきゃならなくなったわ…
大体こいつにそんなものいるか?どうやって持つつもりなんだよ。
まずデザインから決めなきゃいけないし……メンドクセェ……
「よっこらしょっと…さーてと、んでお前は何かリクエストはあるのか?」
「モキュキュキュ~」
「うん。全然分らない」
「モキュー!!モキュキュ」
「え!?」
紙を取り机の上に広げた状態で公星のリクエストを聞くが、何を言っているのかさっぱり分らない。
分らないので完全に俺好みで作ろうかと思った瞬間、公星が自分の魔力を使って宙に文字を描き出した。
「………何気に高等技術使ってるな…何々『格好良くて可愛く且つ繊細で一杯入る素敵な鞄が欲しい』………おい……こんなの出来るはずねーだろうがぁあーー!!お前は欲張りなバブル期のOLか!!コノヤロー!!!」
「モッキュー!!!」
公星が宙に文字を描き出した技術、これって実はかなりの高等技術だ。
指を使って描き出すものではなく、判子の様にスタンプ状で宙に描き出しているのだ。
ある程度の魔力がなければできないし、魔力を具現化し一瞬でその形にする想像力と、それをそのままの形で固定する精神力、そして何よりもその全てを同時に行う緻密な技術が必要だからだ。
この技術は指で直接的に描く方法とは一線を画している技術であり、習得難易度は一気に跳ね上がる。
実はこの技術こそ無詠唱魔法の基本中の基本であり極意でもあるのだがやってみると非常に難しい。
アライアス公爵家次男のエロいウィルブラインさん略してエロインさんは普通にそれを何個も重ねて陣と言うものを作っていたが、普通の魔法に携わる者であれが出来る者はかなり少ない。
かく言う俺もこの技術の初歩をつい最近身に付けたばっかりだったりする。
エロインさんに指導を受けて試すが、最初のうちは指で文字を書く事すら儘ならなかったのだからその難易度が計り知れるだろう。
ついでに俺がウィルさんの事をエロインさんと呼ぶ理由はそのうち話そうと思う。
イケメンなリア充は滅べ!!何が女にモテないだ!!嘘つきめが!!!
全国の喪男にDOGEZAで謝ってから全裸で迷宮攻略でもしてろや!
あ、すでに全裸でしたね。すんまそん。
話は逸れたが、そういうことで公星がこの技術を習得していた事に俺はかなり驚いたのだ。
こいつ俺が必死になってエロインさんに教えを請うている時に、夢中になって食べ物を貪り食っていた光景しか思い出せないので余計にイライラする。
こいつもしかして俺より魔法の才能あるんじゃないか?理不尽や…
コンコンコン
「ん?はーい。どうぞ~」
俺が悶々と考え事をしている時に俺の部屋の扉からノックの音が聞こえてきた。
「入るわよ」
扉が開くとゴンドリアがなにやら封筒を手に持ちながら入室してくる。
「おう。どうしたゴンドリア」
「副院長からセボリー宛にお手紙が届いたわよ」
「無視して捨てて構いません。と言うか捨てろ」
さっき副院長の名前を出したのが良くなかったのかあのおっさんから手紙が届きやがった…
あのおっさん俺に手紙ってどんな用事なんだよ。
つーか今まで俺宛に届いた手紙って全てトラウマでしかないんだけど…
「そういう訳には行かないでしょ。手紙を読まないで無視してたらあの副院長の事よ、絶対にセボリーを見つけ出して拉致拘束するに決まってるわ。それにもし本当に大事な事が書かれていたらそれもそれで事よ、面倒な事になる前に早く用事を済ましておきなさい。諦めが肝心よ」
「それは無いと言えないのが嫌だわ…はぁ…しゃーない読むか…」
ペーパーナイフで封筒の口を開けて紙を開くとそこにはとてもシンプルな文章が書かれていた。
『2日以内に来い』
グシャバリィビリビリビリビリビリ
「モキュ!(ムシャムシャ)」
俺が破いた手紙を公星が貪り食っている。
お前は本当に何処へ向かってるんだ……
「ざっけんなーーーーーーー!!書くならもっと説明を入れろ説明を!!2日以内に来いってなんやねん!!TAKESHI GODAだってもっと文明的な文章を書くわ!!」
「そのタケーシー・ゴーダってのは誰だか分らないけど、あの人セボリーに対する扱いがどんどんと乱雑になってくるわよね。それだけ遠慮が無くなるほどの仲って捉え方もあるけど」
「そんな捉え方せんでもええわ!!」
2日以内と言うことは今日明日中にアルティア司教座大聖堂に行かなくちゃ行けないってことか…
メンドクセェ…
引き篭もろうと準備を整えてた時なのに…
俺はあの強制的に聖職者名簿に名前を載せられた件以来あのおっさんに会っていない。
俺を守るためと言うことはあるが、強引に説明もなくやった副院長にかなり頭にきていたのだ。
ついでにこの件はアルグムンの大司教の耳にも伝わったらしく、副院長は大分大司教に怒られていたと後にピエトロ先生から聞くまで怒りは収まらなかったほどである。
あ、でもまだ完全には怒りぬけてないよ。
「あ~~~。行きたくねぇ~」
「諦めなさい。ところでそれは何を描いているのかしら?」
「ああ、公星が無限収納鞄が欲しいって言うから公星に会うサイズとデザインを決めてたんだが………こいつ無理難題吹っかけてきやがってさ」
「モキュ!?モキュキュキュ!!」
「うるせー!あんな矛盾だらけのリクエスト無理に決まってるだろうが!!」
「ふ~ん。じゃあユーリに任せちゃえば」
「ふむ……そうだな。そういう時のためのデザイナーだよな。良し!ユーリに丸投げすることに決定しました!」
「モキュ!?モキュキュキュキュ!!モッキュー!!」
「勿論作るのは俺だから安心しろ。あ!そうだ!どうせだから皆の無限収納鞄も魔導陣で作り直すか?でもその場合どんな物が出来上がるのかすっごい不安だな……」
「そう言えばユーリって無限収納鞄持ってなかったわよね?ユーリ自身も言わないから忘れてたわ」
確かにユーリに無限収納鞄を作ってなかったわ。
ユーリに無限収納鞄のデザイン任せれば自分好みのデザイン描いて俺に渡してくれるだろう。
「あ~~……そういえばそうだったな。んじゃあユーリにも無限収納鞄作るか。つーかなんで今まで作らなかったのか不思議だけどな」
「色々あったからじゃない?」
「そうだな」
「モッキューーーーー!!」
その次の日、俺は渋々副院長の手紙に従ってアルティア司教座大聖堂へと赴いた。